祖母の棺に敷きし畳の裏に書きつくる歌一首
わが祖母は昨日亡くなりぬ。今は通夜の弔ひの客も途絶へて、堂のうちには我と祖母との他には何者もなく、ただ線香のかほりに包まれしのみ。
今宵は枕を並べて眠らむ。明くればすぐ葬式をして、昼には火葬にて焼かれ白き骨の粉となるさだめなり。これが最後と思ひて幾度も顔を見しが、口惜しと思ひて、涙は果てなく落つるなり。
見舞いに行きて帰るきわには手をとりて、よく握り合ひいくらかの励ましとせし。いつも冷たき手を握るたび、あな温しと言ひたり。
最後の見舞いの日にはいと寒がりて、ひたすらに暖かきを求めたり。厚き靴下を履かせて布団の上から衣をかけ、手を握り、放して帰りぬ。それきり口もきけず息を引き取りけり。
明日、祖母の入れらるる棺の中に薄き畳を入れて、その上に寝かせる手筈なり。いまその裏に歌を一首書きつけし。やまとうたには大した才なき身なればいと拙き歌ならむ。されど込めたる思ひ祖母の身暖めなむとて詠みけり。
秋深み 寒し寒しと 思ふなば
握りしわが手の 温さをぞ思へ




