第70話 助けても
お待たせ致しましたー
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身体が浮いている。
恋花はいつのまにか意識を失ったらしい。あの醜男はどうなったのか、よくは見ていなかった。梁と紅狼のおかげで事なきを得たのなら、後宮や城は大丈夫だからと安心して気を張っていたのがほどけたのだろう。
だけども、夢を見ているには不思議だ。いやに現実を思わせる光景ばかり。何故なら、血と肉塊が散乱した廊下が続いている場所に浮かんでいたのだから。
(……夢、だけど。また先読みが作用したの?)
だとすれば、また皇帝に仇なす何かが動き出したのかもしれない。浮かんでいても足などは今回動くようで、先を急ぐとあの靄がまだ残っていたのか部屋の中に入ろうとしていた。
(させない!)
誰であろうが、これ以上の人間の死ぬ光景など見たくはない。すぐに飛ぶように駆けつけて、気づいていなかったが手に持っていたくろわっさんを投げていた。
靄はすぐに霧散して消えたが、恋花の今の身体に誰かが抱きついてきたので、振り向いてみれば。
「……ご、めなさ……も、しわけ……」
聞き覚えのある女性の声だった。緑玲妃ではなく、先読みを通じての夢路にて幽霊となっていた女性だ。服装からして貴妃の一人だろうが、この惨状から察するに一人生き残っていたとみた。
けれど、彼女が恋花に謝罪をする意味がわからなかった。考えられるとしたら、緑玲を殺そうと狙っていた事くらい。それでも恋花に謝る理由がわからないが、死にかけたので本心が子ども帰りでもしたのだろうか。
「……ったく、謝罪どころで済まないぞ。祈雨」
駆けつけてきたのは、紅狼ではなく皇帝だった。息切れていたが、目は恋花にしがみついていた妃らしい女性をとても憐れんでいる。
「しゅ……じょう?」
顔を上げた妃はお世辞にも綺麗と言う表情ではなかったが、後悔に彩られたものとなってひどく泣いていた。
「祈雨よ。先ほどの謝罪が真実であるならば、余は皇帝としてそなたに罰を与えねばならん。それで良いか?」
皇帝としての態度で、斗亜は祈雨へ処罰を下した。それはつまり、罪人として彼女は死か死ぬまで牢獄に繋がれるかの道を示した事。
「……はい」
妃はそれに反抗の意を唱えることなく受け入れ、おぼつかないが最敬礼をして深く腰を折ったのだった。
「……さて。恋花、そろそろ紅のところへ戻ってやってくれ。目が覚めたら大変だぞ?」
斗亜は恋花の事がきちんとわかっていたのか、苦笑いしてから片手で印のようなものを組む。それを見終わった途端、恋花の意識がまた揺れて真っ暗になったのだった。
次回は18時10分〜




