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夢の旅人は異世界に行く  作者: 不口 否
第一章 阿修羅への道
13/23

森の西にての出会い

 歩き慣れた森を進んでいく三人。

 時折、現れるゴブリンやブレイドレイブン、バグベアを倒しながら進んでいく。

 西への繋がる道を通ると血の匂いと男の悲鳴が聞こえてくる。

 三人は互いに顔を見合せ、駆け出しだ。

 そこには貴族が乗るであろう高貴な印象を持ちつつも質素でシンプルな馬車と、馬車を囲むように白い翼を生やした翼人族の軽装の兵士が六人、陣を取っている。

 その中で三人が腕や腹、足から血を流し、脂汗を掻いている。

 翼人族の兵士たちが対峙しているのは、黒の覆面に黒装束の明らかなアサシン10人である。

 明らかな暗殺現場であった。

 アサシンの一人がナイフを投擲するとそれを剣で弾き落とす。

 だが、それは囮とばかりに他のアサシンがもう一つナイフを投擲する。

「なっ!?」

 声を上げるも、それは刺さらずに魂火で撃ち落とされる。

「何奴!?」

 リーダー格と思われる腹から血を流す兵士が魂火の飛んできた方を見る。

 そんな男に刀を引き抜きながら黒が突っ込んでナイフをたたき落としながら叫ぶ。

「よそ見をするんじゃねぇ」

「すまん」

「助太刀するぜ」

 黒がリーダー格の前に立ち、リューリも横に並び立った。

 アサシンの一人が警告する。

「貴様らは関係ない。

 とっとと去れ!!」

 黒はニヤリと凶悪そうな笑みを、つば広ハットから覗かせる。

「馬鹿言え。

 目撃者も暗殺対象って言うのが定石だ!!

 俺は容赦しないぜ!!」

 疾風の如く突進で切りかかる、突風二段でアサシンに挑んだ。

 それをバックステップで避けるも、

「あめぇんだよ」

 地面に向けて刀を振り下ろす斬撃波ーー風土地走りで追撃をすると、アサシンは反応しようとするが、スタンしてしまう。

 それは葵が放った、魂火の開門によるものである。

 初めて見る攻撃に、対処法が分からずアサシン五人が巻き込まれ、そこにリューリが大剣技、気を溜めて、双剣並の移動速度で大剣の切っ先を地に引きずり接近し、双剣並の攻撃速度で大剣を振り上げ、振り下ろし、横一線の三回切りつける重撃をそれぞれに一撃ずつ与える、 花夏走爪(かかそうひょう)で三人を倒した。

 そのまま、大剣から双剣へと持ち替えて、双剣技、姿や気配を完全に消し去り、相手の急所に双剣で四箇所切りつける一撃必殺の 華夏双葬(かかそうそう)で斬殺する。

 ほんの一瞬で半分をやられた暗殺者達は、顔を見合わせるとそのまま逃走しようとするも、何かに阻まれ行動範囲が狭まった。

 それは葵の行灯術である、カゴの蝶の魂火により、五秒間、魂火を鳥籠状に展開し、中に入ったものは出ることができず、魂を吸われ続けダメージを受け、鳥籠が消えると相手は、スタン状態と倦怠感により攻撃力、攻撃速度、移動速度が低下する技によるものである。

「一人は生かせ」

 と、翼人族の兵士の一人が言うと、葵が答える。

「その辺はちゃんと、加減してるさ」

 魂の吸い方を調整し、四人は魂を吸い付くし死に至らしめ、一人は強烈な倦怠感とスタン程度に留め動けなくする。

「アサシンを舐めるな!!」

 そう叫ぶと、最後の一人は口の中に仕込んであった毒薬の入った袋を噛み潰し、自害してしまう。

 その一人に翼人族の兵士のリーダー格が近寄ると、首の脈を見て心停止しているのを確認すると首を横に振った。

「プロの仕業か」

 そうつぶやくと、黒達三人に向き直り、礼を口にする。

「助かった」

 それに黒は腕を組んで言う。

「感謝はいい。

 なぜ襲われてたんだ?」

 無詠唱で水魔法のヒールウォーターを浴びせて、けが人を完全回復させる。

「助かる」

 無詠唱に驚きつつも、傷を癒してくれたことに感謝を述べる。

 それと同時に、馬車のドアが開かれた。

「もう大丈夫ですか?」

 そこには、白く透き通った肌に黄金を思わせる金髪にぱっちりとした可愛らしい瞳、鼻筋は通り他の翼人族よりも美しい翼をもつ白のドレスを身に纏う19歳の少女が現れた。

 兵士達はその場で膝を着いた。

 黒達に目を向けると、

「この者達は?」

 リーダー格に尋ねると答える。

「はっ。

 この者達は、今回の襲撃に助太刀してくださった者達であります」

 その台詞に、敵ではないと思いホッとしたような表情を作り、黒達の方を向いた。

「ご助力頂き、誠にありがとうございます。

 (わたくし) はエアルディア王国第二王女、ケツァーナ・A(エンジェル)・エアルディアと申します」

 そして、少し困ったような表情を作った。

「本来でしたら、お礼をしたいのですが、今は相応の物がございません」

 そんなケツァーナに黒は首を横に振った。

「俺たちがしたいようにしただけだ。

 礼はいらねぇよ」

「そうも行きません。

 ですから、もし、ジーランディア大陸の東、エアルディア王国に来ていただければ、恩人として歓迎致します。

 お名前をお聞きしてもいいでしょうか?」

「俺は黒乃 黒だ」

「あたいは葵」

「私はリューリ・コルホネン」

 三人は名乗ると、黒が付け加える。

「俺は礼とかいらねぇって。

 この二人には与えて欲しいがな」

 そういう黒に対し、葵も、

「あたいもいらないさ。

 どうしてもって言うなら、あんた達が困っていたように、困ってる人を助けてやっておくれよ」

 だが、リューリは二人とは対照的に、

「二人してそんなに拒まなくてもいいじゃん。

 黒がやりたいようにやったように、このお姫様もやりたいって言うんだから、そこは受け入れてあげようよ」

 すると、黒は後頭部の辺りを掻いた。

「まぁ、確かにそうだな。

 なら、エアルディア王国に立ち寄った時に世話になるよ」

 珍しく引き下がると、ケツァーナはホッとしたような表情で言う。

「助けていただいたのにお手数おかけします。

 そうですね……。

 訪れた時は門番に、あの日助けた者だ、と伝えてください。

 そうすれば、私を呼びに来るよう手配しておきます」

 それに頷くと、黒は尋ねた。

「答えられなきゃいいが、なぜ、こんなところに?」

 その台詞にケツァーナの表情が曇った。

「実は、妹を探していまして……。

 名前はミイナ・A・エアルディアと言います。

 ミイナは翼人族の中では呪い子と呼ばれる、黒い翼に白い髪、赤い瞳をしてまして、家族や家来達は気にしてなかったのですが、本人は劣等感を感じていたみたいで、みんな気を使ってるって、ネガティブなことを言っておりました。

 それに国民の中にはやはり、よく思わぬものもおりまして、その態度に耐えられなくて家出してしまい、目撃情報が入ったのでその目撃者に話を聞きに行って、調査をしたのですが見つからず、その帰りに先程の襲撃を受けてしまったのです」

 まぁ、姫さんと言う要人だからな と黒が思う。

 すると、兵士たちの様子を見て、葵が提案する。

「あたいらも護衛に加わろうか?」

 葵が提案したことに、意外と思う黒。

 だが、その提案はケツァーナに断られる。

「助けていただいた上、護衛までは気が引けてしまいます。

 お気持ちだけで十分ですし、あなたがたにも目的地があるのではないでしょうか?」

 それに黒が答える。

「まぁ、確かにあるな」

「なら、そちらを優先してください。

 それと……」

 少し遠慮するようにケツァーナが続ける。

「もし、妹を見つけたら教えてください。

 私は無事かどうかだけでも知りたいのです。

 ですから、お願い致します」

 その台詞にリューリが確認するように言う。

「黒い翼の白髪赤目の翼人族でいいんだよね?」

 それにケツァーナが頷いた時であった。

 ケツァーナが陣取っている扉からひょっこりと顔を出す少女が現れた。

 ケツァーナ同様白い肌に純白の翼で、14歳程の少女で、ケツァーナとは違い、ぱっちりと可愛らしい目つきとは対照的で、凛としていて、見た目軽そうな赤い鉄の胸当ての鎧に鉄の腰巻に鉄のすね当てと、細身剣と腕には魔力を使って扱う武器、リングを装備している。

 金髪でロングの髪をツインテールにし、縛られてるリボンは真っ赤な紅色で流すように蝶々結びの尾の部分が長い。

 最初は近衛騎士か? と黒は思うもそうではなかった。

「ケツァーナお姉様。

 私はやはり、ミイナお姉様を探しに行きたいのです」

 なんとも、じゃじゃ馬な予感を与える少女に、ケツァーナは言い聞かす母親の様に言う。

「ダメだと言っているでしょ?

 あなたまでいなくなったら、私やヒイナお姉様やお母様の胃に穴が空いてしまいますわ」

 すると、黒の方を見て、

「この人達、腕が立ちそうなのですよ。

 それに女の勘がこの人達について行けば、会えると言っているのです」

 そんな台詞にケツァーナはため息を漏らした。

「ですが、この人達のご迷惑になります。

 それに、私たちの問題にあまり巻き込むのは宜しくないでしょう」

 すると、少女は黒達の方を向いた。

「私が同行するのは、ダメなのでしょうか?」

 黒や葵は困ったような表情を作るが、リューリは歓迎した。

「私は構わないよ!!」

 そんなリューリに黒が苦笑いを浮かべる。

「話を聞く限り、あの子は王族だぞ?

 何かあったらどうするんだ?」

 すると、少女がムッとして抗議するように黒に言う。

「私はこれでもエアルディア家四女だから王位継承権もないし、国の剣術大会と魔法大会では2位の実力なのですよ!!」

 黒は後頭部の辺りを掻きながら言う。

「そうは言ってもなぁ」

 そんな黒に年齢にそぐわぬ、意外にも豊満な胸を張ってみせる。

「ちなみに魔法大会の1位はミイナお姉様なのです。

 ミイナお姉様はすごいのです」

 探し人のミイナを自慢するように言うと、黒はため息をついた。

「葵はどう思う?」

 葵も困った様な表情を作った。

「黒がいいならいいんじゃないのかい?

 あたいとしては、来るなら来るで構わないさ」

 そんな黒任せな言い方に黒は、ふむ と考える。

 王族に何かあったらまずいよなぁ 今までの明晰夢でも王族の仲間はいたが…… と考えてしまう。

 だが、そんな黒に構わずに少女はケツァーナの横を通って出てきた。

「私、ハチクイナ・B(バード)・エアルディア。

 ミドルネームのB(バード)は四女の証のお父様から頂いたものなのです」

 もうついて行く気満々である。

 この手のタイプは、言っても聞かないな と黒は諦めに似た感情を抱いた。

「仕方ねぇな。

 俺は黒乃 黒だ」

「あたいは葵だよ」

「私はリューリ・コルホネン。

 よろしくね。ハチクイナ……イナでいい?」

 早速のあだ名に凛とした目付きが輝く。

「いいのです!!

 リューリンもよろしくね」

 ハチクイナはリューリにあだ名を付けて答えた。

 それに気分を良くしたのか、リューリは握手をする。

「賑やかになりそうだね」

 黒はそんな二人を見て、まぁ、頑張るか と腹を括る。

「本当にいいのでしょうか?」

 ケツァーナが黒に問うと、黒は肩を竦めた。

「本人がしたいって言うなら、その内黙って姉探しに出るんじゃないのか?

 今こうやって、宣言してってだけマシだと思うぞ。

 そんなに心配なら、毎月一度は手紙を出させるって言うのはどうだ?

 場所にもよるが、手紙を出せる街に着いたら必ず書かせるよ」

 その提案に、

「確かに、ミイナみたいに黙って出ていって、手紙のひとつも貰えないよりはマシですね……」

 意外にも引き下がるケツァーナに黒が問う。

「さっきああ言った手前アレだが、たった一度助けた相手に大事な妹を預けて不安にならねぇのか?」

「そうですね。

 なんと言いますか、話していたら黒様の人となりには、なんかこう、安心感? に似たモノを感じますので、いいかなと思えてきました」

「なんだそりゃ」

 少し呆れるような顔つきをするも、褒められて悪い気はしない。

 そして、馬車は引かれ、軽装兵士は飛行して、馬車を囲むように飛んで行った。

 取り残された四人は互いに何ができるか? どんな役割か? を話した。

「俺は主に前衛だ。

 魔法も一通り使えるから、回復タンクアタッカーって立ち位置に今はいるが後衛もできるって具合だな」

それに続くようにリューリと葵も自分の役柄を話した。

「私は前衛アタッカーだよ。

 見ての通り、双剣と大剣を使い分けてる。

 それと、おじいちゃんとおばあちゃんに大剣と双剣の流儀を教わったから、普通の技じゃなくて、固有技を使うよ」

 この世界の技は二種類あり、誰でも覚えている普通の技というものと、誰かが編み出した流派により基本を習得することで普通技から流派の固有技に切り替わるという仕組みがある。

 リューリの場合、祖父母と同じ流派の者以外はリューリと同じ技は使えないのだ。

「あたいは日昇国出身で、行灯術の使い手さ。

 だから、あたいは後衛役をやってるよ。

 一応、水と闇属性も使えるけど、黒が無詠唱で魔法を使えちまうから、あまり使わないね」

 無詠唱という台詞に、仰天するハチクイナ。

「無詠唱って可能なのですか!?

 私も教えてもらいたいのです」

 すると、黒は困ったような顔つきをする。

「これは、まぁ、話せば長くなるが……」

 仲間となった事で、自分の境遇をハチクイナに話した。

 それに更に仰天してみせるハチクイナは顎を撫でる。

「とんでもない人とパーティを組んでしまいましたね……」

「そうかもな。

 前の街じゃ事情を知るやつに化け物呼ばわりされてたからな」

 そして、ふと、葵が気になる事を口にした。

「そういえば、イナは王族ってことは冒険者ギルドに登録してないんじゃないのかい?」

 すると、意外にも豊満な胸を張り、腰のマジック・バックと思われる布袋からカードを取り出した。

「これでも私は冒険者なのです。

 なんとFランクなのです」

 おぉ~ と三人は声を上げた。

「王族なのに冒険者なんてなんか凄いね」

 リューリが言うと、嬉しそうにする。

「そうなのです。

 私はまだ14歳なのですがやれる子なのです」

 年齢を聞き、三人は驚いて見せた。

 黒がつい口にする。

「その胸で14歳なのか」

 その台詞に三人から冷ややかな視線を浴びせられる。

「胸ばっか見てるのかい?」

「黒のえっち~」

「セクハラなのです。ぺドなのです」

 三人からの言われように、黒は言い訳を口にする。

「んな事言ったって、顔の下、腹の上についてる胸に視線が行くなって言うのは無理があるだろう。

 いやでも視界に入るし、別に下心で見てたわけじゃねぇよ」

「やっぱり見てるんだねぇ~」

「黒は胸が好きなんだね」

「大変変態さんなのですね」

 参ったという具合に後頭部の辺りを撫で描く黒。

「そう虐めてくれるな。

 ってか14歳なのか」

「少女趣味なの?」

 意味ありげな視線でリューリが聞くと、ため息を吐いた。

「そうじゃないだろ。

 14じゃ、まだ子供だろ?」

 すると、三人は目を丸くした。

 そして、葵が教えるように言う。

「黒のいた世界じゃそうかもしれないけど、この世界じゃ13歳で一応大人扱いさ。

 まぁ、その子の性格にもよるけど遅くても15歳になれば全員大人だよ」

 それに続いてハチクイナが続けた。

「王族だと、早い子で10歳で結婚して、14歳で第一子を産む人もいるのですよ?

 遅い人だと二十代前半ぐらいだけど」

 その台詞に、この世界の観念を理解するのに時間がかかりそうだと黒は思った。

 

 ここは遊牧民のアリガ族という獣人・狸弓(りきゅう)族の村である。

 この村は移動する村であり、今はステップに数少ない小さな町ナンテタッケの傍に設営している。

 狩猟や家畜の毛皮の売買をし、町周辺の雑草を家畜に与えている。

 これは町としても助かることであり、町周辺が雑草で覆われないようにしてもらっている。

 主な家畜は羊のような剛毛な生き物やヤギのような角の生えた生き物、主に肉になるグレート・バイソンを家畜化したレヘマと呼ばれる牛のような生き物が主要である。

 他にも、卵や肉となる鶏のような生き物や村の家財道具やテントや人を運ぶ馬が多数いる。

 そんな狸弓族の少女ーーアイナがいつものように馬に乗り草原を駆け回っていた。

 魔物を見つければ弓を射て倒していき、村の足しにと、魔物やモンスターの素材やアイテムを取っている。

 そんな草原に珍しい種族がいるのに気がついた。

 それは白い髪に黒い翼、赤い瞳はジト目の様な目付きをしている翼人族である。

「お姉さん。こんなところで何してるの?」

 アイナが尋ねると、顔を向けて抑揚のない声音で答える。

「人を探しているの」

「人? この辺だとアリガ族か人族の村や町が点々とある程度だけど、どんな種族のどんな人?」

 翼人族の少女は手振りを交えて、相変わらずの抑揚がない声音で説明する。

「この位のつば広ハットに、黒のケープが着いたコートみたいな服に、腰に刀を二本ぶら下げている、黒髪を後ろで結んでいる男」

 アイナは心当たりがなく首を傾げた。

「この辺じゃそんな人、見ないねぇ。

 会ったらあんたが探してる事を伝えてあげるから名前はなんて言うんだい?」

 翼人族の少女は空を見上げて、

「黒乃 黒」

 と、抑揚ない声音で言うと、この大陸では聞きなれない名前に目を丸くする。

「そんな名前の人ってこの大陸にいるのかい?

 まぁ、覚えておく。

 お姉さんは何処にいるの?」

 少し考えるようにして、

「一週間程、ハラ村にいるわ。

 夜なら確実に私は村にいるから、夜に来るように伝えて欲しい」

 そういうと、空高く飛び立ち去っていった。

「黒乃 黒ねぇ」

 そう呟くとあることに気がつく。

「お姉さんの名前聞くの忘れちゃった……」

 自分の不始末に少し唸るも、

「まぁ、ハラ村にいるみたいだしいいか」

 と、気にするのをやめて、馬を走らせて、新たな獲物を探し始めた。


 やはり、塔のアルカナによる家に、ハチクイナは仰天した。

「お城よりも綺麗で快適なのです」

 そして、はしゃぐように家の中を見て回った。

 そんなハチクイナにリューリが取っておきと言わんばかりに言う。

「お風呂がすごいんだよ。

 シャンプーやリンス、ボディソープに洗顔に化粧水で、お肌ケアが快適なの。

 それと、お風呂から出たら黒の手料理とお酒が待ってるんだよ」

 お肌ケアに反応する。

「そんなにいいのですか?

 そのシャンプーやリンスっていうのは」

「うんうん」

 頷き、自分の髪に手ぐしする。

「この通りサラサラで、前までは髪が引っかかってたのが今はなくなったんだよ」

 それに目を輝かせて、

「おぉ~。

 私も早く体験したいのです」

 楽しみにする。

 そんなハチクイナに、リューリが、

「そろそろ支度するから、ハチクイナの部屋に着替えとか持ってきな」

 と、告げると、首を傾げる。

「私の着替えがあるのですか?

 スリーサイズとかどうやって……」

 その疑問に、リューリが答える。

「黒曰く、この家に入って住人登録みたいなのをすると、その人にあった衣服を買えるようになるんだって」

 その台詞に、目を丸くする。

「つまり……黒様が選んだ下着をお二人は身につけていると?」

「そうなるね」

「気にしないのですか?」

「なんで?」

「なんでって、男の人に自分の下着を知られてるんですよ」

 そんなことか と言わんばかりの顔つきになるリューリ。

「だって、洗濯物は黒がやるんだよ?」

 その台詞に驚いてみせる。

「男女で分けてやってないんですか?」

「まぁ、やりたいんだけど、洗濯機? っていう自動で洗ってくれる機械? っていうのがあってボタンが多くて、私も葵も使いこなせないんだよね。

 それに黒には女兄弟もいたらしくて、下着なんか布切れだっていう始末だからね。

 私や葵からしたら残念この上ないよ」

 布切れ…… と呟くと吹っ切れたように言う。

「なら、私もこの家のルールに従うのです。

 下着は布切れ……下着は布切れ……」

 連呼するハチクイナにリューリは、なるほど と思った。

「そうか。

 私や葵は黒に好意があるから気にしないけど、イナは違うもんね。

 黒にそれとなく伝えとくよ」

 そう言うと、イナは首を横に振った。

「いえ。

 大丈夫なのです。

 よくよく考えたら、お城で私の下着を誰が洗ってるかなんて気にもしたことがなかったので、もしかしたら、男の使用人が洗ってた可能性もあるのです。

 だから、気にしないのです」

 その台詞に、お姫様ってそういうものなんだ? とリューリは思った。

 そこに葵がやってくる。

「お二人さん、お風呂ができたよ」

 待望の風呂に目を輝かせるハチクイナ。

「着替えを取ってきなね」

 そう言うと、はーい とハチクイナは自分に割り振られた部屋へと向かった。

 その頃、黒はと言うと、今夜の献立の食材を切り分けている。

「今夜は回鍋肉に里芋の煮付けと……」

 独り言を呟きながら、解凍された肉に手を伸ばした。

「そう言えば、ハチクイナの好みとか聞いてなかったな」

 風呂上がりに聞くか と思うとトントン音を立てて食材を切っていく。

 乱切りされたピーマンとキャベツは六人前はある。

 それは、リューリが二人前を軽く食べてしまうからである。

 ハチクイナがどの程度食べるのか分からず、多めに作っている。

 余っても明日の昼ごはんにでもすればいいと考えてのことである。

 一方、風呂場ではハチクイナが興奮していた。

「この棒からお湯が出るのです!!

 凄いのです!!」

 初めてのシャワーにテンションが上がり気持ちよさそうに浴びる。

 ツインテールではない髪形は彼女の印象をガラリと変える。

 それはハチクイナだけでなく、日頃からポニーテールにしているリューリも同じである。

「こうしてみると、二人とも金髪だし、翼がなければ姉妹みたいだね」

 葵が言うと、二人は仲良く互いを見る。

「リューリンみたいなお姉様もいいのです」

「私も姉妹兄弟いないから、妹って言うのがいたらこんな感じなのかなって思うよ。

 葵だって、お姉ちゃん見たいに見てるよ」

 その台詞に葵は何かを思い出すような顔つきを作る。

「お姉ちゃんねぇ」

 そんな葵に首を傾げるリューリ。

「なにかまずい過去でも?」

 一瞬、何かを思うような顔をするも目を瞑り薄い笑みを浮かべて首を横に振った。

「そんな過去じゃないさ」

 そう言うと、ハチクイナの方を向き、

「こっちにおいでな。

 シャンプーとかの使い方教えてあげるさね」

 だが、ハチクイナはじ~と一点を見つめるのみである。

 その視線に気が付き、葵がその視線を追うと胸へとたどり着く。

「あたいの胸に何かあるのかい?」

 尋ねると、ズカズカと胸に近づき、

「大きくて羨ましいのです」

 と、見つめる。

 葵は気を悪くすることなく、微笑んだ。

「イナだって、14にしちゃぁ、大きいじゃないか。

 まだまだ成長期出し大きくなるさ」

 自分の胸を触り、眺める。

「大きくなるといいのですが……」

 すると、リューリが興味から訪ねた。

「なんで胸の大きさを気にしてるの?」

「姉様達は皆葵やリューリンのように大きいのです。

 だから、仲間はずれな気がするのです」

 そんなことを気にして…… と二人は微笑ましく思った。

「大丈夫さ。

 胸の大きさより心の広さの方が大切なの」

 葵が言うと、リューリも同意する。

「そうだよ。

 下手に大きいと動きにくいし、重いしで、私はもう少し小さくしたいと思ってる」

 そんな二人の意見に、妙に納得してしまう。

「心の広さなのですか」

 胸を触ると、そんなハチクイナの手を葵が引いた。

「さぁ、頭洗って、体も綺麗にして、顔の汚れをとって、湯船に浸かろうじゃないか」

 ハチクイナにシャンプーの使い方から教える。

 その香りに、ハチクイナは驚いて見せた。

「こんないい香り初めてなのです」

「そうだろうね。

 黒の世界のシャンプーだからね。

 この後にするリンスは、髪の毛がサラサラつやつやになるから、楽しみにするといいさ」

 そう言いながら、ハチクイナを洗っていくのであった。

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