搬送
目が覚めると、結城は見知らぬベッドに横たわっていた。
「……どこ、ここ?」
「先生! こちらでも一名、目を覚ましました!」
女性の声が響く。
どうやら病院のようだ。室内は騒がしく、どこか慌ただしい。
(この間から聞こえる、あの声は一体なんだろう?)
考え込んでいると、ドアの向こうから足音が近づいてくる。
「体調はどうかね?」
白衣を着た初老の男性が、結城のそばに立っていた。
「いえ……特に問題はありません」
結城がそう答えると、医者はベッドのそばに寄り、いくつかの質問を投げかけた。
内容は、自分の名前が言えるか、気絶する前に何があったかといったものだった。
「どうやら、君以外にも同じ症状で運ばれてきた人がいるようだな」
「……そうなんですか?」
「声は聞こえたかね?」
「どの声でしょうか? 世界のシステムがどうのこうのってやつですか?」
「なるほど……君もか」
医者は少し黙り込み、考え込むように顎に手を当てた。
再度、体に異常がないか確認され、問題がないと伝えると、今日は家に帰っても良いと言われた。
病院を出ると、次々と救急車が到着し、別の患者たちが運び込まれていく。
街は騒然としていた。
あちこちで事故が発生し、警察や消防車がけたたましいサイレンを鳴らしながら通り過ぎていく。
帰宅し、TVをつけると、どの局も緊急速報を流していた。
日本中、いや、世界中で同じような現象が起きているらしい。
スマホを開くと、SNSはその話題で持ちきりだった。
(本当に、何が起きてるんだ……?)
しばらくタイムラインを眺めていると、クラスメイトからメッセージが届いた。
「千尋、風邪大丈夫か?」
アプリを開くと、他のクラスメイトからも何件かメッセージが来ていた。
「風邪やばくて最近スマホ触れなかったから、メッセージ溜まってんなぁ……」
そう呟きながら、順番に返信し、スマホを置いた。