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第72話 死して尚

お待たせ致しましたー





 *・*・*







 藹然(あいぜん)は地の淵で、絶壁から落ちぬようになんとか手で掴んでいた。だが、じわりじわりとずり落ちるので、時間の問題だろう。


 目に激痛が走り、そこから身体全体に行き渡った。さらに呪で満たしていた靄が沸き起こり、九十九(つくも)に触れて藹然ごと身体が破裂した。


 絶命した藹然の魂は、そのまま地の淵、つまり冥府の入り口に落ちてしまったのだが。今こうして抗っている。あの紅狼(こうろう)に結局何も復讐せぬまま死ぬのは嫌だ。死しても呪い殺すまで、冥府になど行けぬと霊体を起こそうとしたのだが。


 その近くに、何かが足を運んでくる音がした。



『……死しても尚抗うのか。若造よ』

『お……あ、なたは……』



 年老いた老婆。だが姿勢などは整っていて、目鼻立ちも美しいのだが藹然を虫けらを見るように見下していた。


 生前、一度くらいしか相見えていないが、それより老けていてもよく覚えていた。


 あの紅狼を生かした恩人とやらで、宮廷でも最高位の地にいた料理人風情なのに……類稀なる術士の才も持ち、先帝にも大層気に入られていた女だ。



『……あたしの可愛い息子らを殺しただけでなく、孫にも随分と酷い事をしてくれたねぇ?』



 (こう)玉蘭(ぎょくらん)


 自身の懐妊がきっかけで料理人は引退したのだが、相談係として先帝からは幾度とも助力を求められた。


 藹然は昔こそは彼女に憧れを抱いていたが、大した才がないことと醜い顔のせいで見向きもされていなかった。それが悔しくて、そこそこの実力をつけてから腹いせついでに彼女の息子や嫁を殺したのだ。


 それが今となって、何をしに来たのだろうか。そもそも、この女はまだ死んでいなかったはず。幽体となり、藹然に何かを仕返しに来たのか。


 こんな、死したなりで今更な状況で。



『……消滅させるのか』

『生ぬるいね。冥府の地獄釜で茹でられても生ぬるい。あんたは多くの人間でなく、九十九までも消滅させた。彼らの行き場を失わせたんだ。その意味をわからずで仕出かしたのなら』



 玉蘭が腕を軽く振れば、彼女の後ろから藹然が召喚したのより段違いに、巨大で凶悪な形相の牛鬼が出てきた。それだけでなく巨蛇まで出てきて、落ちそうな藹然を吊るし上げてどこかへ連れて行くようだ。



『な……にを!?』

『冥府の使いを呼んだだけさ。きっちり、こってり絞られて罪を認めな』

『離せ!!』



 しかし冥府の使いというのは本当のようで、術を行使しようにも何も当たらないし無意味だった。


 玉蘭の姿はだんだんと遠くなっていくが、最後につぶやいていた言葉には胸を突かれた。



『使い方次第では、あたしに匹敵したのに……馬鹿だねぇ。復讐心に染まって』



 稀代の術士にそう言われた言葉が、今になって胸に沁み込み……自分の愚かさを痛感するくらい、涙が出てしまった。暴れるのをやめ、大人しく蛇に吊されながら冥府のへと行くことにした。

次回は18時〜

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