表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の旅人は異世界に行く  作者: 不口 否
序章始まりの街ドナイ
4/23

双剣と大剣の少女〜リューリ〜

 彼女の名はリューリ・コルホネン。

 金髪をポニーテールにし、身長は168センチと葵より8センチほど高い。

 優しげな印象に凛とした力強さを覚える顔立ちは、まさに戦女神の美を思わせる。

 リューリは16歳にして、天才的な才能を持っていると言われてきた。

 それは、女性ではありえない力と丈夫さと体力があり、また、素早さ、器用さも長けており、しかも、大剣と双剣の才能も有している。

 その代わり、魔法関連はあまり得意ではなく、殆ど修練していない。

 何故なら、体術の集気法も体得しているため、回復には困らないからである。

 そんなリューリは、冒険者ランクDと始まりの街では最年少で少数のランクを持っている。

 リューリは、最近、この森には生息しない、ゴガバと言う、ゴリラのような顔と体躯、蛇の尾を持ち背中にコウモリの羽を生やした魔物を、ギルドからの特例依頼により観察と偵察をしに来た。

 ゴガバはとにかく力任せな腕力を使った殴る攻撃が多く、翼を利用して飛翔したりする。

 蛇の尾は、噛んだ場所を石化させる毒を持っている。

 本来、この辺の地方ではお目にかかれない魔物で、ジャングルのような湿地帯に生息する。

 ギルドとしては、何故、そんな魔物がこの地方にいるのかの原因は兎も角、何とかしなければと思っている。

 討伐となると、本来ならCランク以上が受けることの出来る魔物である。

 だが、今、始まりの街にいるCランク冒険者は遠出の依頼を受けており、Bランクはおらず、Aランクのアーサーは騎士の仕事があり、仕方なくDランクに頼んだのだ。

 しかし、この辺の雑魚に慣れきったDランク冒険者に、そんな魔物を相手にしたいと思う者はおらず、唯一承諾してくれたのがリューリであり、無理な討伐はせず動向の観察を主として、戦闘は避けるように言われていた。

 でも、得意な双剣でのすばしっこさを活かした撹乱しつつのチクチクとした攻撃からの、大剣の重い一撃を与えるスタイルで、最悪、追っ払うぐらいは考えていた。

「いいですか?

 絶対に戦っちゃダメですよ?

 飽くまで、動向の観察とその報告だけですよ?」

 レミアが念を押すように言うと、リューリはしつこいなぁ と言わんばかりの態度で答える。

「わかったってば。

 私だって、自分の実力と相手の実力ぐらい測れるよ」

 そうは言うものの、結構無茶な戦い方をすることで有名であり、そのため、いくつものパーティから追い出されて来た経験があり、今では一人で活動が基本で、ギルド命令の大隊を組んでの討伐の時ぐらいしかパーティを組むことは無い。

 リューリは森に向かうため、検問所に向かうと、門番のホーガンが親しげに声をかけた。

「よう!!

 仕事か?」

「そうだ。

 ホーガンも仕事お疲れ様」

「あはは。

 俺なんか魔物とやり合う訳じゃないし、冒険者や商人の相手ばかりさ」

 そう言うホーガンに、ギルドカードを見せる。

「その方がいいよ。

 死ぬような思いしなくて済むからね」

「お前ぐらいの美人なら適当に稼いでいる旦那を見つけて、平和に暮らせばいいのに、なんで冒険者なんかをしてんだ?」

「そりゃ、そういう才能があるからだよ。

 おばあちゃんが言ってたんだ。

 自分に与えられた才能は、その才能にあった方法で人の役に立ちなさいってね。

 私の場合それがたまたま、冒険者だったってだけよ」

 そういうと、もう行くよと言うように、歩き出すリューリの背中に、

「いつも無茶するって聞くから、無茶するなよ。

 折角の別嬪さんが傷物になったらもったいないぜ」

 ホーガンのセリフに、振り向きもせず手を挙げて、

「あいよー」

 と、森へ向けて歩いていく。

 地面がむき出しの舗装のされていない道を歩いていると、ふと、空を見上げる。

「あの空を飛んでるのは……」

 それは空高く飛んでみせた葵の姿だった。

「ひとっ飛びも羨ましいねぇ」

 感想を述べると、ギルドで聞いた内容を思い出す。

 ゴガバはマーキングで、糞をするという。

 そこが縄張りだと他の生物や同族に主張するためである。

 それは主にボスのゴガバがする事なのだが、おそらく、1匹しか居ないため、本能的に自分がボスだとマーキングするだろうとの事であった。

 他にも、自分が歩いた所の木を折ったり、捕らえた獲物を木の上に保管しとく等の特徴を教えられている。

 森へ辿り着くと、腕を組む。

「さて、どう探したものか」

 この森はそこそこ広く、森の中の道は、途中いくつかに別れており、西の道へ行くとステップのある草原に出れる。

 ステップまでは、三日かかる道のりであり、ステップには遊牧民族のアリガ族が住んでいる。

 主にFランク以上の冒険者が活動する地域である。

 真っ直ぐ北に行くと雪山があり、雪山には、ヒューデル族と呼ばれる山岳民族が住んでおり、伝説の剣、氷気の風雪と呼ばれる大剣がどこかにあるという。

 その大剣の在処は、どこにあるのかも分からない。

 迷信とも言われている雪だるまの集落で聞くことができるとも言われている。

 主にAランクの冒険者が活動する地域である。

 東に行くと、腐海と呼ばれる腐った森が広がり、魔女と守護者が住むと言われる城があると言うが、殆ど噂程度の場所である。

 ここは主にCランク冒険者が活動する地域である。

 その中でジャングルに近いのは、西のステップのさらに先にある地域であるため、リューリは森の西側から探す事にした。

 薄暗い森を一人で飄々と歩く少女。

 時折、遭遇するゴブリンの群れやバグベアを慣れた感じで蹴散らしていく。

「そろそろ、拠点をステップの方に変えるかな?

 それとも、少し背伸びして、腐海の方もいいか……」

 そんな事を呟いていると、今まで嗅いだことの無い臭いを感じ取る。

「この感じは……この辺の魔物や動物じゃない」

 辺りを探すとすぐに見つかる。

 臭いの元は木にベッタリと塗りこまれた糞であった。

「これがゴガバのマーキングってやつか?」

 匂いにしかめっ面をするも、ターゲットが近い事と西側を選んだ自分の勘の良さに浮き足立つ思いを抱く。

 これなら今日中に見つけられるか? と茂みを観察すると、何かが通ったようなあとを見つける。

「あっちか」

 慎重に痕跡を探し、見つけては、警戒しを続けていく。

 そして、途中で完全に痕跡が消えた。

「この辺にいる!?」

 直ぐに警戒態勢に入り、茂みへと隠れた。

 どこかに気配はないか? と、察知してると、空が騒がしいことに気がついた。

 それは、ブレードレイブン五匹が、宙で羽ばたくでかい物体に威嚇している様子であった。

「あれか!?」

 リューリが、目を凝らしてみると、確かに、ゴリラのような巨漢がコウモリのような翼を羽ばたかせ、尾の蛇で獲物の選別をしている姿だった。

 あんなのが空を飛べるなんて…… と遠距離攻撃が双剣の柄を組み合わせ、ブーメランのように投げる、舞華双投斬(まいかそうとうざん)しかなく、失敗すると、双剣を拾いに行くか、双剣に仕込まれている魔石による引き返しを待つしかない。

 上手く地上戦に…… と考えていたが、ゴガバは想定外に俊敏であった。

 器用に旋回し、ブレードレイブンを叩き落として行く。

 どうせやられるなら、と必死の抵抗と言わんばかりにブレードの翼で切るも、毛は切れたが肉には届いていない。

 なんて硬さなんだ!? ブレードレイブンであれだと、私の双剣技術でも切り傷を与えられるか…… と実力を測った。

 最後の抵抗も虚しく、必死の抵抗をしたブレードレイブンも叩き落とされる。

 そして、叩き落としたブレードレイブンを拾いに地上へと降りてくる。

 リューリの潜む茂みから10メートル程の距離である。

 ブレードレイブンを脇に抱え、最後の1匹を拾うと、その場に座り込み、お菓子でも食べるように羽ごと食べ始める。

 ブレードレイブンの刃物のような翼も、まるでクッキーを食べるが如く、ザクザクと食べてしまう。

 なんとも、見ているだけで恐怖を覚える光景に、リューリは戦慄する。

 もし、やられれば私の腕や足をもいでバリバリと食われるのか? と嫌な想像をしてしまう。

 だから、今回の依頼が討伐でなく、観察及び偵察で良かったと思った。

 勝てる算段は一応あるが、一人では相当に厳しい。

 息を潜めて、おやつ光景を見届けると、食べ終えた。

 そして、次のおやつを探してか、クンクンと辺りを嗅ぎ出した。

 数秒すると、急にリューリの隠れる茂みを、じっと見つめ出した。

 あいつ、匂いで!? と緊張が走る。

 ゴガバはまるで、実力を図るかのように睨みつけている。

 そして、間髪入れずに猛突進してくる。

 まずい!? と咄嗟に双剣を組み合わせ、舞華双投斬を放って、当たったかどうかも見ずに、けもの道を走り出す。

 なんだ!! あのノーモーションからの突進は!? と、体躯に似合わぬ動きに、動揺する。

 背後の気配は迫ってきている。

 追いつかれる!! と思うと、返ってきた双剣を腰に収め、そのまま一回転して大剣を抜く抜刀旋華(ばっとうせんか)(大剣)を放った。

 舐めてかかっていたゴガバは、遠心力の掛かった重い刃の一撃に、右腕を深く切り込まれ、血を流す。

 それに反応して、三回後ろに跳躍して警戒する。

 対峙するリューリは、顔を強ばらせる。

 負傷させたが油断ができない、強者の気配に脂汗を掻く。

 確かに、Cランク以上じゃないと相手はかなりきつい……ってか、これで本来は群れを成していると考えると、自分は今頃、奴らの胃袋の中だ と戦慄する。

 大剣を両手で握り、顔の横まで持ち上げ気を溜める。

 一撃必殺の超重撃波ーー花爆咲刃(かばくさじん)を放つ構えである。

 この技は、タメが必要な為、いつもなら双剣でチクチクと攻撃し、動きが鈍くなったところに打ち込むのだが、今回は違う。

 こちらに来ればお前はただじゃ済まない と言わんばかりに睨みつける。

 だが、構わずに突進してくるゴガバ。

 クソ!! と花爆咲刃を放つと、ゴガバは、急に止まり後ろに跳躍した。

 その所為か尻尾を切るだけに至った。

 それと同時に、リューリの足に痛みが走る。

 足を見ると、切られた蛇の尾が噛みつき、石化の毒を足に与えたのだ。

 足はみるみる内に石とかし、膝の辺りから下は完全に動かなくなった。

 幸いなのは、全身ではなく、部分的な、石化で済んだことであるが、それは全部石にしたら食えなくなる為である。

 そして、ゴガバを見ると、新たな蛇の尾を生やして、勝ちを確信したかのような顔つきでリューリを見つめる。

 ここまでか……でも!! と諦めず、また、構える。

 集気法は体力や傷を癒す技であるが状態異常までは直せない。

 そして、また、猛突進してくる。

 今回の突進は負傷していない左の拳を構えている。

 リューリが第二波を放とうとすると急に斜め右前に、跳躍し軌道から外れようとする。

 それにリューリは何とか反応し、軌道をズラすとそれにすら反応を見せて、後ろに、跳躍するが今度は左の腕にも深く切り込んでみせた。

 だが、今度は右足に痛みが走る。

 そう。

 ゴガバはわざと尻尾を斬らせて、狙って足に噛みつかせて居たのである。

 膝から下が動かない両足。

 さすがに、両足が動かないとなると、最早、時間の問題になりそうである。

 ゴガバの俊敏な動きからして、腰の布袋から状態異常を治す飲み薬を、出して飲み干し、治るのを待っていたら、負傷しているとはいえあの拳で頭をかち割られるであろうことは、想像に容易い。

「クッ!! ここまでか!!」

 と、悔しさのあまり叫ぶが諦めずに第三波を構えた。

 またそれか? と、言わんばかりに、ゴガバが突っ込んで来る。

 クソ!! どのタイミングで放てば…… と思っていると、

「二刀流ーー疾風二段(しっぷうにだん)

 ゴガバの突進に追いつく突風の如き何かが斬りかかった。

 その不意打ちに反応はできず、ゴガバは前のめりになった。

 その隙を見逃さず、リューリは第三波の華爆咲刃を放つと、頭から前のめるゴガバの首を切り落とした。

 その巨漢は勢いのまま、リューリの横を通り過ぎて木にぶつかり、動かなくなる。

 足元には、ゴガバの頭が転がり、何とか勝てた事を実感する。

 それと同時に、誰が? とゴガバの背中に一撃与えた者の方を向くと、黒のつば広ハットに、黒のトンビコート、黒のパンツに黒の皮のショートブーツを履いた男と、その男の少し後ろに、何かをぶら下げた杖に横向きに乗る女が視界に映る。

 あの男は、確か、最近冒険者になったレベル1? と意外な相手が加勢してくれたことへの驚きと何故ここに? という疑問と、本当にこいつ、レベル1なのか? という思いが入り交じる。

 そんなリューリの思いも知らず、黒はリューリの足が石化している事に気が付き、水魔法ーーキュア・ウォーターを無詠唱で発動させて、石化を解いた。

「間一髪だったな」

 黒が声を掛けると、自分の足が治っていることにその時に気がついた。

 そして、リューリは、安堵してか大剣を地面に突き刺し杖のようにして、へたり込むのはなんか耐えたものの身体に力が入らない様子である。

「助かった……」

 一言述べる。

 そんなリューリの様子に、ホッとする黒と葵であった。


 数分して、やっと落ち着き、街へ戻るため歩き出す。

 そんな中、リューリが黒を凝視する。

「レベル1の癖に何であんな無茶したの?」

 事情を知らないリューリに黒はシンプルに答えた。

「女の子のピンチを救うのは男の役目だってアーサーにも言われてたからな。

 それに、レベル1でも強いからよ」

 確かに、レベル1で、不意を着いたとはいえゴガバを吹っ飛ばす威力の技を見せたので、なんとも言えない。

 今度は葵へと視線を向ける。

「何で、日頃から誰とも組もうともしないあんたがレベル1と一緒にいるのさ?」

 その疑問に葵は、からかうように答えた。

「他の連中は下心丸出しだからねぇ。

 それに、一生、一緒にいたいとも言われたからさ」

 その台詞に、黒は即座に反論する。

「まるでプロポーズ見たく言うなよ。

 葵が良ければ、ずっとパーティを組みたいと言ったんだ」

 冗談とはいえ、そんな事を言われて、悪くない様子であったが、そこはちゃんと否定しておく黒。

 そんなやり取りをする二人にリューリが尋ねる。

「似たような顔つきだし、あんたら昔馴染みなの?」

 黒が軽く横に首を振る。

「いや」

 それに続いて葵も

「違うね。

 今日初めて会話して、今日初めてパーティを組んで、今日初めて依頼を一緒に達成した仲さ」

 だが、リューリにはそんな風には見えなかった。

「それにしたって、息もピッタリに見えるけど?

 初めてでそんな事有り得る?」

「あたいの故郷じゃ相手に合わせるが基本だからねぇ」

 葵が言うと、黒も同じように答える。

「俺もじぃさんに、パーティを組んだら、まず、仲間の癖を勘定に入れて、どう連携するか考えて戦えってしこたま教わったものでね」

 架空のじぃさん論を展開する。

 そんな二人に、羨望に似た感情を抱いた。

「私だって、そんな仲間が欲しいよ」

 その台詞に、黒は何の気なしに答えた。

「なら、今度から俺らと組むか?

 まぁ、まだ俺はHランクのペイペイだが」

 そんな事を言う黒に葵も続く。

「そうさね。

 あたいもあんたよりランク下だけどあんたが良ければあたいも別に構わないよ」

 こんなに気軽に誘う二人に、リューリは今まで追い出されてきたパーティの事を思い出す。

「どうせ直ぐに組まなくなるからいいよ。

 どうせ無茶して愛想つかされる未来しか見えないし」

「そんなもん組んでから決めてもいいんじゃないか?」

 黒が言うと、葵も

「黒の言う通りさ。

 あたいは後衛だから、前衛が増えるのは大歓迎だしね」

戦力が増える事に肯定的にいう。

「……」

 数秒黙り込み、

「考えさせて」

 満更でもなさそうに答えるリューリであった。


 ギルドに着くと、レミアから説教を食らうリューリがいた。

「倒したんだからそこまで言わなくても……」

 年上で、且つ受付嬢であるためか、流石に今回の無茶は怒られても仕方ないと観念の念があってか、反論が弱かった。

「ダメです。

 私、直ぐに逃げるように言いましたよね?」

「だって、追いつかれそうになったし仕方なくって」

「言い訳は無用です。

 毎度、毎度、心配なんですよ。

 リューリの戦い方を聞いてると、ヒヤヒヤしますし、今回はたまたま黒さん達が通りがかったからよかったものの」

 まだまだ言葉が出てくるレミアに、傍から聞いている黒も、怒られているような気になった。

 そして、それが現実となる。

「それに黒さんも、情報のない魔物に突っ込むって、どういうことですか?

 女の子のピンチを助けるのは立派ですけど、勇敢と無謀では意味が違うんですよ?

 わかってます? 相手はCランク以上が狩る魔物なんですよ?

 今日初めて魔物と戦うHランクが突っ走っていい相手ではないのです」

 耳が痛いと肩を竦めて、アーサーに習い、黙って怒られる事を選択する黒。

 葵はと言うと、こうなることを予想していたのか、

「あたい、宿屋によって行きたいから、先に行ってて。

 報酬は明日、ギルドでくれればいいから」

 と、一人先に帰ったのであった。

 だから、内心黒は、あんにゃろう、わかってやがったな と心の中で悪態着いた。


 説教が終わり、げんなりする二人。

 気晴らしにと、ギルドの食堂で酒でも飲むか? となり、リューリ自身、パーティの件で考えると言った手前、相手のことは知るべきだと思い、黒の誘いに乗った。

 そのタイミングで、葵が頬を朱色に染め、湯上りであることは明白な格好で現れた。

「お前、わかってたろ?」

「なんのことさね?」

 涼しい顔で、答える葵に、

「説教の事だ」

 そういうと、

「あたいは何もしてないからねぇ」

 怒られる義理も言われもないといいたげである。

 あたいも援護するよと、意気込んでいた癖に…… と思う黒だが結果的には何もしてなかったから何も言えない。

 そんな二人を見ていて、私もこの中に入れるだろうか? と考えてしまうリューリだが、意外にも話を振られた。

「リューリ……でいいか?

 あの大剣の斬波、凄かったな」

 自分の技を褒められ、悪い気がしない。

 酒も入ってか、少しテンション高めに答えた。

「まぁ、今の最高火力があれだったからね。

 師匠曰く、本来レベル10で覚えられる技じゃないとも言われてた」

「へぇ。

 で、今はレベルいくつなんだ?

 勿論言いたくなきゃ言わなくていいが」

 すると、リューリは少し間を開けてから、答えた。

「今は25レベル」

「やっぱり、あたいより高いね。

 流石Dランク」

 葵がそういうと、リューリは葵のこともちょっと知っているらしく、反論のように答えた。

「葵だって、レベル16でギルドでも最低レベルで最も早くEランクになった秀才でしょ」

「そうだったのか?

 俺はてっきり、レベルやステータスでランクが上がると思ってたが?」

 それにリューリが答える。

「少し違うよ。

 確かに、レベルやステータスも重要な要素だけど、他にも、自分のできない依頼は受けないやギルドに対しての態度やそれに見合った功績なんかも関係してくる。

 そもそも、その人の技量に合わない依頼を、ギルド側は今回みたいに人手不足でもない限り、依頼を出したりしないし」

 それを聞き、黒は葵を横目に見る。

「葵は、思ってた以上に出来るやつなんだな」

 その台詞に、フフッ と息吐くような笑みを送るだけであった。

 そして、三人の飲み会は、ギルドの食堂が終わるギリギリまで続いた。

 周りの冒険者やギルド職員は、そんな三人に、レベル1と無茶する問題児と基本ソロの葵と言う組み合わせを、奇異な目で見ていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ