小さな悪戯大きな災い
日本なのに外国の行事を当たり前のように実行するのはどうなんだろうか。
クリスマスなんかがいい例だ。
まあ、バレンタインデーとか、日本の商戦故に発達したイベントごとだろう。
日本人はお祭りが大好きです。
私も大好きです。
お祭りハイテンションイエア☆
我を忘れて騒ぎたい気持ちはわかるんだ。
祭りマジックといえる、異様な告白率とか行動力には目を見張るものがあるんだ。
いいじゃない、祭りマジック。
祭り大好き。
イエア☆
…うん、現実逃避なんだ。わかってくれてありがとう。
別にこんなテンションで生きているわけじゃないから頭の心配はしないでほしい。ちょっと混乱しているだけだから。
うん、私は混乱している。
何にって、今目の前のこいつにだ。
「ちょっと、人の話はちゃんと聞きなさいよ」
「聞いてるからちょっと、離れてくれない?」
「逃げるからダメよ」
目の前のこいつは、がっちり私の腕に抱き着いて離れない。柔らかいものが当たってますよご褒美ですかありがとうございます。いや私は親父じゃない。何のご褒美にもならない。むしろ自分の貧相さに打ちひしがれる。やめてくれ。私は貧乳じゃないスレンダーなんだ。
「で、あたしはどうしたらいいと思う?」
「まさしく私が聞きたい」
「あたしが先に聞いたんだからこっちが先よ!」
「いやでも、先とか言われても」
ちらりと、目の前のものを凝視。
重病経過、変わりなし。
あ、間違えた十秒だよね。いけないいけない。でもなんだろう誤字じゃない気がしてならない。これは重病だ。目の病気だ。私は空いた方の手で目元を覆い、天を仰いだ。ああ、医者が来い。
「…なんで、猫耳…」
ハロウィンはもう過ぎたじゃないですか、やだー。
問題は、つい十分前までさかのぼる。
私と友達の佳苗は授業を終えて教室で駄弁っていた。部活は入っていないし、お金がピンチで店にいけそうもなかったからだ。
でも今思えば財布に五円しかなくても店に行くべきだった。それも縁だよ何かの縁だよ。
佳苗は小悪魔だ。どれくらい小悪魔かというと小動物系の小悪魔で、憎めないあざとさで男たちの周りをちょろちょろする小悪魔だ。
ちなみに小動物で、女のグループの方にも「うざいとこもあるけどなんか憎めない小動物」として混ざっている。
全部計算だ。こいつはちやほやされることが大好きなのだ。
でも遊びで付き合ったりするわけじゃない。ただ構われたいだけのさびしがり屋なのだ。なので軽い告白には応じないし、真剣な告白にも真摯に受け答えする。ただ人より甘えたがりで、嫌われないようにふるまうのが上手いというだけだ。
そんなこいつも幼馴染で友達の私の前では素に戻る。素のこいつはちょっと我が儘度合いが上がる。小動物じゃなくて女王様だ。女王様って程じゃないかな? お嬢様?
とにかく私相手には強気。私もそれを許容してるから、昔からの付き合いだから、見捨てないってわかってるんだろうね。
そんな彼女が、先日ハロウィンだったからお菓子をたくさんもらった。
…小動物って子ども扱いされるよね。
で、甘いものが実はそんなに得意じゃないこの子と一緒に、私もお菓子を消費していた。教室で。
ここで言っておかなくちゃならないことが一つ。
私たちが通っている学校は、一般の学校とは少し違う。
いうなれば魔女の学校。
そんな学校でもらったお菓子を無防備に食べちゃったら結果は当然というか。
猫耳娘の出来上がり(どーん)
…。
あ、でも猫耳でよかったのか?もっときわどいのがあった可能性も…。
薬系の魔法は大抵時間がたてば元に戻るので、それほど焦ってはいない。目は疑ったけど。ただ問題は一つ。
猫耳の生えているこの子。
猫アレルギーなのである(どーん)
猫アレルギーの子に猫耳が生えて…平気なふりをしているが、くしゃみは出るし肌は湿疹ができるし、全身痒そうだ。
そんな彼女と相対する、この私。
何を隠そう。
猫恐怖症なのである(どーん)
猫怖い猫怖いなんであいつらこっちじっと見つめてくるの? なんで時々後ついてくるの? なんで何もない所じっと見つめてるの?なんであんなに高い所にジャンプできるの? びっくりするんですけど。なんで道路の真ん中で丸くなるの? ハラハラするんですけど。猫様こっち来ないで怖い怖い!
目の前のネコ娘怖い!!
でもこの子友達なんですけど! 現在アレルギー症状でめちゃくちゃ苦しんでる友達なんですけど! 苦しんでる友達おいて走って逃げることはさすがに出来ないんですけど! でも傍に居たくないんですけど!!
とりあえずポケットティッシュを献上したが、あっという間に消費されそうだ。悲しいことに時間帯の所為で職員室に行っても教員は少ない。部活があるし、実は下校時間が近いんです。でもこのまま帰るのもやばい。学校は魔女の学校でも、町は普通の町なんです。普通の町をネコ娘を伴って歩けません。ハロウィンなら別にセーフかもだけど、言ったけど、過ぎてますから!! お前遅れてますから!!
あいにく上に羽織るようなものも持ってきていない。まだ行けると思ったんだ。こんな寒さじゃまだいらないと思ったんだ。甘かった。寒さだけの問題じゃなかった。
「使い魔のちーくんに上着持ってきて貰う?」
最初に実は提案していた、この子の使い魔ちーくん(雀)だけども。
「ちーくんが美味しそうに見えるから、今呼べない」
「猫怖い!!」
この発言でなしになった。
猫怖い。
私の使い魔も鳥系なのでダメだ。喰われる。猫怖い。
というか誰だこんなものお菓子に混ぜだの。ちょっとしたお茶目かもしれないけどその人にとってもタブーはあるんだからむやみに「萌え☆猫耳」とかやめてほしい。あれに萌えることができるのは猫が好きな人だけだから。本当に。やめてほしい。
遠い目をしていたのを現実に戻した瞬間、私は見た。
彼女のスカートからゆらゆら揺れる、尻尾を。
「生えてうあkじゃksdh;あlふぃうぇhば;kば!!」
「は?」
だめだー!! まじでだめだー!! なにこれ怖い進化してる!? 最終的に猫になる!? なったらどうしようどうしたらいいのくしゃみしまくる猫とかどうしたらいいの呼吸平気なの!? というか怖いんですけど猫を使い魔に選ばなかったのは本当に猫が怖いからなんです勘弁してくださいお願いします先生助けて!!
「ねえちょっと、だからあたしどうしたらいいの? っしゅん、ず、痒い…泣きたくなってきたんだけど…なんか目も痒くなってきたんだけど…!」
「ああ可哀相!! 鼻がすごく可哀相! でも私も可哀相! 猫マジ怖い!! 尻尾! 尻尾生えてうえあがldkfはg;おいh!!」
「は? …ん、わー、マジだ。やだなにこれ怖い。つーかキモイ。ぐす、」
「もうだめだこれダメだマジでダメだせんせぇええええええええええ!! 誰でもいいからせんせぇえええええええ!! 生徒の危機です助けて怖いマジ怖いなにこれ猫怖いぃいいいいいいい!!」
アレルギーと恐怖で動けない私たちを助けてくれたのは通りすがりの後輩でした。
マジありがとう後輩。でも後輩に情けないところ見られて本当に泣きたくなった。
ちなみに犯人は小動物大好きな女性の先輩。「ハロウィンだし、魔女だし、ときたら小動物は猫よね! 萌えよね!」という発想からの行動だったらしい。まさかの事態に後日謝罪に来た先輩は大変申し訳なさそうだったが、絶対いつか復讐したいと思う。そう、クリスマスの時なんかに。
イベントではっちゃけるのは日本人だし仕方ないよ。私もそうだよ。
だけど節度は守ってくださいお願いします!
後日談。
あの悲鳴で学校中に猫がだめだとばれた私たちは、しばらく猫の可愛さについて猫派の人間にすごく詰め寄られた。
やめてくれ。そういう問題じゃないんだ。やめてくれ! やめてくれ!
「もー、何が不満なのよ! こんなに可愛いのに!」
「不満とかじゃなくてもう本能のレベルでダメなんだよやめてくれぇええええ!」
「可愛いと思うけどアレルギーは、っくし、どうしようもないよ…?」
「あああごめんね佳苗ちゃん!佳苗ちゃんは仕方がないよね! あんたは克服しなさいよ! お猫様のために!!」
「なにこれ理不尽!!」
すぎたはずのハロウィンの衝撃は、しばらく私を苦しめる様子です。
やめてくれ!
昔別サイトへ投稿していたとっても短い短編。
最近アレルギー女子のお話を投稿したので、発掘してきました。
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