第54話 夢うつつ
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何をしているのか、その者はわからなかった。
憎き緑玲を殺すように、術士に命じた後に軽い眠気が押し寄せてきたため、逆らわずに寝ていたのだが。
皇帝陛下に愛していただける夢を見たいと思ったのに、それは違っていた。暗い廊下をあちこち歩いているだけで、一向に皇帝陛下の寝所に行く事が出来ない。
これは夢でなく、現実だろうか。自分付きの女官らもいなくただ一人で。しかし、今は気にしていなかった。お渡りがないのなら、己の足で逢いに行けばいいのだと。
己が後宮に居を構えることになってからは、幾度かは皇帝からのお渡りがあったのだが。あの憎き緑玲が年頃の女となり後宮に来てから、すべては変わった。
皇帝はあの女狐に心を奪われ、どの妃のところにも姿を見せる事がなくなった。皇妃候補の一員になっていた、己のところへも全くと言っていいくらい来なくなったのだ。
待てど待てど、その日は一度とて来ず。
やがて、皇妃候補は己ではなく緑玲が相応しいなどと噂が広がるほどに。
しまいには、懐妊したのではとの噂まで。それを聞いた時には、もうあの女狐を赦す気がなかった。殺したいほど憎いと、憎悪の焔で身体が燃え滾った。
だから、皇帝陛下の目を覚ますべく、術士への依頼などをして動き始めた。まずはあの狐の周りから。女官を少しずつ減らすのに、九十九へと呪をかけて殺させた。
まず一人は成功したのだが、居合わせた人間がよくなかった。狐の従兄弟で皇帝の剣である武官が動き出したのだ。頭の切れる彼に動かれては非常にまずい。皇帝は彼の事もとても気に入り、近侍に等しい存在として扱っているからだ。
ならば、それも殺せばいい。
幸いなことに、依頼した術士は武官を気に入らないのか個人的に呪を施しているそうだ。都合が良過ぎるこの機会を利用しないわけがない。
そのついでに、緑玲をも死に至らせれば皇妃は我がものだ。
必ず、皇帝の目を覚ます事が出来る。皇妃に、次代皇帝の国母となるのが己なのだと、悦に浸り、夢の中で皇帝を探し続けていたのだが。
どこにも皇帝の姿は見当たらず、口から絶えず出る言葉は。
【……憎き、緑玲ぇ】
ただ、それだけだった。
次回はまた明日〜




