第74話 こちらも無事なら
お待たせ致しましたー
*・*・*
結局紅狼がいいからと言うので、点心局まで横抱きに運ばれた恋花だったが。
点心局も結界を張れる人材がいたのか、緑玲妃のところよりは被害が少なかった。誰かが残っていた麺麭を投げたのか、皇帝の術の効力が行き届いたのか血溜まりはそこまでない。
「恋花! 李氏!!」
結界の前に紅狼が立てば、中から崔廉が駆けつけてくれた。結界を一部解かせ、彼女は紅狼ごと恋花を抱きしめた。
「無事で、ほんと無事で良かったよ!」
「きょ……くちょ!?」
「ぐ……るし!?」
「ちょっとぐらい我慢しておくれよ!! めちゃくちゃ心配したんだからね!!」
たしかに、自己判断で恋花は梁と諸悪の根源である藹然に立ち向かったが、二人だけでなく紅狼や雷綺がいたからこそ成し遂げられた。
とは言え、術士でない恋花が素人判断で行動したことに変わり無い。紅狼は違うが、一緒に強い力で抱擁されるのは些か辛い状況ではあるけれど。しばらくして、崔廉が離してくれた時には、紅狼の呪眼が無いことに酷く驚いていた。
「その目は……?」
「恋花のお陰で、元に戻った」
「そうかい。主上には伝えたのかい?」
「いや、今は祈雨妃の処罰のために動いている」
「……今回の事は阿呆な姫さんの仕業かい?」
「……そのようですが、凄く反省されていました。術士に依頼していたようです」
「そいつの好き勝手にか。ほんと……馬鹿だね」
その言葉には、単純に相手を貶す意味合いはなく、憐れんでいるようだった。
恋花は、今なら、と厨房の中に入り状態を見させてもらったが被害は必要最低限でとどまっている。紅狼におろしてもらい、すぐに梁を呼んだ。
「お腹いっぱいになる麺麭を作ろう!」
誰もが疲弊しているこの状況を改善するには、まず腹ごしらえから。
くろわっさんは時間がかかり過ぎるので作れないが、菜葉の残りが大量にあるのが見えたので、最初に作ったのと似た麺麭を振る舞おう。
恋花がそう提案すれば、崔廉には少し呆れたが手伝うと言ってくれた。紅狼は、皇帝に報告してくるのと、出来上がったら城側に来てくれと言ってから出て行った。
出ていく前に、恋花の耳元に顔を寄せて『また話がある』と、甘く囁いた声に腰の力が抜けてしまい、その場でへたり込むと崔廉に大声で笑われてたのだった。
「あたしの言ったことが本当になりそうだねぇ?」
「い、今……の!?」
「鈍い鈍いあんたでもわかるだろう? 期待しちゃっていいさね」
まだ理解が追いついていないが、他者から見てそう映るのなら。
恋花は、軽く両頬を叩いて気持ちを切り替える時に、もうひとつ作りたい麺麭を思いついて梁らと仕込みを始めた。
次回は18時20分〜




