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豚の丸焼き

「お待たせいたしました……」


「おまちどうさまで~す」


「本日のお夕飯の用意ができましたぁ」


「おぉ、待ってました……って、なぜにヒカリもいっしょなの?」


「うふふふ、それはねぇ~?」


「食べてみればわかるのだよっ!」


「食べてみればって、ヒカリも一緒に食べるんだろ? 俺だけ特別メニューだったりするのか?」


「はい、ラン様。ラン様のほうが、一品だけ多いのです……」


 そういうと、ヒカリはなぜかモジモジする。

何かあるのだろうか?


「なぜに一品? たいしてかわらないと思うのだが……?」


「いえ、まぁ……それはそうなのですが」


「にっしっし、ラン君はプレイボーイだねぇ」


「その一品に、どれだけの価値があると思っているのかねぇ?」


 俺の反応に対し、二人がにやにやと妙な笑いを浮かべる。


「…………その一品以外は、普通のメニューなんだよな? クーたちが作ったんだろ?」


「そのとおりですよ」


「その追加の一品以外は、私たちが作りましたよ?」


「……ってことはもしかして?」


 もしかするのだろうか?


「その追加の一品って、ヒカリが作ってくれた?」


「はい……ラン様。私が作りました。お口に合えばよろしいのですが……」


「まじかっ!? ってことは、初めての手作り料理になるな。今までは店の物しか食べてなかったから、手料理なんて久しぶりだよ。っていうか、女性から手料理を振る舞われるのなんて、家族以外では初めてだよっ! やばい、まじでうれしいっ! ありがとうっ!」


 俺はおもわずヒカリに抱きついてしまう。


「ラ、ラン様……」


「ずるーいっ!」


「私たちのだって、手料理なんだけどっ!?」


 ヒカリに抱きついた俺を、二人がひきはがそうとする。


「そう言われると、確かにそうだなっ! 二人ともありがとうっ!」


 俺は今度は二人をまとめて抱きしめる。


「わわわっ! お盆持ってなくて良かったし」


「配膳台ごと外に置いておいて正解だったわ」


「三人ともありがとうっ! 本当にうれしいよっ!」


 俺は二人からはなれると、その場でまわったりはねたり手をたたいたりする。


「はしゃぎすぎじゃない?」


「踊り出すほどうれしいんだぁ?」


「ラン様……」


 三人の視線に気づき、恥ずかしくなった俺は、あわてて座布団の上に座る。


「おほんっ、あーあー、おほんっ。……それで? 今日のメニューはなんだい?」


 きわめて平静を装う。

三人は気を使ってくれたようで、変な踊りにはふれないでくれた。


「今日はお肉が中心のメニューですよ」


「メインはハンバーグになります」


「ハンバーグか、楽しみだなっ」


「わ、私が作ったものもお肉料理ですよっ!」


「そうなのか? ……ヒカリは何を作ったんだ?」



「……です」


「聞こえなかったんだが……」


「……きです」


「ごめん。もう一度お願いできるか?」


「丸焼きですっ!!」


「丸焼きか。何の肉を使ったんだ?」


「豚ですっ!! 豚の丸焼きですっ!!」


「定番だな。うまくできたのか?」


「はいっ! もちろんです! おいしくできましたっ!!」


「そうか。声が小さかったのはなんでだ? 恥ずかしかったのか?」


「……はい」


「どこが恥ずかしいんだ?」


「えっと、その……。二人と比べたら、料理っぽくないじゃないですか……」


「そうか?」


「そうは思わないのですか?」


「だって……なぁ? 丸焼きってのは、それなりの手間暇がかかっているものだろ? むしろ、火加減とか色々大変だったろ?」


「いえ、その……。はい……」


「それを笑ったりなんてしないさ」


「はい、ラン様……」


「それで? 肝心の料理はどこにあるんだ? 見当たらないのだが……?」


「それはねぇ……?」


「宴会場に用意してあるからだよっ!」


「宴会場……?」


「そうだよっ! 宴会場っ」


「さすがに豚の丸焼きを、ここには持ってこれないですよ……」


「もしかして、丸々一頭焼いたのか!?」


「はい……焼いちゃいました」


「食べきれるのか……?」


「大丈夫ですよラン様っ。子豚なので、大きさはそこまでではないです」


「そうなのか?」


「大丈夫だよ、ラン君っ」


「食べきれなかったら、明日食べればいいよっ」


「できるのか?」


「もちろんだよっ」


「保管箱に入れておくからね」


「それなら平気だな。安心したぜ」


「それじゃあラン君?」


「案内するから、ついてきてね?」


「わかった」


「ヒカリちゃんも、行くよ?」


「冷めちゃう前にね?」


「はい、わかりました」


「それではそれでは」


「れっつご~」


 俺は二人に連れられて、ヒカリと一緒に宴会場に向かった。


・・・

・・


「ここがそうだよっ!」


「入って入って?」


「おじゃまします……うぉっ、広いなっ!」


「そこの料理が並んでいるところに座って?」


「今豚の丸焼きを持ってくるね?」


「あぁ、わかった」


「それじゃあね?」


「食べちゃっててね?」


「食べてしまっていていいのか?」


「どうぞどうぞ」


「冷めちゃったらまずくなるもの」


「「それじゃ、行ってくるね?」」


 そう言うと、二人は出て行った。


「さてと……ヒカリ、食べようか?」


「はい、ラン様。いただきましょう」


 俺たちは、食事を始めた。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「はぁ……美味しかった。結局丸焼きも全部食べられたな……」


 食べ始めてから数分も経たないうちに、クーとキッカが豚の丸焼きを持ってきた。

子豚というだけあってそんなに大きくはなかったが、やはり重そうだった。

その後、二人も食べるのに加わり四人で食事をした。

最初から四人分用意されていたらしく、中居としてではなく仲間として過ごすことを決めていたそうだった。


「そうですね……おいしかったです。……お腹いっぱいです」


「たべたたべたぁ……」


「はふぅだよ……」


「それで、このあとはどうする? そろそろ風呂も入れるよな?」


「そうですねぇ……。やはり、お風呂に入るのがよろしいのではないでしょうか?」


「今日のお風呂はピッカピカだよぉ……」


「頑張って掃除したからねぇ……」


「そうなのか……。だったら、風呂をいただこうかな?」


「お背中をお流しします……」


「あ、わたしもわたしもっ」


「わたしたちもやるよっ!」


「いや、今日は三人ともいいよ。一人で入らせてくれ……」


「……そうですか、わかりました。……少し残念ですね」


「「ぶーぶー」」


「一人で少し考えたいんだ。三人は三人で、仲良く入って仲を深めてくれ……」


「わかりました」


「「はーい」」


「さてっ、風呂に行きますかっ」


「いってらっしゃ~い」


「私たちは片付けてから入るよっ」


「いってらっしゃいませ……」


「それじゃ、あた後でな?」


 俺は、一人で風呂に向かった。


・・・

・・


「ふぃ……気持ちいいぜ。やはり風呂は心の洗濯だけあるぜぇ……」


 俺は体を洗ってから湯船に浸かり、寝転がった。


「三人ともいいやつだし、嬉しいんだが……。たまには一人になりたい時もあるんだよなぁ……」


 もともと現実世界では、複数の女の人とこんなに長く接することなんてなかったから、少し疲れてしまった。


「ふはぁ……まったく、こんな俺に三人もなんてなぁ……」


 俺の顔は、ランダムで決まった割には整っていると思う。

だがしかし……ヒカリはともかくクーとキッカまで俺に好意を寄せてくれるなんて、どうしても少し疑ってしまう。

俺はそんなに魅力的なのだろうか?


「だがしかし、現実は三人とも好意を寄せてくれている。俺がしっかりするしかないんだよなぁ……」


 やはり慣れていないので、どうしても弱気になってしまう。

だがしかし、俺がしっかりとしなければいけないというのに変わりはない。


「それに……タイムリミットが決まったからな。明日からは弱音も吐いていられない……」


 三日以内に塔を全制覇する。

かなり無謀だと思われることだが、やると決めたからにはやりきって見せなければ気がすまない。


「……よしっ、反省終了! 弱気な自分にさよならってな!」


 俺は湯船から立ち上がり、顔を叩く。


「だが、もう少し浸かっていよう。風呂は気持ちいいからな……。あと十分ほどっと」


 俺は再び湯船につかり、寝転ぶ。


「ふんふふんふんふんふん…………」


 俺は風呂を楽しんだ。

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