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第55話 報いたい

お待たせ致しましたー





 *・*・*







 幾重にも層を作り、出来上がった生地を包丁で切り分けた。少し変わった作り方だが、先見で視た方法には間違いがほぼ無い。


 再現するのは、毎回至難の業ではあったが調理に没頭する時間が多かった恋花(れんか)にはちょうど良かった。九十九(つくも)が『無し』として育ってきた多くの時間を、気を紛らす理由として麺麭(ぱん)作りだけを生き甲斐にしていたのだ。食べる相手は限られていたとは言え。


 それが今では、導きがあったとは言え多くの存在に認められているのだ。(りょう)を得て、共に麺麭を作ることで日常が大きく変わった。祖母以外の人間らに己が手がけた麺麭を認めてもらえたのが……素直に、嬉しいと思ったのだ。


 そのうちの一人、紅狼(こうろう)にもまた食べてもらいたい。彼は今、恋花が夢越しに見た現象が嘘か真かを確かめてくれている。こんな小娘の戯言のようなものを彼は信じてくれているのだ。だから、何か助けになることはしたいと思った。


 その力が、叶わぬ恋からだとわかっていても。



「梁、餡の準備は?」

『大丈夫だ』



 三角でも長細い生地の広い方に、餡を軽く乗せ。くるっと包んだら更にくるくると巻くように包んでいく。二人で分担して形を作ってから、濡れた布を被せて、片付けをしながら釜の準備もしていった。



「花巻みたいな麺麭だねぇ?」



 崔廉(さいれん)が不思議そうにしていたので、釜の準備をしながら恋花はその疑問を答えることにした。



「巻く工程は似ているかもしれません。ですが、黄油(バター)をたっぷり使ったので、焼いた時の食感などが段違いになるはずです」



 花巻は、具材のない饅頭の皮のような主食だ。一般的な麺麭のようなものかもしれない。だが、恋花が手がける麺麭のほとんどが黄油などを使って、ふんわりと香ばしく仕上げるのがほとんどだ。ふわふわではあるが、乾燥しやすくボソボソにもなる饅頭の皮とは異なっている。



「そうさね。あんたの麺麭は全く別もんだ。一度食べたら病みつき間違い無し。陛下方も気に入られているしねぇ?」

「その通りだ!」



 ここで、紅狼ではなく皇帝の斗亜(とあ)が何の前触れもなく、いきなり現れた。青年らしい明るい笑顔に驚いたが、斗亜は恋花の方に来るなり頭を軽く撫でた。



「お……はよう、ございます」

「ああ、おはよう。今日もまたせいが出ているな? なにを作っているのだ?」

「ば、黄油を使った……軽い食感が特徴の麺麭、です」

「ほお! 楽しみだ。今日は、余は緑玲(りょくれい)と卓を共にしようと思っていてな」



 緑玲の事で忘れかけていたことを思い出した。夢見で、彼女を憎んで後宮を練り歩く……霊と遭遇したことを。それが現実に起きていることを、斗亜は紅狼から伝え聞いたのだろうか。しかし、この場で不確かな事を口に出来ないでいると、斗亜が恋花の耳元まで顔を寄せてきた。



「へ……陛下?」

「紅狼からだいたい聞いている。緑玲を亡き者にしようとしてる愚か者が、闇に堕ちてると。お前の異能も多少は聞いているから、信じているぞ」



 と言って、また頭を軽く撫でてから点心局の者らに『仕事に励め』と大声で告げてから去って行った。てっきり、麺麭が仕上がるまで居ると思ったのが、予想はずれだった。



(……信じて、いる)



『無し』の時は、周りのほとんどに蔑まされた生活を送っていた。疎ましいとか、場合によっては死ねとか心無い言葉で。


 それが、国を束ねる存在にここまで信頼されるのは予想外過ぎた。斗亜は恋花が『無し』だった事を知っていても、卑下したりしない。紅狼もだが、位の高い人達はなぜここまで優しいのだろうか。


 嬉しくて涙が出そうになったが、袖で目を拭い、仕上げの焼きを急ぐことにした。

次回はまた明日〜

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