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お買い物エッセイ

出たとこ勝負で人力冷蔵庫を手放した話

作者: Y
掲載日:2025/09/28

 2023年の冬、私は発売中の冷蔵庫について調べていた。

 というのも、我が家の冷蔵庫は購入から11年。そろそろ壊れてもおかしくない。


 今までの人生で「自宅の冷蔵庫が壊れる」という経験をしたことのない私は、冷蔵庫が壊れたら悲惨なことになるだろうと想像した。


「冷蔵庫が突然壊れた大惨事だ。特に真夏に壊れでもしたら目も当てられない。余裕があるうちに、壊れる前に買い替えないと」


 しかし冷蔵庫は大きな買い物だ。簡単にホイッと買えるような金額ではない。買うなら失敗はしたくない。

 私は入念に、各メーカーが販売している冷蔵庫の価格やスペックについて調べた。何時間も、何日も調べた。


 しかし私が調べ上げた冷蔵庫の情報を夫に伝えても、夫は聞き流すのみ。いくら私が「冷蔵庫を買い替えよう」と言っても夫は曖昧な返事をするばかりだ。


 次第に私が夫に「冷蔵庫を買い替えよう」と提案する頻度は減り、この話は有耶無耶になって忘れ去られた。





 それから時は経ち、2025年9月6日。

 夕食後、夫と食卓でくつろいでいたら、キッチンから「キュルルルル~……」というモーター音のような音が聞こえた。聞いたことのない音である。


「なんだろう?」

 私たち夫婦は顔を見合わせ、音が聞こえた辺りを確認した。しかし何の音かは分からない。


「まあいいか」

 特に問題はないと判断した私たちは再びくつろぎの時間に戻り、すぐに謎のモーター音のことを忘れた。


 翌朝。

 朝食にシリアルを食べようと冷蔵庫から牛乳を取り出した私は、牛乳があまり冷えていないことに気づいた。

 冷蔵庫の中に手を突っ込む。全体的に冷気をあまり感じない。


 壊れた? いや、まさか。


 9月と言えどここ数日、最高気温が30℃を超える真夏日が続いている。こんなに暑い時期に冷蔵庫が壊れたらたまったものではない。


 私は信じたくない気持ちを抑えつつ、あとから起きてきた夫に「冷蔵庫が冷えていない気がする」と伝え確認してもらった。夫も「なんだか冷えていない気がする」と言う。


 この日はラーメン屋へ昼食を食べに行く予定だった。

 夫は「ラーメン屋から帰ってきても冷蔵庫がぬるかったらその時対処しよう」と私に告げる。


 そうして私たち夫婦は「冷蔵庫が冷えてないと感じるのは気のせい」と言い聞かせるように、疑惑の冷蔵庫を放置してラーメン屋へ出かけた。


「冷蔵庫、やっぱり壊れているのではないのだろうか」と私は不安になりながらラーメンを食べた。冷蔵庫のことを気にかけながら食べるラーメンはあまり美味しくなかった。





 昼過ぎ、帰宅して冷蔵庫を確認する。やっぱり冷えていない。ここでようやく、私たちは「冷蔵庫が壊れた」と断定した。


 私は2年前に冷蔵庫を買い替えようと情報収集をしまくっていた時のことを思い出し、「あの時やっぱり買い替えておくべきだった」と絶望した。よりによって真夏日が続くこの時期に壊れるなんて。最悪だ。大惨事だ。


 冷蔵庫に入れている食品が傷まないかと強く心配する私をよそに、夫は「凍らせたペットボトルを入れておけば大丈夫」と余裕の構えである。


 我が家は冷蔵庫とは別に独立した単体の冷凍庫を所持しており、そこに非常時用に水を入れたペットボトルを数本、凍らせていた。それを冷蔵庫に入れておけば大丈夫というのが夫の見解である。


 本当に大丈夫だろうかと不安だったが、今はそうする他ない。夫の言葉に従い、私は冷凍庫で凍らせていたペットボトルを壊れた冷蔵庫にありったけ放り込んだ。


 しかし、やはり凍らせたペットボトルを入れただけでは心配だ。すぐにでも新しい冷蔵庫を買いに行きたい。

 夫はなぜか「今日は買いに行かない」と言っているが、このままではどうしても気がかりで、私はネットで冷蔵庫を探すことにした。


 2年前、冷蔵庫を買い替えようとした時に調べたメモが残っていれば良かったのだけれども、残念ながら紛失している。

 調べた時の記憶もすっかりなくしてしまっていたため一から調べ直すことになったのだが、急な話で動揺し、どこからどう調べればいいか分からない。


 とりあえず横幅の長さが壊れた冷蔵庫と同じぐらいで、容量が今より大きくなればいいだろう……私はカタログスペックで幅が60センチ前後で、容量が450リットルぐらいの国産メーカーの冷蔵庫を3つピックアップした。ピックアップはしたものの、ちゃんとした冷蔵庫を選べたかどうかはよく分からない。


 この作業で私は非常に疲弊した。疲れ切った体で夫に、これらの公式サイトのページを見せる。


 だが夫はそれをひと目見て「よく分からん」と閲覧を拒否した。

 せっかく調べたのに。よく分からないのは私も同じだよ。疲れが余計に増した気がした。


 私の調べ物の結果を閲覧拒否した夫は、YouTubeで冷蔵庫紹介動画を検索し始めた。しかし、その動画を見ても、私も夫も「よく分からない」と頭を抱える。 



 冷蔵庫をどうするか決められないまま夕方になる。

 そこへ突然、夫が「冷蔵庫の下見に行こう」と言い出した。


 「今日は買いに行かない」と言っていた夫だが、売り場で現物を見たら気が変わって今日、購入を決めてくれるかも知れない。私は期待を込めて夫の申し出を受け入れた。


 夫の運転する車で一緒に近所の家電量販店・Aへ向かう。

 私たちは冷蔵庫売り場で展示品をあれこれ見た。これでもかというぐらいたくさん見た。


 この過程で私はとんでもなく疲れ、どの冷蔵庫を選べばいいのかわけが分からなくなった。


 しかし「我が家は野菜室より冷凍庫を使う頻度のほうが高いから、冷凍室が真ん中にある冷蔵庫がいい」という点、容量が450リットル前後のものにしたいという点、色はベージュ系のものが欲しいという点だけはハッキリしていたので、そこを重点的に見て回る。疲れすぎてフラフラになった頭で見る。


 30分ほど冷蔵庫の下見をしたあと、私たちは売り場から離れ、トイレ前のベンチに座って相談した。

 夫は言う。「買うならM製のあの冷蔵庫だな」


 私に異論はなかった……というか疲れすぎて思考がよくまとまらず、異論の挟みようがなかった。ただ容量が450リットルで冷凍室が真ん中で、国産メーカーだからいいんじゃないかと遠のく意識のなか夫の意見に同意した。


 私がM製の冷蔵庫を買うことに同意すると夫は「今日、買う?」と言った。


 しめた、夫の気が変わった。期待通りの展開だ。私はここぞとばかりに「今日買おう」と答えた。凍らせたペットボトルで人力で冷やす冷蔵庫なんて、不安で仕方ない。一刻も早く冷蔵庫を買わないと。「疲れたから、よく分からないから今日買うのはやめておこう」なんて言っていられない。

 

 夫は今私たちがいるAで買うのは嫌だとのことで、隣の隣町にある家電量販店・Bに向かうことになった。


 車を走らせること20分、Bに到着。一目散に冷蔵庫売り場へ行き、Aで見たM製の冷蔵庫を見つけ出す。


 やっと買える。私は安堵した。これで人力で冷やす壊れた冷蔵庫を手放せる。

 安心したのは夫も同じことだろう。私たちは店員を呼んで「これが欲しい」と告げた。


 が、店員から発せられた言葉は「在庫がない。入荷は1ヶ月先」という非情なものだった。

 急遽、M製と似た冷蔵庫を店員に探してもらう。


 疲れ切った私は「色違いのならあるらしいからそれでいいよ」と夫に伝えたが、「何年も使うものだから色は妥協しないほうがいい」と却下された。


 店員と一緒にMと似た冷蔵庫を探して売り場を歩き回っているうちに、私は自分がどこに立っているのかよく分からなくなってきた。夫も疲れ切った様子である。

 やがて私の意識が朦朧としてきた時、Mとよく似たP製の冷蔵庫を店員が見つけ出した。 


 他の冷蔵庫と比較検討する余裕は私にも夫にもなかった。


 容量、冷凍庫の位置、色、国産メーカーかどうかだけを判断材料に、私たち夫婦はほぼ即決状態でP製の冷蔵庫を購入したのだった。





 冷蔵庫の搬入は3日後。それまでの間、私たち夫婦は壊れた冷蔵庫を人力で冷やし続けた。ペットボトルを数本凍らせて冷蔵庫に入れ、5時間ごとに新たなペットボトルと交換する日々。


  最初は「凍らせたペットボトルを入れただけで中身が腐らずに済むのか?」と懐疑的だったが、問題はなかった。人力で冷やした冷蔵庫にしまっておいた納豆やピルクル、牛乳、ヨーグルトを飲み食いしてもお腹を壊すこともなく、平常通りに過ごせた。

 ペットボトルを凍らせる設備があったおかげである。冷蔵庫とは別の、単体の冷凍庫を所持していて本当に良かった。


 冷凍庫の存在に感謝しているうちに3日が経ち、搬入の日を迎える。

 この日は冷蔵庫搬入に備えて4時間かけて室内を片付け、1時間かけて冷蔵庫を業者に搬入してもらった。緊張の5時間であった。


 搬入完了後、1時間経ったら冷蔵庫が冷えると業者に告げられ、ほっと胸を撫で下ろす。


 搬入準備と立ち会いでヘトヘトになった私たちはマックのドライブスルーで夕食を買って自宅で食べ、食後、クーラーバッグに退避させていた食料品を新しい冷蔵庫に移し入れた。


 これで終わった。私は心から安堵した。同時に、人力で冷蔵庫を冷やす日々から解放されたことを喜んだ。


「なんとかなるもんだな」

 その日の夜、我が家に設置された新しい冷蔵庫を眺めながら、夫はしみじみと言った。

「なんとかなるもんだね」

 なんとかなった。2年前、冷蔵庫が壊れたら悲惨なことになると危惧して早めに買い替えようと一生懸命情報収集していた私なのに、行き当たりばったりで……疲れ切ってフラフラの頭で選んだ冷蔵庫を買って、どうにかなった。


 冷蔵庫だけでなく、これからの人生も、なにか大きな出来事があっても結局は「どうにかなる」ものなのかも知れない。夫と冷蔵庫の話をしながら、なんとなくそんなことを思ったのを覚えている。





 以来、新しい冷蔵庫は問題なく稼働している。

 よく比較検討せずに買ってしまった冷蔵庫ではあるが、不満はない。なんとかなるものなのである。


 しかし冷蔵庫のような大きな買い物は、事前によく検討して購入したほうがいいに決まっている。

 次回は急な事態に慌てることのないよう、大型家電の買い替えは余裕を持って行いたい。

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