第49話 夢の現実
お待たせ致しましたー
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女官が殺された晩の日。
寝所で寝ていたのだが、恋花は先見ではなく『夢』を見ていた。先の世でもなんでもない、後宮の廊下を歩いているという現実味のある夢だった。
後宮に仕えるようになって、まだ十日程度しか経っていないのもあるが、『普通の夢』を見るなどいつぶりだろうかと関心しかけていた。
ただ、普通の夢と言っても現実を投影している感覚があったりする。触った感触は薄いのだが、起きた時に記憶に残ったりしていることが多い。
沓もなく、ペタペタと廊下を歩いているのは恋花ひとり。
何事もなく寝ていたいのに、何の悪戯かはわからないが。昼間のあの事件を思うとうまく眠れないのは仕方がないだろう。逆に、こういう時こそ先見の夢を見て、明日作る麺麭のきっかけか何かを得たいのに。
とりあえず、この夢には梁も出てくる様子もないので、起きるまで歩いていると。少し前の方に、白い影があるのが見えた。
(……何だろう?)
自分のように歩いているのではない。布が洗濯した後に、風からなびくようにふわふわとしている感じであった。こんな夜中に誰かが洗濯しているのはおかしいし、いい年した女が不始末をしでかしたのを洗いに行くのもおかしい。
だが、恋花はここで昼間に同室の林杏が教えてくれた内容を思い出した。夜中の霊という存在のことを。
(……あれが、霊?)
ふわふわ浮いている布のようにしか見えない。顔や身体もどんなものか形容しにくい。近づくことが出来ないかそっと足を動かすと、恋花の身体もふわっと浮き上がって……すぐにその白い霊のところへと近づけた。
寄ってみると、輪郭がはっきりしてきて人型なのが意外とわかってきた。
だがしかし、その人型は着飾った女性なのは分かったのじゃいいけれど。
【……憎き。……憎き】
腹の底から、絞り出すような低い声。恋花は思わず、背筋に悪寒が走ったくらいの感覚を得て逃げ出したかった。けれど、足はなかなか動かずにその場にいることしか出来なかった。
【……憎き。…………憎き、りょ……れ、い】
最後の言葉を聞いた途端、恋花の意識が浮上した。
気がついたら、寝所できちんと寝ていたのだが寝汗がすごくて衣服がしっとり以上に濡れていたのだった。
「…………誰だろう」
恋花は外の明るさを見て、起きる時刻が近かったので手ぬぐいでしっかり汗を拭ってから着替えようとしたのだが。
「れ……恋花ぁ!」
廊下から林杏が駆け込むように入ってきて、縋りつくように抱きついてきたため、慌てて受け止めた。
「……おはよう。どうしたの?」
「また……またっす! か、厠に行ったら、あの……あの影が!」
しかも、二つも。
その言葉に、恋花が先程まで見ていた夢は現実に起きたことだと理解出来。
あの女性の影は、恋花らが仕える緑玲妃を憎む存在であることも納得出来たのだった。
次回はまた明日〜




