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夢の旅人は異世界に行く  作者: 不口 否
序章始まりの街ドナイ
6/23

異世界の事故物件? その二

 リューリはホール中央の階段を登り終えると、左右に廊下があった。

 正面には両開きの扉があり、こういうところって、食事をする所や会議室的な部屋だよね と、ここは最後と決めて、左か右かに行くことにした。

「こういう時は……」

 ケロを一枚取り出した。

 表は、ケロと言う単位になった、女神ミキラケロ神の横顔が掘られており、裏面には、数字が書かれている。

 ケロは、1ケロ、5ケロ、10ケロ、50ケロ、100ケロ、500ケロ、1000ケロ、5000ケロ、1万ケロ、10万ケロ、100万ケロ、1000万ケロと12種の硬貨がある。

 庶民は精々1万ケロか、良くて10ケロ硬貨しかお目にかからない。

 100万ケロ硬貨以上は、銀行職員か、大商人や貴族、王族ぐらいしか見ないものである。

 リューリが出したのは、縁起がいいとされる100ケロである。

「ミキラケロ様なら左、100なら右」

 そう宣言すると、コイントスをした。

 硬貨はクルクル回りながら宙に弾き上がり、左の手の甲にに落ちるようにし、右手で硬貨を左手の甲に叩き押し付ける。

 右手を離すと、硬貨は100の面であった。

 右かぁ~ とこぼすと、右へと向かった。

 少し歩くと右への曲がり角となり、曲がると薄暗い中、いくつもの扉があったのが見える。

 天井には光の魔石が、等間隔に並べられており、壁にはスイッチがあった。

 そのスイッチを押すと、光の魔石は輝き、廊下を照らす。

「召使い達の部屋??」

 一つ一つ、ドアを開けては中に入る。

 どこも似たような部屋で、勉強机のようなテーブルと、クローゼット、ベットが必ず置いてあり、中には使用人が置いていったのか、メイド服や燕尾服、安物の私服や花瓶、本などが残っている。

「どこの部屋も外れかな?」

 残念と言わんばかりの表情をするも、もしかしたら? と、次こそは、次こそは、と、扉を開けている。

 そして、また右への曲がり角に差し掛かる。

 今度は扉に、掌サイズよりも少し小さい、剣のレリーフが飾られたドアが並ぶ廊下になった。

「門番や警備員の部屋かな?」

 一部屋、一部屋見ていくと、やはり似たような家具や部屋の形であったが、一番奥の突き当たりの部屋は少し違った。

「この部屋は……」

 この屋敷の主が使っていた部屋であろう広く、豪華な調度品が飾られた部屋であった。

「ここなら何かお金になるものがありそう」

 中を物色する。

 大きな窓を開けると、そこはベランダになっており、庭園が見える。

 真ん中には大きな木が一本と、それを円を描くように花畑がある。

「お嬢様が、優雅にお茶でも嗜みそうだな」

 そんな感想をこぼすと、興味無さげに部屋の中へと戻った。

 どれも高価そうではあるが、リューリの琴線に触れるようなものはなかった。

 クローゼットやベッド下なども確認するも特に何も無く、部屋を出ようと思った。

 その時であった。

 ドアを正面から見て左手にある壁に、はめ込まれた姿見鏡が妙に気になった。

「この鏡……」

 下の方を見ると、ほんのわずかだが、隙間が空いているのがわかった。

「まさか……」

 双剣を一本抜くと、その隙間に先端を差し込んだ。

「やっぱり!!」

 剣が隙間に入ると、鏡はその厚さに合わせて浮いたのである。

 隙間に手を入れて、持ち上げると空間があり、その先には暗がりの階段があった。

「何だろう?

 緊急時用の脱出通路?」

 やはり、天井には光の魔石があり、スイッチを探して見つけ出し、スイッチを押すと、この空間に光を与える。

 そして、階段を降りていくと踊り場となり、まだ階段は続いている。

 感覚的に、地下室に繋がっているような深さであった。

「ふむ」

 ここは一度、みんなの元に戻るか? と考える。

 罠とかはないと思われたが、地下となると、ダンジョンのようになっている可能性もあるからである。

 ん~ と唸ると、

「えーい、ままよ。

 女は度胸、男は根性」

 そういうと階段を降りて行った。

 すると、ドアが現れる。

 ドアには、二本の剣が交差しているエンブレムが、飾られている。

 ノブを回すとそのまま開く。

 何があるのか? と中に入ると真っ暗な部屋であった。

 さっきの通りなら…… と入口周辺の壁をぺたぺた触ると、やはりスイッチがあり、部屋を明るくてらしだした。

「??」

 疑問符を頭の上に付けている風になると、奥には小さな棺のような四角い箱とその上に紙が置かれていた。

 紙を見る。

 ミキラ歴5872年5月12日(風)

 四大獣(したいじゅう)の一柱、冥府の門番 紅蓮の爆蛇 エクスプローディング・スネークより、依頼達成の報酬として短剣を与えられ、我らフレート家の家宝とする。

 この短剣、持ち主を選ぶ。

 認められ無い者が持てば、その手が爆散する。

 そのため、一族が手に持つ事禁ず。

 ただし、これを見つけ出しし者が、この短剣を手にし、爆散しなければ、直ちにこの短剣をその者に所有をさせるべし。

 その短剣の名はフラガラッハ。

 第二十三代 ゲート・フレート

「200年以上前の手紙か……」

 そして、箱へと視線を落とした。

 南の最果ての火山島、ナジス島の火山の奥深く地下に住まう、伝説や噂話程度でしか認識されていない四大獣が与えた短剣。

 そんなものが…… と疑心を抱きながら、棺のような四角い箱を開けてみる。

 中には確かに、短剣が収められていた。

 鍛え直されているのか、柄に対して刀身が短い。

 刀身の真ん中には二本の赤い線が入っており、熱を帯びているような雰囲気を持つ。

「この短剣……」

 手紙の通りなら、下手をすると手が吹き飛ぶか、最悪、命を落とすかもしれない と思った。

 でも、不思議と短剣に自分を使えと言われている気もした。

「女は度胸。

 男は根性!!」

 自分を鼓舞し、勢いのままその柄へと手を伸ばした。

「!?」

 何も起こらず、そして、頭の中に短剣の事が流れ込んでくる。

 この現象は、業物や魔力を帯びた武具、神器や意志を持った武器にある現象で、自己紹介をするのだ。


 フラガラッハ

 鍛え直され火属性を帯びており、追加で属性ダメージと火傷による継続ダメージを与えるが、水属性の魔物やモンスターや防具を装備する者には、この効果は発動しない。

 それとは別に、この武器で通常攻撃または技で敵に命中するとスタックが溜まり、3スタック溜めると爆発ダメージを追加で与える。

 ありとあらゆる鎖を断ち切る事も出来る。

 破甲(防具破壊)の効果も持ち、魔石を使わなくても、投げれば相手にダメージを与えると手元に戻ってくる。


 初めての体験に、リューリは目を見開いて驚いて見せる。

 そして、自分の手に合う柄を変えよ と頭の中に何かが語りかけた気がした。

 短剣の横に置いてあった鞘を手に持ち、それに納める。

 正直、今まで使っていた、市販の短剣はもうボロボロであり、丁度買い替え時であった。

 マジック・バックに特にボロボロの方を入れて、新たに腰にフラガラッハを収めた。

 妙にしっくりくる感覚に、さらに、驚いた。

 まるで、長年の相棒と思うほどにしっくりくる。

 フラガラッハに視線を落とすと、

「これからよろしくね」

 頼もしい仲間を見つめるような視線である。


 葵は外にいた時から感じていた違和感の元へと向かった。

 中央階段の下にはドアがあり、導かれるように入っていく。

 ドアの向こう側は廊下である。

 天井には、光の魔石が等間隔に配置されていて、発光していない。

 ドアから差し込む明かりを頼りに、壁にスイッチがないか探すと、すぐに見つかり、廊下を照らした。

 左右には廊下があり、点々とドアがあり、物置か何かの部屋であることは想像に容易かった。

 しかし、正面にあるのはドアではなく両開きの扉である。

「ここからだね」

 そうつぶやくと、両開きを開く。

 中は真っ暗であり、また、スイッチを押して部屋を照らす。

 中は大層な両開きの扉の割に、単なる物置であった。

 ホコリを被った鎧の置物や、壁に掛けられた長剣や大剣。

 武具だけでなく絵画なのか、薄い板のような物が布で覆いかぶさった状態で、いくつも置かれていた。

 その中で一つ、違和感を発しているものがあった。

「この四角いのだね」

 覆う布を剥がすと、それは絵画であった。

 森の開けた場所に、円状に太陽光が照らし、その真ん中には、とんがり帽子に魔女の服を身に纏う銀髪に褐色肌のダークエルフが描かれている。

 その姿に更に違和感を覚える。

 ダークエルフは本来、エルフに比べて魔法は苦手であり、その変わり、エルフ族が使えない属性である闇の魔法が得意で、身体能力も獣人族並に高い。

 だから、メイジの格好よりもファイターやアサシンのような防具をみにつけていることの方が一般的である。

 よく見ると下の方に、魔法少女になりたかったダークエルフ と、題名が書いてあった。

「苦労したようだね」

 ダークエルフでありながら魔法使いを目指す絵画の中の彼女に、労うように言いながら眺めていると、少女がこちらを向いていることに気がついた。

「??」

 こっちを向いていたっけ? と思うと、意識が遠のく感覚を覚える。


 そこは森の中であった。

 木漏れ日は優しく柔らかい暖かさを肌に感じる。

 そして、葵はふわふわと呆ける感覚を、振り払った。

「ここは……絵の中かい?」

「そうよ」

 その少女のものと直ぐに分かる声に驚き振り返ると、絵の中の少女がそこにいた。

「あんたは幽霊なのかい?」

 すると、人差し指を顎に当てて、

「ん~残留思念? って言うのかな?」

 可愛らしく映るその少女は葵の問に答えた。

 その回答に、

「死んでいるのかい?」

 尋ねると、少女は首を横に振るも、直ぐにやめて、首を傾げた。

「まだ生きてるかな?

 見ての通り、私はダークエルフだし、人族より長生きだから」

「今でいくつなんだい?」

「ここにいる私は14歳。

 外の世界は、今何年なの?」

 その問に、葵は、えーと と咄嗟に出ずに思い出す。

「ミキラ歴6068年だったと思う」

「そんなに経ってないけど、人族からしたら昔話だね」

「なら、あんたは生きてなさそうなのかい?」

「ん~。

 ダークエルフの平均寿命は400年だし、まだ生きてると思う。

 容姿も18歳から25歳で老いが止まるから、今よりも大人な容姿かな」

「なら、今の時代のあんたに会ってみたいね」

「もしかしたら、あなたの事はわかるかもね。

 思念とは言え、14歳の私の体験だから」

「そういうものなの?」

「私は魔法少女になるって決めたからね」

 すると、さらになにか言い続けようとするも、何かを思い出しそっちに話題を変える。

「ゲートはもう死んでるよね?」

「ゲート?

 あたいの知り合いにはいないね」

「そう……。

 ゲート・フレートだけは、私の目標を笑わず、寧ろ、仲間に迎え入れてくれた冒険者だったよ。

 まぁ、人族だし約200年経っているから、死んでるよね」

 フレートと聞き、ムレア・フレートを思い出す。

「あたい達は、ゲートの子孫のムレア・フレートに依頼を受けているのさ」

「おう。

 ゲートに家族ができてたんだね」

「そういうことだね。

 ムレアは祖父から屋敷を相続し、遺産の整理をしたくて、仕分けとか片付けをする業者に依頼したら、幽霊を見たって話をしててね。

 その正体を調べるように言われてここに来たのさ」

 幽霊というワードに心当たりがあるようで、少女は、ポンッ と手を打った。

「それは、ゲートと仲の良かった妖精の仕業かもね」

「妖精が何故そんなことを?」

「さぁ?

 多分、触られたくない物を触られたか、漁られたくない部屋を、漁ろうとしたかしたんじゃないのかな?」

「それを守るためって事だね」

「うん。

 まぁ、飽くまで、私の予想だけどね。

 でも、あの子ならそうすると思うよ。

 ムレア? って子孫は祖父からなにかしてはいけないこととか聞いてないの?」

「それは分からないね。

 でも、幽霊とか信じてないって言ってたから、聞いていても無視してる可能性はあるんじゃないのかい?」

「それか、200年だから伝言ゲームに不備が出てる可能性はありそうね」

 そして、葵は妖精の正体について尋ねた。

「その妖精は、どんな妖精なんだい?」

 身振り手振りで答える。

「このくらいの、30センチくらいで、葉っぱを繋ぎ合わせたようなドレスに、透明の蝶々みたいな羽がついてて、顔つきは子供みたいで可愛らしいけど、イタズラ好きで、兎に角、見かけによらず腕力と器用さと体力が高いかな。

 魔法とは別の特殊な能力を使って、幻影を見せたり、触れなくても物を動かしたりできるね」

 特徴を聞くと、怪奇現象が起こせそうな能力を持っていることに、その筋が濃厚だと葵は思った。

「なるほど。

 ありがとうね。

 あたいはそろそろ戻りたいのだけど」

 辺りを見渡すも出口らしきものはない。

「どうやってここからでたらいいんだ……!?」

 戻り方を尋ねようとすると、少女の体が透明化していっていることに気がつく。

「どうしたんだい?

 透けてるじゃないか」

 それに、自分の体を見て、

「残留思念みたいなものだからね。

 いつかはエネルギーが枯渇して消えるものだと思う。

 それか……」

 少し考える風に顎をなで、

「あなたの杖よりこの杖の方が性能がいいわ。

 そんじょそこらの値が張る市販品よりは、全然いいから。」

 と、先を言わずに、急に話題を変える。

「いいのかい?」

 その杖を受け取ると、頷いた。

「多分、もう直ぐあっちにもど……」

 聞き終える前に、葵は元の部屋に戻っていた。

 辺りは相変わらず埃の被った物置部屋。

 手には少女から譲り受けた杖。

 頭の中に杖の性能が流れ込む感覚を覚えた。

 

 グリダウォルの杖

 使用者に不思議な能力を与えるとされるが、力、素早さ、魔力、魔力操作のステータスを大幅に向上させて、その物が扱う魔力量またはそれに相当するエネルギーを徐々に回復してくれる。


「確かにこれは、そんじょそこらの高い市販品よりも断然能力値がいいねぇ」

 感想を述べると、早速、行燈を付け替えた。

 前の杖はマジック・バックへとしまい、さて、どこから探そうか? と妖精探しを始めるのであった。

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