選択
「え?」
(なんだ今の?)
結城は驚き、すぐに隣の恭弥へ顔を向けた。
「なぁ、おい恭弥、今の聞こえたか?」
「な…何がだよ?」
「声だよ! 『善行Lvが上がった』って!」
「声? ……いや、聞こえてねぇけど……ってか、善行Lvって何?」
恭弥は戸惑いながら、少し距離を取るように結城を見つめた。
《続きまして、SKILLを1つお選びください。》
「……ま、まただ。」
「なぁ、千尋、大丈夫か?」
恭弥が心配そうに覗き込む。
しかし、結城はそれどころではなかった。
突然、目の前にA4サイズほどのスクリーンが2枚、浮かび上がったのだ。
「な……なんだよ、これ……」
結城は言葉を失った。
「……これって何? 何もないぞ……」
横を見ると、恭弥の顔が青ざめていた。
(恭弥には見えてないのか? ……っていうか、なんだこれは?)
スクリーンには、2つの選択肢が表示されていた。
右のスクリーン:「☆1 バフ ATK+2, DEF-2」
左のスクリーン:「☆2 スキル 閃光」
(スキル……? ゲームの選択画面みたいだな……)
戸惑いながらも、結城は左のスクリーンに指を伸ばした。
指先が触れた瞬間、スクリーンが眩い光を放つ。
「っ……!」
目の奥が焼けるような感覚が走り、一瞬、世界が暗転する。
その直後、頭の中に直接、何かの知識が注ぎ込まれるような感覚。
──スキル『閃光』を習得しました。──
視界が元に戻った時、まだ軽く目眩が残っていた。
「おい! 大丈夫か?」
恭弥が結城の肩を揺さぶる。
「な、なんか……スキルを付与されたみたいだ……詳細と」
その瞬間だった。
結城の目の前に、大きな青みがかったスクリーンが現れた。
そこには、自分の名前、ステータス、各種情報、所持スキルなどの文言が記されていた。
「……なんだ、これ……」
結城が戸惑いながらスクリーンを眺めていると、近くで何かが落ちる音がした。
「……?」
音のした方を見ると、恭弥が尻餅をついて、何かに怯えていた。
「k…こk…声が……」
その瞬間、恭弥の顔が一気に青ざめた。
「お、おい、恭弥?」
彼の顔は蒼白になり、体が小刻みに震えていた。
何かを必死に見つめるように、宙を睨んでいる。
「……な、なんか、……見える……」
彼の目は、明らかに恐怖で濁っていた。
しばらく様子を見ていると、恭弥は震える手で何もない空間に向かって触れるような仕草を始めた。
どうやら彼にもスクリーンが現れたらしい。
「な、な、なんか……レベルが上がったって!!」
恭弥の目には、うっすらと涙が滲んでいた。
相当怖かったのだろう。
「恭弥も何かレベルが上がったのか?」
「あ……うん……」
だが、その返事はどこか歯切れが悪い。
「なんのレベルが上がったんだ?」
「あ、あ〜、え〜と……」
何かを誤魔化すように視線を逸らす恭弥。
その時、ふと気づいた。
「お前、なんでそんなに言いにくそうなんだよ?」
「えっ……?」
言われて、恭弥は一瞬固まった。
「いや、えっと、その……」
視線を泳がせ、言葉を詰まらせている。
「なんか、ヤバい系のスキルでももらったのか?」
「ち、違う! そういうんじゃねぇけど!!」
恭弥の反応を見る限り、どうやら「何か言いたくないスキル」だったらしい。
「……ははぁ、さては『モテ度アップ』とか、そっち系だな?」
「んなわけあるか!!!」
慌てて否定する恭弥。
「じゃあ『ラッキースケベ発生率アップ』とか?」
「それだったら逆に言うわ!!!」
思いっきりツッコむ恭弥。
でも、やっぱり何かを隠している。
「……まぁいいや。少し座れるとこいこうぜ。」
結城はため息をつきながら、近くのベンチを探した。
「お前、顔色悪いし、ちょっと落ち着けよ。」
「……ああ……」
恭弥は深く息を吐き、結城の後を追うように歩き出した。
・詳細
自分のステータス、所持スキル、各種Lvを確認するためのスキル。
・閃光
利き手の人差し指から強力な光が発生するスキル。
相手との距離に応じて効果が増減する。
目の前で発動すると最悪失明する。
100mくらい離れてしまうと「なんか光ってるなあ」くらいになる。
自分にも効果が出てしまうので発動には注意が必要。