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第43話 温かさを

お待たせ致しましたー

 しっかり揚げて、きめ細かい砂糖をすぐにまぶして。


 出来上がった麺麭(ぱん)を紙で包んでから、恋花(れんか)はすぐに緑玲(りょくれい)妃の私室へ向かう。途中、あの凄まじい光景となった廊下は封鎖するように通れなくしてあったので、遠回りしながら(りょう)と駆けた。


 普通なら、他の女官らにたしなめられるだろうが、誰も廊下にいない。おそらく、あの惨劇の噂が瞬く間に広がって主人らに出ないように言われたのだろう。恋花はそれどころではないので、今は気にしないようにしている。


 それよりも、緑玲妃のところへ行かねば、と思っていると見覚えのある官服の男性が前にいた。



紅狼(こうろう)様!」

「……恋花。部屋にいるのでは?」



 返り血を浴びていたはずなのに、彼の九十九(つくも)が消してくれたのか綺麗になっていた。たしか、梁があれには(のろ)いがかかっているかもしれないと言っていたので、すぐに対処したのだろう。



「……私は大丈夫です。あの……あの女官の方が、緑玲妃様のところの方だったと」

「……緑玲に聞いたか」

「はい。……皆さん、とても沈んでいらしたので。せめて、動けるならと麺麭を作りました」

「……無茶をしていないか?」

「いいえ!」



 恋花は自分でも驚くくらいの、大きな声ではっきりと口にした。紅狼もだが、後ろにいた梁も驚いていたくらいに恋花は自身の変化に、幾らか驚いた。まだ仕えるようになって数日程度の後宮ではあるが、ここが大事な場所だとなりつつある。特に、導いてくれた紅狼が辛い表情をしているのは悲しくて仕方がない。


 だから、と恋花はこれから共に緑玲妃のところへ行かないかと提案した。



「……俺もか?」

「お時間があれば……食べていただきたい麺麭もあるんです」

「……検分の仕事は専門に任せたが。まあ……君がそう言うなら」

「はい」



 ここまで、意欲的な自分を前に出せたのは誰がきっかけか。断定は出来ないが、紅狼がそのひとりだと言うのは恋花でもわかる。その気持ちが、親愛か恋情なのかは定かではないが……少なくとも、知人以上の思いを寄せているのはたしかだ。身分差もあるから、恐れ多くてそれ以上先に足を出すことは出来ないが。


 しかし、彼を必要以上に悲しませたくはない。祖母の玉蘭(ぎょくらん)の封印を共に解いていきたい思いを持つ、同志なのだから。


 それから少しして目的の部屋に着き、紅狼が声をかけてから緑玲妃からの許可が出た。



「……紅狼も。あら、恋花。もう出来たの?」



 他の女官や下女らはまださめざめと泣いていたが、緑玲妃は恋花が戻ってきたことで弱々しくも笑顔になってくれた。紅狼と従姉妹とは聞いてはいたが、並ぶと少し似ているのがよくわかる。紅狼が隻眼でなければもっと似ていただろうが、今はそれを聞くべき場ではない。



「はい。餡を入れた麺麭を油で揚げたものですが、辛いものではなくとても甘い仕上がりにしました。ひと口の大きさなので、出来れば皆様にも召し上がっていただきたく」

「わざわざ? ……ありがとう、本当にあなたは優しい子ね。そう思わない? 紅狼」

「……そうだな」



 ただの相槌だと言うのに、恋花はまた胸の奥が少しずつ……温かくなってきた。その嫌ではない温かいものが消えないうちに、梁の術で麺麭をすべて取り出して緑玲妃だけでなく、紅狼や女官らに配ったのだった。

次回はまた明日〜

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