第52話 抱いたばかりの
お待たせ致しましたー
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紅狼に宥められてから少し後。
恋花はふわふわとした夢心地にいるような気持ちを抱えたまま、点心局に向かうことにした。紅狼とは別れ、梁に半ば抱えられるような形になってしまったが、仕事は仕事だと切り替えようにも……あのように、恋花に触れてくれた男性など今まで一度もなかった。
亡くした父もだが、祖父もいなかった生活がずっと続いてたことで、免疫がないのだ。梁は九十九だが、恋花に寄り添うモノとして人間とは違う安心感が最初からあった。だから、意識している紅狼とは全く違う。
あのように、心を燃え上がらせるくらいの感情を得たのは初めてなので、夢心地も仕方がない。とりあえず、落ち着くために呼吸を整えたりしたが、気休め程度にしかならない。
『……恋花。無理に行かずとも、休めば良いのでは?』
梁は本心から心配してくれているようだが、恋花は首を横に振った。
「ダメだよ。紅狼様や陛下があの霊の事を頑張ってくださるのなら、私は私の出来る事を皆様にしたい」
『……麺麭をか?』
「うん。先見で見た麺麭達が役に立つかもしれない。それを作って、あちこちに差し入れに行こう?」
『……お前は優しいな』
「ここの人達が、優しいからだよ」
『無し』であった事実を知らない存在だからかもしれないが、皆恋花に気配りを与えてくれた。これまでにない経験を恋花へ無条件に与えてくれたのだ。
今まで祖母にしか出来なかったその思いを、少しでも他の存在にも返したい。はじめて思ったそれを無駄にしたくはない。
だから、紅狼への想いを含め、恋花は点心局に行くことにしたのだ。明け方近い時間なので、既に料理人達はそれぞれ仕込みなどをしていたが。恋花は崔廉を見つけるとすぐに遅れたことへの挨拶をした。
「大丈夫さね。李氏からの式は受け取ったからね。大事な話でもあったのだろう?」
「……はい」
「もしかして……李氏に言い寄られたのかい?」
「え!?」
事件に関与しているかもしれない事実を言おうか悩んでいたら、斜め上の質問を返されたのだ。しかも、結構楽しそうに。
恋花は全く違うと言いたかったが、後半の宥められたあれは……梁や雷綺がいたとはいえ、男が女を落ち着かせるそれに似ていた気がした。街で交友関係がほとんどなかった恋花でも、買い出しなどで聞こえる会話くらいから世間の知識を得ていたから。
だが、恋花は別に想いを打ち明けていないし、紅狼からも言われていない。あれは、ある意味子守りに近いのだと否定するることにした。
「なんだい? 若い二人なんだから、それくらいあっておかしくないさ。それに、あんた結構可愛いんだから李氏にはお似合いさね」
「そ……んな、ことは」
「隻眼でもなかなかの美丈夫。なのに、女気を全て跳ね除けてたあの方が、唯一気を許してたのが従姉妹の緑玲妃様だけだと思ってたのが。あんたには結構気を遣っているんだよ? 自信持ちな?」
「……私、が?」
「あんたの前では普通に笑っているけど、他の女官らの前じゃにこりともしないで有名なんだよ」
よく笑い、恋花に優しく接してくれる男性。
その印象が強く、玉蘭の封印を解くのにも力を貸してくれている。
であれば、崔廉の言ういつもの彼とそちらのと、どちらが正しい紅狼の姿なのか。玉蘭の封印を解くのに、利用されているのではと思う気持ちは前からあったが。
恋を覚えた心は、まだまだ不安でいっぱいになっていくのだった。
明日は二話ー




