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夢の旅人は異世界に行く  作者: 不口 否
序章始まりの街ドナイ
9/23

オーガスタンピード〜その一〜

 議事堂のような広々とした建造物。

 アーサーに連れられ三人は、広々とした騎士団のドナイ支部内を歩いていく。

 内部はシンプルであり調度品は少ない。

「意外に飾りとかないんだな」

 黒が呟くと、アーサー頷く。

「虚飾に惑わされ、腕が鈍らねぇようにな。

 それに、この位質素の方が歩きやすいだろ?

 何かの拍子に壊してもつまらんからな」

「確かに。

 訓練とかで疲れてる所、壊してもつまらんな」

「まぁ、そういうことだ」

 廊下を歩いていくと、途中、サッカーコート程の中庭の横を通る。

 そこでは騎士たちが木剣を持ち、実践訓練をしている。

 人数は20人ほどいる。

「あいつらは新人でな。

 黒の目からどうだ?」

 立ち止まってアーサーが尋ねると、黒は見渡すように眺めてから指さした。

「あそこの茶髪に刈り込んだ奴の両手斧の手捌き、身のこなしは、他の連中よりキレがあって隙がないな。

 本物の両手斧でもあんな動きをするのか?」

「確かにあいつは新人の中で一番の実力者だな。

 本物の両手斧でもあのくらいの動きをやってのける。

 まぁ、まだまだだがな」

 アーサーに比べたら、今の俺だってまだまだだろ とツッコミたくなるも敢えて口にはしない。

「どうだ?」

「どうだって?」

「お前ら三人につける騎士団数人の中に入れていいかって事だ」

「いやいや、期待の新人をここで使い潰す気か?」

「使い潰すって、そんな薄情じゃねぇよ。

 優秀だからこそ、実践で自分より強い奴の動きを見せてやり、強い魔物に触れさせる。

 それが強い騎士を育てるコツだ」

「長年育て育てられた人の意見がそうなら、そうなんだろうな。

 俺は構わねぇが、2人はどうだ?」

 葵とリューリに尋ねると、葵も品定めするように見つめる。

「いいんじゃないのかい?

 自分の身は自分で守る事が出来る前衛なら文句ないね」

 リューリも同意するように頷く。

「私もいいと思うよ」

 すると、アーサーは満足気に頷くと、茶髪の名前を大声で呼んだ。

「クルト!!」

 クルト・バルテンと対峙していた騎士は、声の主へと視線を向ける。

 相手がアーサーだとわかると、

「アーサーさんだ。

 ちょっと行ってくる」

「おう」

 相方は休憩でもするのかベンチの方へと向かった。

 重そうな騎士の鎧を着込んだクルトはその重厚さを感じさせない軽い足取りで駆けてくる。

「アーサーさん。なにか御用で?」

 と、尋ねながら、黒たちへと視線を向けると、尊敬の眼差しを送る。

「貴方は、クロさん!?」

「おっおう。

 俺の事を知ってるのか?」

 すると、頷きながら黒の左手を取り、両手で握って握手する。

「アーサーさんや街で噂を少々聞いてます。

 ゴガバを倒した三人パーティで、夜でも街の外で魔物を狩りまくり、美人冒険者で有名な、なかなかパーティを組まないアオイさんと、最年少Dランクで暴れ馬の美少女、大剣と双剣の二種武器を使うリューリを手なずけた事で有名です」

 リューリのいいように、酷い物言いだな と思うも、リューリは自覚があり、その異名も知っている為、特に気にした様子は無い。

「手なずけた訳じゃないぞ。

 リューリの戦い方にこちらが合わせ、こちらの戦い方に納得してもらい、リューリも合わせてくれているだけだ」

「それが今までできた人が居ないから暴れ馬なんですよ!!」

 それを聞くと、葵とアーサーに、そういうものなのか? と尋ねると、ウンウン と頷いてみせる。

 そこで、アーサーがクルトに話を振る。

「今回のスタンピードの事は知ってるな?」

「はい!!

 仲間内で情報は回ってます」

「なら、話が早い。

 クルトは黒たちに着いて行ってもらい、取り巻きの雑魚処理を手伝って貰う」

 その台詞に驚いてみせる。

「俺がですか?」

「そうだ。

 なぁに、ムレアやエミールなんかも着いていくから、安心しろ。

 俺もいるしな」

 すると、真剣な顔立ちになる。

 その顔立ちは凛とし、まさに騎士、と言う面構えである。

「まだまだ、若輩者ですがよろしくお願いします」

 とは、言うものの、年は黒と同じである。

 黒もそんな誠実な彼の態度に、いつも通りの感じで答える。

「おう!!

 よろしく頼むな」

 そして、そのまま会議室へと向かう。


 腕が6本、頭が3つの大男が、黒いフード付きのマントを被る男に告げる。

「大アルカナの所在がわかったそうじゃないか」

「はい。

 始まりの街と呼ばれるドナイに二つあるというとこまでは掴んでおります」

「ちゃんと、手は打っておるのだろう?」

「はい。

 近隣のオーガに小アルカナをいくつか授けて、ドナイへの襲撃をするよう、仕向けてあります」

「ほう?

 小アルカナを渡すとは、中々に大きく出たな」

「はい。

 今ある小アルカナはアシュラ様が持つ物と、それとは別に私が預かっている四つのみですが、オーガロードには、内二つを渡してあります。

 アシュラ様でも、二つしか所持していない大アルカナです。

 そのくらいのリスクは犯す価値はあると思います。

 それに、人間族は特に、アルカナに付いての知識は殆どありません。

 万が一、失敗しても回収は用意かと」

「確かにそうだな。

 女神は人々がアルカナを悪しきことに使わぬように一部にしか伝えて居ないと聞く。

 ならば、大丈夫か」

「はい。

 それに、ドナイは始まりの街です。

 ドナイ唯一のAランク騎士ーーアーサーさえ抑えれば問題ないでしょう」

「Aランクか。

 中々に苦戦するのではないか?」

「はい。

 ですので、アーサーは私がこの魔法アイテムで押さえ付けて起きます」

 その手には、小さな魔石が載せられている。

 魔力を込めて相手に放つと、輪となり縛り上げ、ステータスを全て半分にしてしまう魔石である。

「それを使うのか。

 まぁ良い。大アルカナだからな。

 多少の出費は目を瞑ろう」

「はい。ありがとうございます」

 そして、魔石を懐にしまうと、

「では、参ります」

 そう告げると、瞬間移動の様に消える。

 アシュラは台座に余裕そうに座り、

「また1歩、あのお方の野望への一歩が進むか」


 会議はつつがなく進み、作戦会議は終わる。

 会議室には、アーサー隊長率いるその幹部5名と冒険者ギルドからはレイギンとCランク冒険者のパーティリーダー10名、それと黒達三人である。

 作戦は、雑魚は騎士50名、Eランク以上の冒険者30名で当たり、道を切り開いて、アーサー率いるムレア、クルトから始まる10名と黒、葵、リューリの三人である。

 作戦の決行は明日となり、それはもう予定に組んでいた為、冒険者の方は数は揃っている。

 会議を纏めるのはレイギンとアーサーである。

 アーサーが周りを見渡すと、

「他に何かいいアイディアや意見はないか?」

 すると、Cランク冒険者でも屈指の、白髪に眼帯をつけているのが特徴の、無精髭を生やした三十半ばの男ーーハーマンが意見する。

「ここまで話を進めててなんだが、そこのレベル1で本当に大丈夫なのか?」

 渋みのある声音で抗議すると、他のCランク冒険者も同意見のようで、疑心の目を向ける。

 それを跳ね除けるように、アーサーが笑ってみせる。

「お前らでも苦戦するゴガバを倒してるんだ。

 実力は俺が太鼓判を、押してやるよ。

 それとも、俺が押すこの男を疑うのか?」

 アーサーには皆借りがあるようで、目を伏せる。

 プレッシャーを掛けてくれる と黒は思うも、自分も声を上げるべきと立ち上がる。

「俺は確かにレベル1だが、納得いかない者は、今日の夕方までに、腕試しをしてもらって構わない。

 明日に響くと良くないから、夕方までにしてくれ」

 よく言った と言う顔つきのアーサーに対して、レイギンは、明日に響かないか? と眉間を揉んだ。

 すると、ランク縦社会の冒険者たちに火がつく。

 先程のハーマンが立ち上がり、

「なら、俺の相手をしてもらおうか?

 俺はこれでもドナイのCランクの中では一番強いと言われているからな。

 お前が俺を倒せばみんな納得するだろう?」

 他の冒険者を一望するように視線を送って言うと、一同、頷き納得する。

 黒も頷くと、

「いいだろう。

 それで納得するなら、俺も構わなし、負けたらこの作戦から降りてもいい」

 正直、アルカナを集める事の方が大事であり、こいつらに認められようが認められなかろうが関係ないと思う黒。

 でも、今はこうした方がいいと思い、この案を出した。

 リューリも葵も、そんな黒が負けるとは微塵も思ってはいない。

 それは、彼がステータス以上の技量を持ち合わせている事を知っているからである。


 所変わって中庭の訓練所。

 騎士とCランク冒険者たちが、サッカーコート程の訓練所の周りに集まっている。

 先程の会議に参加していないCランク冒険者もいる。

 おいおいレベル1で敵うわけねぇだろ。

 運良くゴガバを倒したからって調子に乗るんじゃねぇよ。

 美人二人もはべらせやがって!!

 やっちまえハーマン!!

 と、黒よりの冒険者は居ないが中には黒の実力を見極めようと黙って見ている者もいる。

 片手斧にスパイクシールドを持つハーマンと相も変わらず、黒のトンビコートに、黒つば広ハットと、黒の皮パンに腰にぶら下がる2本の刀の出で立ちの黒。

 それを引き抜くと、ハーマンは挑発するようにニヤリとする。

「そんな細い剣で俺に勝てるのか?」

「お前こそ、そんなトゲトゲの重そうな盾と片手の斧で俺の斬撃を受け切れるのか?」

「戯け!!」

 スパイクシールドに身を隠すように突進する。

「自ら視界を阻害するとはな」

 黒はそれを横に跳躍して避け、地面を蹴り左から斬り掛かる。

 それを強引にスパイクシールドをずらして受け止める。

「鈍足に見えるだろうが? 俺はこの盾と斧でやってきてんだよ!!」

 斧を振り下ろすと、軽く身を逸らして避ける黒。

 そのままスパイクシールドの棘に向けて、黒夢を振り下ろす。

「なんだと!?」

 スパイクシールドの棘は意図も容易く切り落とされる。

「重量の割にもろいんだな」

 黒がニヤリと余裕を見せる。

 こいつ、本気をだしてない!? とハーマンは感じ取ると余裕は消え焦りを見せる。

 そのまま後ろに跳躍する。

 観客のCランク冒険者たちは、まさかスパイクシールドの棘を切り落とすとは予想だにしておらず、驚愕する。

 黒は綺羅夢をハーマンに向ける。

「まだやるか?」

 余裕の黒に対して、悔しそうに歯をかみ締める。

「当たり前だ!!」

 盾を前に斧を振りかぶる。

 突進の一直線の攻撃と見せかけて、2メートル手前で斧を投げる。斧技のトマホークである。

 斧は黒に向かいクルクル回って飛んでくる。

「リューリの双剣の方が綺麗でキレもスピードも上だ!!」

 刀を乄の字に構えて一気に開いて斬波で叩き落とした。

「なんだと!?」

 斧を叩き落とされて驚愕する。

 斧は地面に突き刺さるも、魔石の効果で手元に戻る。

「お前、本当にレベル1なのか?!」

 ハーマンが問うと、黒は刀を一振して刃先をハーマンに向けた。

「俺のレベルはな」

 どういう事だ? と困惑するも、ここで引いたら男が廃る と盾を背にしまうと、斧を両手でち、グルグルと回った。

 斧技のブレードロールである。

 それに対して黒は斧を刀で流し捌く。

 鋼と鋼がぶつかり合う。

「捌くので精一杯か?」

 ハーマンが言うと、黒は挑発し返す。

「お前がCランク止まりな理由がわかる攻撃のチョイスだな」

 ブレードロールは多勢に対して切り込んでいく技であり、単体に対して使うものではない。

「調子に乗るな!?」

 回転の最後に衝撃波を、含む一撃の横一線の打斬ーーショック・ブレイクである。

 植物系の魔物の弱点をつけ、当たればスタンを取る事の出来る重撃と衝撃波の2段ダメージを、与える。

 それを黒は一瞬で見抜くと衝撃波の範囲外へと跳躍する。

「ちょこまかと!?」

 苛立つハーマンにクイクイ、刃先を向けて挑発する黒に乗ってしまう。

「ならば、この一撃で決めてやる!!」

 ほう? と思い構える。

 すると、ハーマンは高く飛び上がり、

「これが俺の今覚えている最強技だ!!」

 斧の重みに自分の体重を掛けて重力のままに縦一線の重撃。斧技ーー薪割り・ダイナミック。

 その一撃は破壊力抜群である事は見て明らかであるが、

「そんな技、仲間と連携して使うものだろ」

 だから、Cランク止まりなんだよ と思いながら、風夏旋回斬の派生技、龍の如き飛翔をし、そのまま振り抜き鎌鼬のような風の刃を起こし、飛行している敵を落下させる効果がある斬撃波、風刃昇竜(ふうじんのぼりりゅう)で迎え撃つ。

 重撃が黒に当たる前に、黒の斬撃波の刃に斬られ、体制を崩した。

「クソがぁぁぁ」

 そのまま地面へと衝突すると、地面を軽く抉った。

 黒は軽やかに着地すると、勝負は着いたと言わんばかりに、鞘へと収めて背を向ける。

 その背に、ボロボロになりながらも立ち上がるハーマン。

「貴様!! 何者だ!?」

「俺は孤児でね。

 自分のことはよくわからんが、レベル1でも強くなれる人間って事だ」

 そして、黒はレイギンに顔を向ける。

「納得いかないならギルド長に俺の最初のステータスと最近のステータスを、見せてもらえ。

 そうすれば俺の言っている事の意味が分かるし、俺の強さに納得せざる負えないだろうよ」

 自分の秘密を暴露していいとレイギンに

 宣言する。

 レイギンは困った表情をするも諦めの表情に変わる。

「知りたい者は、後でギルドに来てください」

 と、溜息を吐いた。


 黒のステータスが公表されてざわめくギルド内。

「嘘だろ?」

「ステータスだけが上がってるって……」

「魔法や技はどうなってるんだ?」

 そんなざわめきの中、ハーマンとその仲間三人が話をしている。

「ステータスは、俺と同等くらいか」

 ハーマンが言うと、魔法使いと思われる男が言う。

「魔法を使っている気配はなかったのか?」

 すると、ハーマンはさも当然な感じで、

「俺が魔法をわかると思うか?」

「いや、えばることじゃないだろ」

「まぁ、そういう気配はないと思ったが……」

「戦う前に最初からかけていたのかもしれないな」

「それはあるかもな」

 二人の会話に弓使いのリスの耳にリスの尻尾を持つ獣人族の女が割り込んだ。

「確かに魔法関連のステータスも高いと思うけど、基本魔法以外に覚えられるの?」

 魔法は皆最初から、自分の属性の魔法が使え、最初から基本魔法は覚えている。

 普通の人は、一部種族を除き、四属性の内最低1つ覚えているものである。

 レアな人で特殊二属性のどちらかか、優劣関係にない二属性か、四属性のうち1つと特殊二属性どちらか1つと言う具合で、最大で優劣なしの二属性と特殊1つの三属性が一部除いた種族が覚えられる最大数であり、先天的才能がモノを言う役職である。

 でも、それぞれの属性には、特徴があり、火属性は火力系統とが多く継続回復魔法もあり、水は回復や状態異常を治す魔法が多く、相手にスタンやノックアップ等のCC魔法が多い。

 土は回復魔法やシールド付与、シールド破壊や防御関係の補助魔法が豊富で、風魔法はCCと回復、攻撃関連の補助魔法が豊富で、火並の火力魔法もが少々ある。

 その代わり、自分が必要とされる属性を欲するパーティがないと武器種の人に比べて、パーティを組むのは難しい。

 パーティは基本的に四人~六人で組まれるのが多く、大所帯だと八人や九人となるが、あまり多いと一日に受ける依頼をその分受けなければならず、結局、二手に別れて四人五人パーティになる。

 そうなると、クラウンという集まりに加入した方が良い。

 クラウンとは、代表者を二、三人決めて、報酬の一部をクラウンに渡し運営するものであり、メリットとしては、パーティを組みやすく、コミュ障でも代表者が配慮してお前たちはこの依頼、君たちはこの依頼と割り振ってくれる。

 デメリットは、依頼や仲間を自由に選べず、報酬の一部をクラウンに渡さなければならない事である。

 クラウンの立ち上げにはギルド内の認可も必要であり、メンバーの名簿も渡さなければならない。

 話を戻してーー

 リスの獣人族の女の問いに、魔法使いの男が応える。

「まぁ、ふつうに考えたら、レベルが上がらないなら、基礎魔法しか使えないはずだな。

 だから、どの属性であれ、強化魔法は使えないはずだ。

 まぁ、アーサーさんはありえないが、あの2人が、事前に掛けてたなら話は別だけど、暴れ馬の方は魔法はからっきしだから、葵の方がもしかしたら掛けてたかも知れないな」

 その台詞に、三人目の長剣とバックラーを装備する男が首を傾げた。

「アーサーさんの目の前で詠唱して、付与したってことか?

 いくら自分のお気に入りだとしても、アーサーさんがそんなこと許すと思うか?」

 それにはハーマンが同意する。

「そんな事する男じゃねぇよ……。

 元パーティメンバーだったから言えるが、あいつはそういうやつじゃねぇし、あいつがそれを許すような監視の仕方なんかしねぇよ」

 リスの獣人族の女が、首を傾げた。

「なら、あの黒って男は、ステータス以上の技量も持ち合わせていたってことになるよね」

「……」

 認めたくは無いがそういうことだ と押し黙って物語るハーマン。

 戦闘センスの差で負けたということか と悔しさと口惜しさを感じる。


「強化魔法は要らなかったな」

 黒率いる三人とアーサーとクルトとムレアと、金髪を後ろで結び、軟派そうな印象の男ーーエミールで交流を兼ねて、メレゲタンで食事をしている。

「詠唱は?」

 ムレアが尋ねると、黒は惚けるように答えた。

「詠唱?」

 勿論、リューリと葵は、黒が無詠唱で魔法を操り、しかも、同時に複数と連続で魔法を使い、魔力量は消費していないことを知っている。

 こういう話題になった時は黙って見守っててくれと、話はしてあるのだ。

「いやいや、魔法を使う時は詠唱して、魔法のイメージをして、魔法陣を魔力量を使って描いて発動するものだろ?」

 そんなムレアの回答に、黒は驚いた振りをする。

「そんなややこしい手順を踏まないと、魔法を発動できないのか?」

 逆に問われ、絶句する。

 アーサーは、もうこいつが何ができても驚かねぇ と諦めに似た感情を抱き、クルトとエミールはムレアの様に絶句している。

 何とか、エミールが声を出す。

「えっと、つまり、クロくんは、無詠唱で魔法が使えるってことなのか?」

「そうだが?」

「「「……」」」

 三人は声を失い、化け物でも見るような視線を送った。

 そんな三人とは別に、興味本位で、アーサーが尋ねた。

「魔法に関して、他に何ができるんだ?」

「他と言われてもなぁ。

 俺にとっては普通だからこれと言って……」

「いや、聞き方を間違えた。

 魔法をどういうふうに扱えるんだ??」

「どうって、連続で使ったり、複数同時に同じか別々の属性魔法を、操ったり、他の属性と合成して魔法を操ったりしてるが……」

 その台詞に、さすがにアーサーも顔を引つる。

「俺は魔法に詳しいわけじゃねぇが、一人で合成魔法だって?」

「あぁ。

 水と火を使って、スチーム・エクスプロージョンや、風と火を合成してフレイム・トルネイドとかそんな感じのを、使っているが?」

 それがなにか? という態度を少し大袈裟にしてみせると、

「よくわかった。

 お前バケモンだな」

 アーサーの台詞に三人は頷き、クルトが尋ねた。 

「さっきの物言いだと、クロさんは何属性使えるんですか?」

「火と水と風と土と太陽と月だが?」

「「「「……」」」」

 もう何も聞くまいと口を閉ざす四人。

 太陽と月もなんぞや? と思うも、もう聞いてやるものか と、心を一つにする。

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