第28話 時間を司る九十九
お待たせ致しましたー
点心局に行くと、既に何名かは仕込みを始めていた。市井では違っていたが、ここは皇帝以外にも多くの人間が生活をしている場所だ。後宮に詰める貴妃らの食事だけでなく、女官、下女らや使用人にも食事が必要なのだから。
なので、仕込みの時間が早いのは当然。恋花だけが来ても彼らに紛れることは出来るし、無断で材料を使うわけではない。
九十九らしき存在も、何体か顕現しているから梁がいてもなにも問題はない。ただ、関係のなかった林杏は物珍しく見渡していたが。
「広いっすねー」
あちこち見ていたが、子どもではない年齢なのでむやみやたらに触ろうとしなかった。
恋花は少しほっとしたが、ひとつ彼女に言うことを忘れていたので伝えることにした。
「あの、林杏」
「なんすか?」
恋花が声をかけても、林杏は置いてあるものに興味を惹かれていた。普段の下女の仕事場とは違って、余程物珍しいのだろう。
しかし、恋花はその興味を砕く内容を今から彼女に告げるのだ。
「……ここでの仕事なんだけど」
「うん?」
「物凄く、時間がかかるの。……出来上がるまで」
「それはそうっすけど……どれくらいっすか?」
「……最低、二刻」
「うぉお……」
生地の寝かせ具合と、さらに形を整えてから膨らませる時間。それらが、包子とは違って、かなり必要とするのだ。九十九の能力を使えば短縮出来るかもしれないが、あいにくと梁との繋がりを最近持ったばかりの恋花では引き出せない。
それに、まだまだ梁は恋花との絆を繋いだばかりだ。変幻の術でずっと祖母になりきっていたので、そちらの能力は強いかもしれないけれど。
ともかく、普通に作っていたら林杏が退屈する以上に彼女の仕事にも支障を起こしてしまう。だから、申し訳ないと言おうとしたら、何故か彼女が自分の手を叩いた。
「林杏?」
「だったら、あたしも少し手伝うっす!」
「え?」
「あたしの九十九は、少しだけなら時間を操作出来るんすよ!」
おいで、と手を包むように構えて出てきたのは。
燕とも違うが、小さな小さな人形のような九十九だった。獣みたいな耳と尻尾があり、恥ずかしいのかもじもじと手足を擦り合わせていた。
『は……じめまして、葉と言います』
葉はちらっと梁を見てから、顔をぱっと両手で覆いさらに恥ずかしがっていたが、悪い印象は受けない気がした。
「……はじめまして。林杏が今言っていたけれど。時間を操れるって」
『は、はい! 風や空の流れを操るように。……ですが。少しは!』
「……生地をふくらませることなのだけど」
『だ……大丈夫、かと』
「……やってみよう」
梁に目線だけで、良いかと聞くと頷いてくれた。そしてすぐに、今日作る麺麭の材料を林杏も入れて手分けして集め……まずは、深い碗状の大きな入れ物に粉や必要な材料を入れてこねるのを、梁と交代で行なった。それだけなのに、林杏らからは感心の柏手をもらえたのだ。
「すごいっす! 包子じゃないんすよね?」
「……ええ。麺麭と言うの。あの……さっそくだけど、葉の力借りていいかな?」
「うす! 葉、頼むっすよ!」
『は、はい!』
碗状の器に入れた、まとめてある生地の近くに葉が浮くと。手の中から、淡い緑の光があふれ出て……生地に降り注いだ。すると、少しずつだが生地がむくむくとふくれ上がり……入れ物ギリギリまでふくらんでから恋花は止めるようにお願いした。
「……すごい。これなら、次もすぐに出来そうだわ」
「役に立てて何よりっす。そっかぁ、こう言う使い方も出来るんすね」
「今までは……どうしてたの?」
「んー。冬に湯が沸くのを早くしたりとか」
「……なるほど」
しかし、梁にこれが真似出来るかまた目線で問いかけたが……梁には首を左右に振られてしまった。やはり、個体ごとに能力が違うのは仕方がないことのようだった。
(……ずっと葉の力を借りるわけにもいかないし、そこはまた対策を練ろう)
とりあえず、次は生地を切って丸め。また寝かせるのは葉の力を借りずに、中に入れる具材を林杏も加わって作ることにした。甘いくりぃむや餡ではなく、香辛料を使った肉餡を作るのである。
次回はまた明日〜




