第96話 お互いの決意
お待たせ致しましたー
*・*・*
祖母の決意。
その意志は、孫の恋花であっても……簡単には覆せないようだ。真っ直ぐに恋花を見つめてくる瞳は、決意の表れが強く伝わってきた。あの瞳は、恋花自身もよく解る。
恋花自身が、玉蘭へこの後宮に残る事を意思表示した時と同じものだ。彼女の瞳越しに見た自分自身と全く同じ。
だから恋花は、深呼吸をしてから玉蘭に飛びつく勢いで抱きついた。別れを受け入れたのだ。
「……たまには、帰ってきてくれる?」
「…………ああ。土産をたんまり持ち帰ってくるさ」
「奶奶が無事に帰ってくるだけでいいよ」
肉親との別れは悲しいが、恋花も子どもじゃないし……ひとりじゃない。九十九との絆もきちんとあるし、何より将来の約束を交わした紅狼もいるのだ。支えてくれる存在は、彼ら以外にもたくさんいる。
日陰者だと、怯えるような生活をしていく必要はもう無い。
この後宮で、恋花は多くの存在と共に麺麭を広めて、皆を癒していくのだから。
「あんたも頑張りよ。これからどんどん忙しくなるだろう?」
「うん。梁や点心局長たちと頑張って、麺麭を作っていくから」
同じ料理人でも玉蘭と恋花の歩んできた道は違う。
『先読み』が宿主に与えた作用の違いかもしれないが、恋花は未来の自分から学んでいる形だ。先の世では当たり前だが、それを作った過去は……まさしく、今の恋花の時代だ。
その道筋を、繋げていくのは恋花とこれからの料理人らの仕事だ。
玉蘭は『無し』を解決しようと動くなら、恋花は麺麭に秘められた霊力の込め方を研究せねば。
先の世で、九十九が宿主の中でとどまる生き方にさせたくはない。そのために、改善策を講じるのが今だ。
その決意を玉蘭に打ち明ければ、もともと抱きついていたのを抱きしめ返してくれた。趙彗らには涙ぐまれ、そこから数日後に玉蘭は復活した自身の九十九と共に城から旅立って行ったのだった。
「……寂しいか?」
その日に紅狼と見送ったが、恋花は首を左右に振った。
「いいえ。奶奶との絆は、以前より強く感じます。それに、私は一人じゃありません」
玉蘭が見えなくなってから紅狼の腕に抱きつくと、彼は『……そうか』と言った後に恋花を引き寄せて抱きしめてくれた。
その温かさに、改めてこの大事な存在を救う事が出来て良かったと安心した。玉蘭もだが、大事な存在をどちらも魔の手から助ける事が出来たのだ。それが恋花自身だとはまだ実感し切れないところはあるけれど。
「……帰ろう。君の麺麭を待っている人が多くいる」
「紅狼様もですよね?」
「バレたか。あんぱんもいいが、カレー麺麭もいいな」
「材料が集まればすぐに作れますよ」
「ありがたい」
未来がそれ通りになるかどうかなど、まだまだわからない。
だけど、今この時は嘘じゃない本物である事を実感している。
恋花は紅狼と手を繋ぎながら、二人の九十九を顕現させた。二人から話があると言われて顕現したのだが、九十九同士の恋を認めてもらえないかと告げられてお互いひっくり返ってしまったのだ。
次回は月曜日〜




