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第93話 祖母の復活

お待たせ致しましたー





 *・*・*







 玉蘭(ぎょくらん)の身体を保管していると言う、趙彗(ちょうけい)の作業場へと彼に案内された。他の術士に目に届かず、かつ安全な場所だと皇帝の指示により移動させたのだと。


 そこに行く時は、皇帝も同席するとの事になったので、彼が到着してから玉蘭はまた霊体となって恋花(れんか)らの前に顕現してきた。



『わかったかい? 恋花』

「うん、奶奶(ナイナイ)……私に足りなかったもの、見つかったよ」



 (りょう)紅狼(こうろう)にも一度目配せしてから、持ってきた包みの結びを解く。


 中には、あの日玉蘭と二人で食べようとしていたのと同じ『あんぱん』が入っていた。



『……それが答えかい?』



 霊体でも表情ははっきりと見えた。苦笑いに見える笑顔は、恋花の答えをきちんと受け止めているようだ。



「うん。先読みを通じて、私は先の世の麺麭(ぱん)を作ることが出来た。九十九(つくも)が『無し』でも『有り』でも……絆を結んでくれたこの麺麭たちを、私はこれからも作っていくの。梁や皆で」



 そこに玉蘭が加わるか、それは本人次第ではではあるけれど。


 恋花がはっきりと思いを言葉にすれば、玉蘭の霊体かほとばしる程の光が放たれた。まぶしすぎて、麺麭を落とさないように気をつけて目を閉じれば……すぐに、温かい手が恋花の頭を撫でた。



莉愛(りいん)そっくりになったね、恋花」



 霊体特有の反響したような声ではない。


 梁がずっと化けていた時と同じ、年相応の祖母の声そのもの。


 目を開ければ、身体がきちんとある玉蘭が優しく微笑んで見下ろしていた。



「奶奶!」



 本当に元に戻ったのだと抱きつきに行こうとしたら、指ひとつで止められてしまったのだ。



「これ。せっかくの麺麭を台無しにしたらよくないだろう?」

「……ごめんなさい」



 お互い料理人なのだから、食の大事はよく理解していると言うのをここでも指摘された。この言い方こそが、玉蘭らしいとここにいる誰もが共感しただろう。


 せめて梁に包みを渡してから、恋花は今度こそ玉蘭に思いっきり抱きつき、大声で泣いたのだった。玉蘭も十年ぶりなのか、静かに泣いたのが頭に落ちてきた雫でわかった。


 ひとしきり泣き終わったら、玉蘭は紅狼(こうろう)の前に立ち……額を軽く指で弾いた。



「な?!」

「あたしの孫を娶る覚悟はあるんだろ? これくらい、親代わりとしてさせてもらうよ」

「……はい」

「め、めと!?」

「おや、そのつもりなんだろ?」

「そこは……」



 結婚の適齢期ではないが、早すぎることもない。その恋花を嫁にと紅狼は考えていたのか、目尻を赤くしていたが。


 そのやり取りを見て、皇帝は紅狼の背を強く叩いた。



「ははは! 俺が緑玲(りょくれい)を皇妃にすると決めたんだ。その知らせも国に流そうぜ!」

「……穏便にさせないのか」

「国を救った料理人だぜ? そんな生ぬるい処置はしないぞ」

「わ、私がですか!?」

「そうさ。紅狼と共に根源を叩き切ってくれたんだ。……恋花はこいつ嫌か?」

「め、滅相もございません!」

「だとよ?」

「……順序立てくらいさせてくれ」



 玉蘭を復活させただけでなく、将来の伴侶も得たと言う。


 大きな出来事が、一気に起きたけれど恋花はもう泣いたりせずに笑った。

次回は土曜日〜

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