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第一部 9話 やっと分かった気がした

 先ほど出てきたばかりの冒険者ギルドへと戻る。

 すぐに街の冒険者が集まってくる。どうせ隣の酒場で飲んでいたのだろう。


 初めて見る顔が多い……というか、ニコ以外の冒険者を初めて見た。

 実在したのか、ハイデの冒険者。


「お前ら! 先ほど連絡した通りだ。

 大量の魔物が迫ってる。龍帝山脈の麓にある森から流れてきてるらしい」


 ギルド長が声を張り上げる。

 今日は受付嬢ではなかった。

 

「原因不明! ただ、俺たちだけで討伐は難しいと思われる。

 あまりにも数が多すぎる。近隣の魔物が全部押し寄せてると思え」


 ギルドに集まった冒険者たちが息を呑んだ。

 軽く五十人以上は集まっているだろう。だが所詮は辺境のギルド。


 このような事態に対応することは考えていないのだ。

 となれば、籠城だろうか。ハイデの外壁は高い。簡単に破られることはない。


「そこでB級以上の上級冒険者には特別依頼を出そうと思う。

 かなり細かい指示をするから後で俺のところに来い」


「?」

 B級冒険者が何とか出来る状況ではないと思うのだが……。


「残りのメンバーはひとまず待機。

 後で魔物を討伐に出てもらうからそのつもりでいろ!」


 どうやら俺たちは後で出撃すれば良いらしい。

 街の上級冒険者たちは誰が依頼を受けるか争っていた。




「……変な状況になったな」

「ま、ハイデにはハイデのやり方があるんだろうよ」


 俺が言うと、カイは首をすくめて見せた。

 今、俺たちはハイデの外壁に上っている。


「んー、でも魔物の数は結構いるぞ?」

「……流石に多いね」

「ハイデには長い間いるけど、こんなことは初めてだよ」

「魔物の異常行動自体は珍しくないぞ」


 眼下には魔物の群れが迫っていた。

 龍帝山脈を背にしてこちらへと走っている。


 本来であれば魔法などの範囲攻撃で対処すべき問題だ。

 いくら初心者向けの地域とは言え、これは確かに多すぎる。


 その時、ゴーン、と銅鑼が鳴る。

 魔道具を通して声が響いた。


『第一陣、出発!』


 さらに都市の門が開かれる。

 勇ましい声を上げながら、馬に乗った冒険者が魔物へと向かっていく。

 

 なんだ。

 誰を囮にするか、なんて言っていたけど、やる時はやるんじゃないか。

 

 ん? なんだあれ?

 ただ、一つ気になる点があった。

 

「……白旗?」

 

 カイも気が付いたらしい。

 冒険者たちは大きな白旗を掲げていたのだ。

 

 降伏のつもりなのか?

 魔族ならともかく、魔物に白旗なんて意味があるはずもないが……?

 

 そこでもう一度、ゴーン、と銅鑼がなる。

 魔道具の声が続いた。

 

『第一陣、旋回!』

 

 ん? 旋回?

 魔物の鼻先で冒険者たちは道を逸れる。

 

 冒険者に釣られる形で魔物の集団が後を追う。

 ……どこへ行くんだ? 


 見れば、全員が首を傾げていた。

 ゴーンゴーン、と銅鑼が鳴る。


『第二陣、出発!』

 さらに同じことが繰り返される。

 

「何やってるんだ?」

「? さぁ……? 囮でもやるのか? だが、馬が潰れたら終わりだろ」

 

 魔物にはウルフのような機動力のあるものもいる。

 短い間ならともかく、長距離を逃げ切ることは難しい。

 

 良く分からない光景は四回繰り返された。

 ゴーンゴーンゴーンゴーン、と銅鑼が鳴る。

 

『第四陣、旋回!』

 

 第一陣と第二陣は大きく弧を描くように旋回して行ったが、第三陣と第四陣はUターンをするように引き返して行った。

 

 いや、何の意味があるのかは不明なのだが……。

 そもそも意味が存在するのか? 

 

 とにかく、これで魔物の大半はハイデを素通りするように分散された。

 残った魔物であれば、ハイデの冒険者でも対応できるだろう。

 

「……嘘だろ?」

 カイが呆然とした声で一点を指さした。


 魔物を引き連れた冒険者が一か所へと向かっていた。

 第一陣から第四陣まで全てが、だ。


「あれは……砦か?」

 

 目を凝らす。

 遠くて見えづらいが、城壁のようなものが見える。

 

「騎士団の詰所よ」

 ニコが目頭を押さえていった。

 

「え? 騎士団の詰所? つまり……」

 

 俺は恐る恐る、カイを見た。

 逃げていた冒険者が詰所へと入っていく様子がぼんやりと見えた。

 

「白旗を掲げたまま、魔物を引き連れて騎士団の詰所に突撃しやがった!」

 

 今頃、詰所は阿鼻叫喚だろう。

 正しい意味で『襲撃』である。

 

 しかし、流石は騎士団。

 ハイデとは保持している戦力が違った。

 

 第一陣が逃げ切ると同時、大規模な魔法が発動する。

 恐らく第四階梯の火属性魔法。第一陣が引き連れて来た魔物が吹き飛んだ。

 

 一呼吸を置いて、第二陣、第三陣、第四陣と魔物を率いたハイデの冒険者が到着する。腹が立つことに、魔法を放つのにちょうど良い間隔だった。

 

 連続で魔法が放たれる。

 誘導された魔物たちが合計四度吹き飛んだ。

 

「完璧だ! 移動ルート、タイミング、速度、ヘイト管理。

 ここまで見事に魔物を誘導できるものなのか……?」

 

 カイが思わずと言った様子で呟く。

 こいつがここまで言うのも珍しい。

 

「そんなに凄いことをやっているのか?」

「やっていることはただの屑だ」

「……それは見れば分かる」

 

 カイは悔しそうに、あるいは不思議そうに顔を顰める。

 

「だが、軍隊運用に関しては神業に近い。

 精強で知られる帝国でもこれほどの統率力があるかどうか……」

 

 魔物をここまで的確に誘導してみせたのだ。

 簡単にできることではないのだろう。

 

 とうとう騎士団が詰所から飛び出してきた。

 魔法で撃ち漏らした魔物を倒そうとしているのだろう。

 

「ああ、さらに敵……いや、詰所の戦力も把握しているな」

「敵じゃねぇんだよ。味方に白旗を振りながら魔物を連れて行ったんだ」

「……騎士団だからな。白旗を振る国民ごと吹き飛ばすわけにもいかない。

 騎士団で対処できることを知っていたんだ。強力な魔法使いがいることもな」

 

 悪質にも程がある。

 自分たちでは対処できないからと魔物を完璧にコントロールして押し付けた。

 

「ねぇ……これって『共犯』にならないよね?」

「…………」

 

 憔悴した顔で、アリアが俺たちを見る。

 俺もカイも目を泳がせるしかない。

 

「大丈夫だよね?

 反逆罪幇助とかじゃないよね?」

 

 元伯爵令嬢の声が外壁の上に空しく響いた。




 待機していた冒険者たちで、残った魔物を倒していく。

 討伐は思ったよりも簡単だった……大半は騎士団の詰所へ向かったからだ。


 罪悪感と一緒に、やっと分かった気がした。

 これがハイデなのだ。


読んで頂きありがとうございます!

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