第一部 14話 改めてよろしくお願い致します
夜が明けるなり、俺たちはハイデへと急いだ。
昨日までとは緊急度が全然違う。
「ギルド長はいるか?」
いつもの受付嬢さんに声を掛ける。
「ふぇ?」
「…………」
うたた寝から目覚めると、受付嬢さんは受付台から顔を起こした。
いつでも寝てるじゃねぇか。まだ朝だぞ。
「だから! ギルド長だ! 呼んでくれ!」
「……いないって言え。要件だけ聞き出せ」
受付嬢さんの背後から声が聞こえてくる。
いや、絶対にいるだろ。
「呼ばれてますよ、ギルド長」
「……ち」
そして受付嬢さんは手慣れたものだった。
ギルド長が嫌々といった様子で顔を出す。今日も受付嬢ではなかった。
「すぐに伝えたい話がある」
俺たちは森で見たものについて説明する。
「あら大変ですね。
どうやって騎士団に泣きつきますか? ……失礼」
受付嬢さんの言い草はとんでもなかったが、実際に騎士団と連携する必要はあるだろう。魔族領深部の魔物はそれくらいには危険だ。
魔物の数にもよるが、ハイデの戦力で太刀打ちできるのはレイとエミルくらいだ。……あぁ、後はシルか。
「お前ら、騎士団の詰所に行ってくれないか?」
「それは……」
正式なギルド長からの依頼だった。まぁ、発見した俺たちが行くのは分かる。
元々ニコは行く予定だったし、付き合っても構わない。
「…………」
ただ、レイたちに顔を合わせづらい。
昨日は声を掛けなかった分、余計に。
「良いよ、報酬は?」
シルが言った。本当に図太くなったな。
「仕方ない、払ってやる」
ギルド長が返した。負けず劣らずに図太い。
仕方なく払うなよ。
まぁ、受けるしかないだろう。
「……分かった」
個人的な都合で街を危険に晒すわけにもいかない。
「あと、魔物の情報提供をした報酬は……ぎゃ」
どこまでも強欲な精霊をぺしりとはたいた。
騎士団の詰所は思っていたよりも近かった。
ハイデを午前中に出発すると、昼前には到着した。
正式には王立騎士団西方警備隊詰所。
詰所とは言っているが、実際は砦と言って良いだろう。
「ハイデからの使者だ! 気をつけろ!?」
俺たちが近づくと、門番をしていた騎士団員が声を上げる。
「……敵が来たような扱いだね」
「無理もないだろ、昨日の今日だぞ」
アリアの言葉にカイが応じた。
実際に敵を連れてきたからな。
「……ギルド長からです」
敵意がないことを表しながら、俺は書状を手渡した。
「そこで待て!」
「はい」
門番の一人が書状を持って、詰所の中へと入っていった。
書状の確認をするのだろう。俺は素直に頷いた。
俺たちは随分と立派な部屋に案内された。
恐らくは執務室だろう。きっと中に隊長のレイがいる。
俺たちは肩身の狭い思いをしながら、部屋に入っていった。
思った通り、レイがいた。大きな机で書類にペンを走らせている。
その隣にはエミルも立っていた。
二人とも表情は優れない。ハイデに対する嫌悪感が滲み出るようだ。
「何のつもりかは知らないが、性懲りもなく……」
レイはまともにこちらを見もせずに口を開いた。
「あー、久しぶりだな。レイ、エミル」
二人が俺たちを見る。
ニコも「え?」と驚いた声を出す。
そういえば、顔見知りだとは話していなかった。
「……アレス様!?」
レイが叫ぶ。
俺は消息不明扱いになっていたはずだ。
ここまでは予想通り。
しかしレイはさらに叫ぶ。
「それに、二コラ様まで!? どうしてここに!」
俺とニコが同時に首を傾げる。
「二コラ様?」
「アレス様?」
一緒に来たにも関わらず、レイに問いかける。
すると真面目に紹介してくれた。さぞや不思議な気持ちだっただろう。
「こちらは『風』の勇者、アレス様。
魔王の討伐に成功した勇者様一行です」
ニコがあんぐりと俺たちを見た。
「こちらは二コラ・ハイデリカ様。
ハイデ領の領主様のご令嬢です……先日から行方不明となっていました」
俺たちもあんぐりとニコを見る。
「あの……ご存じなかったのですか?」
レイが気まずそうに訊いた。
その通り。
俺たちはやっと本当の名前を知ったのだった。
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