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第32話 蝕むもの

お待たせ致しましたー





 *・*・*







 紅狼(こうろう)は自分に少し嘘をついていた。


 皇帝である斗亜(とあ)の事を言えた自分ではない。恋花(れんか)が作っていた、あの香ばしい匂いが漂う麺麭(パン)を口にしたいのは、己も同じであった。むしろ、釣られたのは紅狼が先だったのだ。それゆえに、斗亜より先に出向いてしまったが、彼の締まりのない顔に己を律して退場したのだ。


 少しばかり、恋花が不安そうな表情をしていたが、また次の機会の時に聞こう。己のためとは言え、連れてきた少女を蔑ろな扱いにするつもりはない。彼女の祖母の封印が解けねば、紅狼自身に降りかかってい呪いらも解ける手立てがないのだ。


 随分と矛盾した思いを抱いているが、利用している立場上、必要以上に恋花とも関わらなければいけないのだ。彼女の日常での九十九(つくも)との成長もなければ、斗亜の九十九の力も及ばないのだ。



「……少しばかり、苛立っていないか?」



 紅狼に引きずられることに慣れている斗亜は、少し意味深な笑顔で紅狼を見上げていた。



「……何が言いたい」

「俺の九十九を使うにしても、恋花の九十九の中にいる玉蘭(ぎょくらん)は簡単に封印が解けん。だから、恋花の成長を少し様子見するとは言ったが……お前は、必要以上に恋花を気にかけているな?」

「……呪いのためだ」

「自分を偽るな、紅狼」



 何を言いたいのか、わからなくもない。


 だがしかし、その言葉を聞きたくない気持ちと認めたい気持ちがないまぜになっている自分がいた。他者への感情など……特に、呪眼を生まれつき所持していても顔立ちが従姉妹に似て整っていることで、群がってくる女どもは多い。


 それなのに、あの恋花は少し違った。惚けてはいたが、九十九が無かったことで自分は蔑まれる存在だと思っていたからか、他者と深く関わろうとしていなかった。


 けれど、己の九十九を得ても、それは変わらなかった。それどころか、まだまだ自信を持っていない。その態度が、紅狼は少し好ましく思っていたのだ。それを、斗亜は見抜いたかもしれない。



「……まだわからん」

「と言っても、ほとんど認めかけているだろう? その気持ちを偽るな。己をもっと大事にしろ」

「……呪い持ちだぞ」

「だから、俺はお前を死なせんと言ったらだろう?」

「…………」



 呪眼はもともとだが、それ以外の呪いについては……一部を除いて、ほとんど最近かけられたもの。


 犯人は、どのような目的で紅狼を死なせたいのかわからないが……皇帝の剣である紅狼が邪魔なのだろう。皇帝と幼馴染みでもある位置が憎いのか恨めしいのか。後宮の女どもがかけるにしては不可思議ではある。


 その考えに行き着くと、紅狼は胸に衝撃が走り……斗亜を掴んでいた手を離して服の上から強く抑えた。



「紅狼!?」



 斗亜はすぐに態勢を整え、己の九十九を顕現させた。朱色が美しい、鳳凰のような翼を持つ男が現れ……羽根を一枚抜いて、紅狼の身体に置くと……少しずつ、紅狼の荒い息が落ち着いていく。


 その頃合いに、紅狼の九十九も自ら顕現して彼の頭を包み込むように抱きしめた。



『……進んでしまっている』

「……雷綺(らいき)



 己の九十九がそう言うのなら、また呪いの進行が早くなっているのだろう。斗亜の九十九の術では一時凌ぎしか出来ない。だから、鍵である玉欄の封印を早く解きたいが……焦ってはいけないと、紅狼は自分を律した。


 斗亜も不安そうであったが、息が整ってから本来の目的である着替えに行くことにした。その間の会話は、呪いのことではなく恋花の麺麭についてだった。


 また考えが戻るが、あの香ばしい匂いの正体がなんなのか……紅狼も食べたいと再び思うくらいに。

次回はまた明日〜

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