わかっているの。
わかっていた。
私が狂ってたことくらい。
薄暗い路地裏にお似合いだった
あのころの私は腐ってた。
けどただ一つこの世界で
一番大切なものに出会った。
アナタは狂っていた。
アナタの瞳が私を映し出した瞬間
私はアナタを知ったんだ。
わかっている。
こんな思い吐き気がするほど
好きじゃない。けど止まらないんだ。
ただアナタは私を狂わせる。
狂気
私に両親はいない。
母親は私を産んだと同時に死んだ。
父親は私を育てるのを放棄し中学三年生の時アルコール中毒で急死。
狂った父親が最後に私にはなった
言葉
母さんを返せ
父親の葬式の時
遺体を見て涙なんか流れなかった。
あの人は私より母が大事だったから
最初から私を必要とはしてなかった。
ただただ苦痛だったんだろう、
3歳の時くれた黄色い名前入りの
靴を切り刻んで棺桶の中に投げた。
いらないなら
最初からいらないって言ってよ。
親戚が私に励ましの言葉を
かける。何も知らないんだ、
あの人が私に何をしたかも。
「もっと早く死んでくれたら
良かったのに。」
無表情でそう呟く私に周りは
嫌悪感を抱いた。
親戚は私を誰も受け入れてくれず
義務教育を終えないまま
私は腐りきった社会の路地裏で
狂ったように自由に遊んだ。
ダサい制服のスカートを膝上まであげて
シャツはグシャグシャに
乱れきって泥まみれの黒いブーツを
かつかつとならした。
いつだってブレザーの内ポケットには
タバコがあって気がつけば内ポケットに
手を入れておいしくもないタバコを
すった。イヤホンにはハードロックが
流れてた。たった1人の世界。
私の一番落ち着く居場所だった。
「ぇ…」
ハードロックの音の隙間から小さく
声が聞こえる。隣に気配を感じ
閉じてた目を開き私は耳にあてていたイヤホンをはずす。
「えり!」
横には見慣れた化粧の濃い
少しつり目ぎみの女がいて、私の名をよんでいる。
「えり!あんた何してんのよ!」
甲高い声が耳障りだ。
私は女を見ながら眉をひそめる。
「ちょっと!そんな怖い顔しないで!」
女は少しびびったように身をひるませ
また話はじめる。
「えり!リューと別れたの?何で?」
私は黙ってうつむいた。
路地裏の泥は昨日の雨のせいか
べちゃべちゃになって汚い。
私はその泥を右手で握りしめ
言葉を絞り出す。
「私が悪い。」
女は訳がわからないのか
私の顔を不思議そうにみる。
私はこれ以上女に話をする
つもりもなく
右手につかんだ泥を地面になげつけ
立ち上がってから女に背を向けて
歩きだす。
「ちょ…待って!えり!ここらへん
最近危ないから1人にならないほ…」
女は私に投げかけた言葉を途中でさえぎり
数秒後彼女の気配が消えた。
背中を向けたまま私は立ち止まる。
振り返った時にはもう遅かった。