表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

第一部 2話 ふりだしに戻る

 勇者パーティをやめて一か月が過ぎた頃――


「おい、ハイデはまだか?」


 果てしなく続く街道を見て、俺は心が折れそうになっていた。

 俺たちはそれぞれが転職を果たした上で、パーティを再結成している。


 その際、自分たちの素性がバレないように名前を変えることにした。

 俺は元勇者『アレス』で今は新人魔法使い『アレク』だった。


「ねぇ、どうして馬車を使わなかったの?」


 俺と契約を結んでいる風の精霊……シルが口を尖らせた。

 今は小さな妖精のような姿をしているが、人の姿に化けることもできる。


 人の姿になっている間は、背が高くてすらっとした美女だった。

 風の扱いに長けた、高位の精霊である。


 精霊は清らかであり、汚い嘘や欲望を嫌うとされている。

 王城での謁見でも姿を隠して、褒美を受け取らなかった……そう、あの頃は。


「それはね? シル、あなたが酒とギャンブルに路銀を使い込んだからよっ!」


 元聖女『セリア』であり、新人斥候『アリア』が叫んだ。

 斥候らしくない綺麗な長い銀髪と大きな胸が揺れる。


 アリアは小柄なのにとびきり可愛らしい顔立ちをしている。元は大貴族の一人娘で、所作一つ見ても気品を感じる……勝手に斥候になって今は絶縁されたが。

 

 対するシルは藪蛇だったと気づいて顔を背けていた。そう、シルは王都で過ごす内にみるみる堕落していった……精霊が清らかだというのは偏見だと知った。


「頼む。もう少しで着くから黙っていてくれ……」


 元賢者『カイル』であり、新人剣士『カイ』がか細い声を出す。

 いけ好かない金髪のイケメンだが、今は余裕がなさそうだった。

 

 具体的には、腰の長剣を重そうに引きずっている。こいつは身長があるくせに、体力はない……だと言うのに、形から入る癖があった。

 

 最初は簡素な甲冑も着ていたほどだ。

 しかし馬車を使えなくなると、流石に無理があった。


 そこをシルに付け込まれ、言葉巧みに甲冑をバラ売りされていった。

 一つ、また一つと装備を剥がされて、今では長剣と革装備になっている。


 実はすでにシルが長剣も狙っているのだが、カイは頑なに死守していた。

 もう少しで陥落したかもしれないが、この調子だと逃げ切りそうだ。


 ……本当に、こうして見るとシルの酷さが際立つ。

 魔王討伐までは一番まともだったのになぁ。




 ハイデ。通称『はじまりの街』と呼ばれる。

 恐らくだが、魔王城からこの街まで逆走した冒険者は俺たちくらいだろう。


 名前の由来は単純だ。要は初心者向けの街とその一帯を指す。

 言い換えれば……冒険者、魔物ともに王国最弱の地域だった。


 どうして俺たちがこのハイデを目指すのかと言うと、それも単純。

 他の地域は、転職後の俺たちにとって『強すぎた』のだ。


 俺たちでも『ハイデなら勝てる』と信じてやって来た。

 おかしいな、二か月くらい前は魔王城で戦っていたはずなのだが……?


 戦利品の数々も気付けばシルが使い切ってしまった。

 ほとんど無一文でハイデを目指している。


 ――俺たちは見事に落ちぶれていた。


読んで頂きありがとうございます!

ブックマーク、評価など頂けると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

以下のサイトにURL登録しています。

小説家になろう 勝手にランキング


ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ