SKILLを付与します
「はぁ〜〜〜〜〜〜」
結城は大きくため息をついた。
ほぼ1週間ぶりの学校だ。
熱で寝込んでいたとはいえ、ずっと家に引きこもっていた身からすると、普段の学校よりも一層気が滅入る。
先日のひどい頭痛以降、特に異常はなく、普段通りの生活に戻っていた。
「この間の声はなんだったんだろう?」
そう呟きながら登校の準備をする。
病院から帰ったあと、友人たちのメッセージに返信していると、どうやら頭痛と謎の声を聞いたのは自分だけではないらしい。
ああいうのって、異世界転生の前触れかと思ったけど──どうやら当てが外れたな。
「スライムとか悪役令嬢になるチャンスだと思ったんだけどなぁ。
……別に今の人生に不満があるわけじゃないけど、かといって満足しているわけでもないし。
不幸自慢をするつもりはないけど、恵まれた人生とは言えないからなぁ……」
天井を見つめながら独りごち、再びため息をつく。
準備を終えると、仏壇に線香をあげ、学校へ向かった。
電車に揺られながらSNSを開くと、トレンドには
「#世界のバグ」「#システム変更って何?」といったタグが並んでいた。
「世界改変説」「異星人の介入説」「政府の陰謀説」──様々な憶測が飛び交っている。
最寄駅の改札を通った瞬間、ふっと空気が揺れた。
周囲の通行人も何かを感じたのか、戸惑いながら辺りを見回している。
その瞬間、またあの声が聞こえた。
《システムアップデートが完了しました。新しい世界を適用します。》
「また……あの声だ」
「気味が悪い……」
周囲の人々がざわつく。
声がやむと、再び空気が揺れた。
──駅のホームで突っ立っていても仕方ない。
とりあえず学校に向かうことにする。
スマホを開くと、トレンドには
「#世界の再起動」「#リアルアプデ完了」「#アプデ内容教えて」
──新たなワードが上位に浮上していた。
歩いていると、後ろから声がかかる。
「おーい! 千尋ー!」
振り向くと、友人の飯島恭弥が走ってきた。
「おはよう」
とりあえず挨拶を返す。
「なんか久しぶりな気がするなぁ。
なぁ、さっきの声、聞こえたか?」
「ああ、あの『アプデが完了した』ってやつ? 聞こえたよ」
「だよなぁ。なんか聞こえてないやつもいるっぽくてさ。
俺、おかしくなったのかと思って不安だったんだよ」
恭弥は少し不安げな表情を浮かべる。
そんな会話をしながら歩いていると、道にゴミが落ちていた。
「誰だよ、こんなとこにポイ捨てしたやつは」
結城は呆れながらゴミを拾い、近くのゴミ箱へと放る。
──その瞬間、またあの声が響いた。
《善行Lvが1上がりました。》
《最初のLvが上がったので、SKILL『詳細』を付与します。》