内緒のキス
「遅くなってごめんね。」
彼を待たせていた教室に謝罪しながら入ると返事がなかった。
「?」
どうしたんだろうと思って近づいてみると彼は腕を組み頭を垂れて眠っていた。
委員長をやっている彼が最近忙しいことは副委員長をやっている私が一番知ってるので起こすことに少し躊躇する。しかし委員の仕事も今日中にしなければならない。
「ねえ、」
顔を覗くと物凄く気持ち良さそうに寝ていて微笑ましい。
それは見ているこっちの顔が微笑んでしまう程で。
「・・・キレーな顔、してるんだよね。」
と言うかこんな近付いてるのにどれだけ熟睡しているのか彼は動かない。
疲れてんだよね、きっと。最近忙しかったし。
髪触ったら起きるかな、と指先で触れるか触れないかぐらいの力で前髪を撫でる。髪はさらさらだった。
「・・・っ、」
こんなに触っても起きないなら、と。
「ごめん、ね。」
吐息に近い小声で謝罪をすると胸がぎゅう、と痛くなる。
髪を撫でていた指を離して顔を近付けるとシャンプーと彼自身の匂いが掠めたことが余計恥ずかしさを煽るけれど、そっと前髪に唇を当てた。
額に触れるまでの度胸もなく一瞬、触れたかも怪しい程一瞬だった。
顔が火が出そうな程に真っ赤になる。
心臓とか彼に触れた唇がびっくりするほど熱くなってどうしようもなくなって泣きたくなる。
顔を離してから上を向いて静かに息を吐く。
「好き、だよ。」
決して彼には届かない告白だけど今はこれでいいかなと思う。だって傍にいるだけで、
「幸せ、」
なんだから。そう一人ごちて静かに笑った。