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第8話 燃えさかる我の魂


 時は過ぎていくと、新月の決行日まで3週間を切っていた。


 相変わらず地下での労働は続き、終了するとスライム料理で空きっ腹を満たす。そのあとは、互いに割り振られた活動をこなしていった。


 俺は“ディーアム教”の教会で“発光弾”を作り続け、隊長たちは中央広場で“肉々団”との模擬戦を行っていた。


 そんなある日、“鉱山班”に所属していた教徒の一人が、班長が会いたいと伝えてきて面会が決まり、彼らの本拠地へと向かうことになった。


 夜の坑道に入り、分かれ道を縦坑とは別の方向へ進む——


 *


 “鉱山班”。彼らは、この“タコ壺”が生まれた頃からの住人で、鉱山の管理を任されている条件に、鉱山内部に居住地を構えることを許されていた。


 そのため、夕食を取りに来るなどの用事がある時のみ地上に現れ、あとは地下に籠もる生活を送っている。


 迷路のような旧坑道を進み続けると、奥の突き当たりに格子があり、皿や酒樽などの生活用品と寝袋が並んでいた。


「ようこそ人間よ……いや“転生者”かな?」

 そこには、一人の老齢のオークが座っていた。


「班長、我々の救世主を連れてきました」

「私は高橋公平。コーヘイと呼ばれています。話は簡単です。ご存知の通り、私たちは“タコ壺”から脱出したい。だから、赤魔石が欲しいのです」


 どう接すればいいか分からなかったので、率直に要求を伝えることにした。


「ハハハ、お前たちが何を望んでいるかなど、とうに分かっておる。確かに、皆が知らぬ場所には少量ながら、まだ赤魔石の鉱脈は残っておる。だが、一つだけ条件がある。私の話を人間どもに伝えてくれんか?」


「はい。ただし、俺が人間に接する機会があれば、ですが……いいですか?」

「ああ、構わんよ……こういう歴史があった、ということを伝えたいのじゃ」


 それから、老人はゆっくりと語り始めた。


 話自体はシンプルだった。彼らが若かった頃、この鉱山は“タコ壺”のような牢獄ではなく、人間とオークが協力して開発していたらしい。


 そうして坑道が伸びていき、価値の高い赤魔石の鉱脈を発見すると、それは戦争に用いられ、その国は大陸の覇者となった。


 人とオークが賑わった鉱山は、赤魔石の枯渇と共に巨大な壁に囲まれ、“タコ壺”と呼ばれる強制収容所へと姿を変え、オークの犯罪者であふれるようになった。


 この地がオークの領地となっても、その構図は変わらなかった。さらに、ゴブリンの支配下に置かれたことで、今では捕虜の収容所と化している。


「まあ、ワシの言いたいのは、オークも人間も敵視しあっておるが、昔は共に仲良く協力しておった。それを思い出してほしいのじゃよ……」


 おそらく、爺さん時代のオークと人間は、仲が良かったのだろう。


「私は“転生者”なので、この世界の事情は知りません。ただ、オークたちと接して良い奴も悪い奴も両方いると思います。おそらく人間も同じでしょう!」


 その言葉に、彼は静かに顔を寄せてきた。


「赤魔石の鉱脈の場所は教える。だが、お前たちのもう一つの願いであろう、この鉱山の“タコ壺”とは別の出口。その場所については、ワシは知らんのじゃ!」


 彼は、鉱山からの脱出経路について何か知っているようだった。


「と、いうことは……やはり別の出口があるのですか?」

 それは一番欲しい情報だから、何でもいいから聞き出したい!


「まあ、知りたいのは分かる。じゃが、初期の坑道はもう100年以上も前に塞がれている。だからワシの世代は、あった、という噂だけで道筋は知らんのじゃ……」


「では今、知っている者はいるのですか?」

「いるかもしれん。だが、誰かは教えぬ。ヒントはそれだけじゃ!」


 そうして班長は、案内をしてくれた教徒に赤魔石の鉱脈への道順を告げる。


 *


「コーヘイ、でかしたぞ! これで、脱出へまた一歩近づいた!」

 俺は小屋に戻ると、待っていた三人に今日の成果を告げた。


「ただ、赤魔石を採れる鉱脈は立ち入り禁止の場所らしい。“鉱山班”が色々と手伝ってくれることになったが、作業は深夜に限られる」


「まあ、そうだろうな。だが、必要な赤魔石の量はそれほど多くない。黄色魔石と配合することで爆発力は多少落ちるが、大量生産が可能だからな!」


 俺の言葉に、タブラは自信をもって応えていた。


「それに、坑道からの脱出経路は聞けなかった。過去にはあったという噂と、さらに古い坑道が地下の奥に塞がれている。という話までは聞き出せたのだが……」


「まあ、爆弾さえあれば奴らと対等に戦える。なあに、上部のゴブリンたちを倒せば堂々と外に出られるんだ。全ては俺たちに任せろ!」


 隊長は力強く言い切った。


 **§**


 それからは“肉々団”を動員して、深夜にこっそりと赤魔石の採掘に向かった。


 立ち入り区域への道は鉄格子で覆われていた。だが、“鉱山班”はその外し方を知っていて、そこを抜けて迷路のような坑道の奥に進むと、鉱脈が残されていた。


 赤い光の層はとても薄くて小規模だった。

 だが、少量なら産出できる。


 採れた赤魔石は粉末にして、少量だけ黄色魔石の粉に混ぜる。あとは“発光弾”と同じ要領で作っていくと、待望の『爆弾』が完成する。


 それを坑道の奥にある仕事場で試したところ、十分な威力だと判明した。

 残る決行日までに必要なもの。それは、戦闘時の武器防具だった。


 “肉々団”が密かに集めていた壊れたツルハシを、“建築班”の小屋にある炉を使って溶かして、砂の型に注いで砥石で磨いていった。


 盾は、樽の蓋に取っ手を付けて鉄板を張る。


「俺は弓は必要ないのか?」と聞いたら「はぁ? 爆弾があるからいらないだろ?」とタブラに返される。


 おそらく、投擲だけで十分距離が出るということだろうか?

 時が過ぎていくと、新月まで数日に迫っていた。


 “肉々団”の団員は、毎日の剣術訓練の成果もあって人数が増えている。今では50名近くなり、彼らに武器防具を与えて部隊を結成していった。


 皆の士気は高く、隊長も「「必ず成功させる」」と意気込んでいる。

 だが正直なところ、俺は焦っていた。


 まず、現状の作戦だと切り札になるのは『二本のハシゴ』しか存在しない。それが壊された時点で下部の者たちは取り残されてしまう。


 確かに、太い柱を使って頑丈に作られ土台も小屋に直結している。だから“建築班”連中は「絶対に倒れる心配はない」と太鼓判を押してくれている。


 とはいっても、どうしても火には弱い。


 そこでタブラの提案により、岩石スライムを煮詰めた塗料を塗って耐火性を高めた。さらに、作戦の日には大量の樽に水を汲んで配置する予定でもある。


 しかし、下手したら爆弾がハシゴや“建築班”の小屋に当たることもあるし、ゴブリンたちが火矢を使うかもしれない。


 さらに、ガスターたちが火を放つ可能性もある。


 だからこそ、第二の案として鉱脈からの脱出経路を見つけたかった。だが、初期の坑道を知る人物には、いまだ辿り着けていない。


 “鉱山班”の班長の上の世代は少なくとも高齢の老人である。現に、この“タコ壺”には歳を取ったオークは沢山いる。


 だから、年寄りを見かけたら軽く鉱山の話を振ってみたが、ほとんどが“タコ壺”が完成してから収容されたらしく、やはり最古の坑道の話は知らなかった。


 当然、うちの班の爺さんにも聞いたが「知らんのぉぉぉ」と言って、酒に酔い潰れている。


 そういえば、俺たちは彼のことを一切知らなかった。名前を聞いても「何だっけなぁぁぁ爺さんでいいだろ?」と答える。


 仕方がないので、何度“鉱山班”の教徒と共に立ち入り禁止区域を探索してみたが、最下層の坑道は崩落が激しく、出口の手がかりは見つからなかった。

 

 隊長をはじめとした近衛兵や“肉々団”はやる気に満ちており、“ディーアム教徒”も神殿に向かうその日を心待ちにしている。


 おそらく、脱獄のチャンスは一度きりだ。

 だからこそ、絶対に成功させたい。


 だが、それでも……何かが、心に引っかかっていたんだ。


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