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変わらぬ想いをあなたに

作者: 紗希
掲載日:2025/12/12

2019年に書いたオリジナル短編小説。

アイデアが夢発端なのでノリとテンションで書き上げてます。


幼い頃の記憶を今もたまに夢に見ることがある。

大好きなシノと一緒に森の中で遊んでいる光景だ。楽しくて、幸せで、ずっとこの時が続けば良いと思っていた。


断片的に映像が流れていく。崖から私が落ちるところ。シノは必死に手を伸ばし、私の腕を掴みその小さな身体で私を包んだ。


次に目が覚めると崖の下でお互い傷だらけになっていることに気がつく。

シノを見たら、おでこから血が流れていた。私は急いで治そうとした。けれどシノは「お前を護った勲章だから」と私の手を握った。


ありがとう、ごめんね、ありがとう。


いつもそこで夢は終わる。










「また、この夢」


見ている最初は幸せを感じているというのに終わる途端に少し悲しさがついてくる。

理由としてはこの夢の続きをシアンは覚えていないからだ。

厳密には、記憶があいまいで思い出せないのだが。


簡単に身支度を済ませ寝室を出ると、外ではすでに村人たちが活発に動いていた。

日が暖かく降り注ぐ今日はとても働きやすいといえよう。


「おはよう」

「おはようございます、今日はとても良い天気ですね」

「おはようございます!」


この村は少し特殊で、皆代々治癒の能力を持って産まれてくる。能力の高い者は医者になり、そうでない者は他で生計を立てている。

別に能力を持たないからといって村からないがしろにされたり、生活が苦しくなったりはしない。なかには趣味で菜園をやって、採れた野菜などを売って生活している人もいる。


話がそれたがシアンはそのなかでも特に強い力を持って産まれた。ゆえに主な仕事は医療と外交。シアンは村の長の娘でもある。


「盗賊の話は聞かれましたか。最近近くの村でも金品を盗まれたと」

「聞いた。金目のものだけじゃなく女こどもも連れ去ると。警戒はしたいところだけど、それが?」

「・・・どうやら何か目的があるようなのです」

「それはどういう・・・」


匂わす言葉に動きがとまっていると、ひとり仕事場へ入ってきた。


「仕事、頑張っているな。少しいいか?」

「シノ!どうしたの?」


彼はシアンの幼馴染であり婚約者。親同士が決めた許婚ではあるけれど、関係はいたって良好。


「手に怪我をしてな。そんなに時間は経っていないから診てくれるか」

「わかった、ちょっと待って」


持っていたものを片付け彼に座るよう促す。



こうして傷を癒すためシアンの元を訪れる者は少なくない。

そして、同じくその治癒の力を狙う者も。



「・・・シアン、お前しばらくこの村を離れる気はあるか」

「突然どうしたの」

「噂は聞いてるだろ。盗賊が、近辺の村を荒らしている。この村も例外ではないはずだ。金品どころか女もこどもも関係なく連れ去ると聞く。この村の要はお前。お前が無事なら、一族の血も途絶えない。だから・・・」

「シノ。一族の血は大事よ。でもだからと言って皆を置いてはいけない」

「・・・わかってはいたが、頑固だな」

「そうよ。あなたたちの次期長は頑固なの」


彼はいつだってシアンを第一に考えてくれる。











突如それは村を襲った。

盗賊だ。

村はずれの森が騒がしくなって様子を見に行った者がその姿を確認したのだ。


村は、騒然となった。


「村人を一箇所に集めろ。手は出すなよ」


リーダーと思われる男が指示を出す。バンダナで表情は読み取れないが手練れのようだ。


「この村も終わりか・・・」


村人のつぶやきを男は聞き逃さなかった。


「なんだ、この村は簡単に諦めるのか」

「お前らの噂は聞いているぞ。金品だけでなく女こどもも連れ去ると!どうせ俺たちは殺される。それがお前ら盗賊のやり方だろうが」

「なにか勘違いしているようだな。確かに物は奪ったかもしれないが殺しはしないのが俺たちの流儀だ」


それに、と男は続ける。


「俺は用があってこの村に・・・来たか」


手下が連れて来たのは、村の長の娘、シアン。


「とんだ手厚い歓迎ですね。さすがは盗賊。とはいえ、誰も傷つけずにいてくれたことには感謝します」

「暴れられると手加減が出来ない手下ばかりだからな。大人しくしてくれれば傷ひとつなく解放する。あとは、お前との交渉次第だ」

「こちらにメリットは?」

「死傷者を出さず、かつ穏便に盗賊は退散といこう」

「・・・交渉決裂の場合は」

「ご想像にお任せしようか」


肝心なところをぼかすとは、なんて卑怯な。


「・・・とりあえず内容をお伺いします」

「部外者に聞かれたくない。ひと気のない場所で話をしよう」

「わかりました、こちらへ」


シアンは男を森へ案内した。

一族の住まう森は広大である。術式により外部の人間は迷いやすく、どこかの建物ではなく森を選んだのも、追尾されている場合すぐに撒くことが出来るからだ。


しばらく歩き人の気配も消え人目がないことを確認したシアンは男に真正面から向き合った。


「ここなら、誰かに聞かれることもないでしょう」

「お前の言うことだ、信じるさ」

「・・・なんだかとても信頼されているようですね」

「お前のことをよく知っているからな」

「盗賊にまで私のことが知れ渡っているとは、医者冥利につきます」

「そういうことじゃない」


男は頭に巻いたバンダナを取ろうとした。が、男は早い身のこなしで腰の剣を抜いた。

瞬間、頭上から人が降ってきた。いや、向かってきた。


男は剣で相手の武器を防ぎシアンを庇うように立つ。

シアンは疑問に思っただろう。なぜこの盗賊は自分を護るように立つのか。

降り立ったひとかげはよく知る人物だった。


「シノ!?」

「チッ、気配は消したつもりだったんだが。無事かシアン」

「え、どうしてここに」

「仕事で出てたんだが帰ってきたら出迎えはないわ人の気配はないわ、なぜか皆捕まってるわお前はいないわ。ギリギリでお前の気配たどったら別の男といて、この数分で俺の心臓止まるかと思ったぞ」


シノは短剣を男へ向けた。


「人の嫁捕まえて、こんな森の奥でなにをしようって?いやそんなことより、さっさとシアンから離れろよ盗賊」


殺気をむき出しにするシノに男は笑う。


「盗賊も顔負けの殺気だな。いいぜ、離れてやる。その前にひとつお前に尋ねたい。・・・眉間の傷はどうした?」

「・・・なんのことだ」

「しらばっくれんなよ。あるはずだろ。小さいとき、崖から落ちたシアンを庇ってできた傷だ」

「んなもの、とっくの昔にシアンに治してもらったさ」


二人の会話と一緒にシアンも思い出していた。

が、次の瞬間固まる。


「それは本当の話か?」


どういう意味だろう。


「自分の好いた女を護ってできた傷なら『男の勲章』だろうが。俺なら絶対に治させないね」


それはシアンが夢のなかでシノに言われた言葉。


「・・・なにが言いたい」

「それはお前が一番よくわかってんだろ」


どういうことなのか。

心臓がばくばくとうるさい。


「ショックで記憶があやふやなシアンにはいい感じにごまかして、あるはずのものにはつじつまを合わせ、ないと偽装。俺にはできない芸当だ」

「お前、何者だ」

「ただの盗賊だよ」


男は余裕の態度を崩さない。

シノは短剣を構えなおした。


「ただの盗賊・・・か。シアン、そこを動くな。今助ける」

「待ってシノ!私この人の話を聞きたい!」

「・・・お前正気か」

「今も夢に見るの。夢で私・・・ありがとうって、ごめんねって泣いてた!」

「こんな盗賊の話なんぞ聞く必要ない。傷はお前が治した。それが真実だ」

「いや?傷は治していないし治させてもいない。お前には元々傷なんかなかった、まあそういう意味では真実だが」

「黙れ!」


一気に距離をつめたシノは短剣を男へ突き出した。それを鮮やかな手つきで流し男はシノの攻撃を全て受け止めてしまう。


「それ以上たわごとを言ってみろ!今度はーー」

「どうするって?あのときみたいにシアンを人質にして俺を遠ざけるか!?」


あのときみたいに。


「お前に居場所を奪われ、俺は行くところを失った。幸か不幸か盗賊に拾われ、俺の身の上を知った当時のかしらに俺は体術を仕込まれた、いつかくるこの日のために。かしらは俺の父親がわりとしていろいろ教えてくれたよ、俺と同じくらいの息子がいるとな。そいつは俺と入れちがうように出ていった。偶然にも、俺とそいつは双子かと思うくらいそっくりだったらしい。実際拾われたとき、かしらの息子だと勘違いされたしな。唯一違うことといえばーーそいつの眉間には傷がないそうだ」


シノは明らかに反応を示した。


「自分の顔に傷がつくのを嫌がっていた。どんな理由だろうと。・・・誰のことだろうなぁ?」


とても信じられない話を聞いている。

シノの眉間には傷がない。それは、あのときシアンが治したとシノは言っていたけれど、それがもし万が一嘘だとしたら。


シアンとともに過ごしたシノは何者で。

盗賊を名乗るこの男はーー。


「俺には関係ない。俺はシアンの婚約者で村の誰もが知っている事実だ。今さら揺らぐかよ」

「その村の誰もが今この瞬間新たな事実を聞かされてると思うぜ」

「は・・・」

「シアン、お前は見たよな?村人で負傷者はいたか?」

「・・・確かに、誰ひとり傷ついた人はいなかった」

「傷つけずにいたのは話を聞いてもらうためだ。一度傷つけてしまえば二度と話は聞いてもらえなくなる。それがたとえどんなに大切で重要な真実であろうと、信じてもらえなくなる」


盗賊でありながら村人に一切手を出さないというのは不思議であった。

たいていの場合、ひとりないし複数に手を出し脅迫のうえで金品をまきあげる。


「まさか、お前・・・!?」

「そうだ。俺は、自分の居場所を取り戻しに今日ここへ来た」

「ちくしょう・・・!!!」


そこには、もはやシアンの婚約者であった面影はなく、あるのは昔奪った居場所を、今奪い返されているただの男。

仮に盗賊をうちとり英雄気取りで村へ戻ったとしても、真実を伝えられた村人たちから村を追い出されるだろう。


これが、もしかしたら本当の彼なのかもしれない。


「シアン、走れ!!」


盗賊はとっさに叫んだ。

男が攻撃の矛先をシアンへ向けたのだ。

盗賊の叫びを合図にシアンは駆けだした。


シアンの姿が見えなくなったのを確認し、盗賊は目の前の敵に集中する。


「ようやく本性を出したな。元盗賊」

「・・・居場所を奪うだけじゃ生ぬるかった。こんなことなら殺しとくんだったよ。」

「しぶとくて悪かったなあ。地獄の底から舞い戻ってきたぜ」

「ほざけ。今度はちゃんと息の根とめてやる。あの女も・・・」

「そうはさせるかよ」

「う、ぐ」


盗賊は一瞬で男の横へまわった。そして鳩尾に拳をめり込ませる。


「・・・シアンには指一本触れさせねぇ。この村にも、だ」


男はその場に倒れ気絶した。










シアンは森が見渡せる場所まで来ていた。

そこは崖となっており、シアンが落ちた場所。

シアンの記憶も完全に戻っていた。

シアンが崖から落ちたのも、そもそもは盗賊が村を襲ったから。

その盗賊が、長い間シアンが婚約者と思っていたあの男で。


シノがどんな思いで居場所を奪われたか、そしてどんな思いで戻ってきたか。


シアンただ一人を想って。


ガサガサと鳴った茂みの音にシアンは動揺し、足をもつれさせた。

体制を崩した先にあるのは、崖下。


視界に映る、茂みの音の主であろう人物。


私は信じてるよ。あなたは絶対私を助けてくれる。


盗賊はその外見からは想像できない必死な様子でシアンへ手を伸ばした。長いバンダナの先に木の枝が引っかかり、その勢いでバンダナは盗賊の頭から外れ彼の長い前髪が風であおられその顔があらわとなる。

眉間には、傷があった。


「ーーシアン!!!」


シアンは迷わず手を伸ばしシノが掴む。

その光景は幼き日のあの光景を思い出させた。


しかし今度はその大きな身体で彼女を包む。

そして木々が緩和材となり木の葉が大量に落ちるなか二人は切り傷のみで済んだ。

シノはため息をつく。


「・・・お前は、何度崖から落ちれば気が済むんだ」

「ふ、ふふ・・・今度もシノが助けてくれたわね」

「お前、記憶が?」

「ええ・・・やっと、思い出した」


シノは彼女の身体を優しく抱き締め頭を撫でた。


「・・・すぐ戻れなくてすまなかった。力をつけるのに時間がかかってな」

「いいの。戻ってきてくれた。聞きたいこといっぱいあるけど、今は貴方がここに居るってことだけで十分」










村へ戻ると、ことの顛末を全て聞いたらしい村人が二人を迎えてくれた。


シノに成り代わって生活していたあの男は、彼を連れ戻すために来た盗賊達によって連行されていった。

そして盗賊というのは実は義賊で、近辺の村での悪行は全て計画の為の嘘っぱち。

そう広めればいずれシアンの村へ噂は届き、あの男の耳にも入る。

シアンの力を重宝するあの男ならばシアンを村から遠ざけようとするだろう。シアンの身を案じてではない、まして村の存続や一族の為などでもない。シアンが持つ強力な治癒の力欲しさだ。

しかしそう簡単にいかないのはシアンの性格。一人で逃げるという選択肢は絶対にない。村や一族と共に滅ぶことを選ぶだろう。


シノは、そんなシアンが誇りで、大好きで、大切だった。だから彼女を守るためには己が強くなる必要があったのだ。


結果、シノは居場所を取り戻し、かつての幼馴染の婚約者という立場に返り咲いた。


全て、切望していた光景である。


「・・・やっとだ。この時を、ずっと待ってた」

「シノ、私、どこかで気付いてたのかも」

「何が?」

「・・・彼が、シノじゃないって」


シアンのひとことに、シノが目を見開く。


「・・・婚約者なのに、私が、私だけがこの村を守らなきゃって思ってたの。婚約者なら、一緒に守るのが普通でしょ? ・・・でも私は、一人で守り続けてた。今思えば、こういうことだったんだなって」


甘えるように、寄り添うように、シアンはシノの胸元へすり寄った。それを愛おしむようにシノが抱きしめる。


「・・・これからは、一人じゃない」

「・・・うん」

「俺が支える」

「うん」

「・・・もう、一人にしない」


すり寄ったままシアンは見上げた。二人の距離はほぼゼロだ。

長い間お互いを望んでいた。それが、この日ようやく叶う。


シノの帰還を祝う宴。同時に––––


シノとシアン、二人の挙式である。


特別な衣装に身を包んだ二人を取り囲む、花と料理の数々。二人を祝うかのように雲ひとつない空だ。

まるで世界が祝福しているような気持ちさえした。


「シノ」

「どうした?」

「あなたが、すき」


とても穏やかな笑みで、シアンが言う。

それにつられてシノも微笑んだ。


「俺も、すきだ」


迷わず、二人は口付ける。それを見て茶化す者もいないしましてや非難を浴びせる者もいない。

間違いなく二人きりの世界だった。








これはとある小さな村でのお話である。

メモ程度のキャラ設定。読まなくても大丈夫。


シアン・シオン

治癒の力を持つと云われる一族の一人。歴代の中で特に色濃く強くその力を受け継いだ。瀕死の重傷すら治してしまうが時間が経過し過ぎた傷(怪我を負って直後でないもの)は治せない。


シノ・ステイト

シアンの幼馴染で婚約者。幼少期崖から落ちたシアンを庇い眉間に傷を負う。その際シアンが治癒の力で傷を治したそうだがシアン本人はその事を忘れているようだ。


盗賊

治癒能力を持つシアンを狙って村を襲いにくるが、何か別の目的があるらしい。頭に常に長いバンダナを巻いていて顔を見られないようにしている。


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