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第27話 先見の中から

お待たせ致しましたー





 *・*・*







 恋花(れんか)は慣れ親しんだ夢の中にいた。


 先の世、どれくらい先までかはわからないが恋花の知らない『道具』や人間がたくさんいるだけでなく……九十九(つくも)がいないのだ。寄り添う存在が、どこを見渡しても影すらない。


 (りょう)も居なくて、恋花はその人間の誰かに宿っているのか、他の人間と一緒に麺麭(パン)作りをしていた。以前も作ったことがあるものもあれば、全く違うものもある。恋花は目覚めたら、覚えている範囲を頭の中で整理して……そこから、再現に取り組む。いつものことなのだ。


 だから、今日は何の麺麭なのか、先見をするたびに毎回楽しみにしていた。先見自体も毎夜視ることはないからだ。玉蘭(ぎょくらん)と梁などのこともあり、先見を視るのも随分と久しぶりだったから、少し安心出来た。


 手で生地を作るのではなく、道具を使って大量にこね上げまとめていく。それが現実で出来ればもっと多くの麺麭を作り上げられそうだが、実際は出来ないので恋花は覚えることしか出来ない。


 こね上げ。


 ふくらまし。


 つぶし。


 さらにふくらまし。


 包子(パオズ)もそうだが、麺麭も生地が大事だ。丁寧に扱わねば、美味しい麺麭に仕上がらない。恋花は下っ端の人間に宿っているようだが、その人間ですら手際がいい。未来の恋花かどうかはわからない。けど、この場は大変でも楽しいのだ。


 だが、いつまで続くかわからない夢の中でも……終わりを迎えてしまう。


 気がついたら、恋花は体が横になっていた。正確には、数人の下女らが詰める寝所の一角で寝ていたのだ。他の下女らはゆっくり寝ていたので、恋花は彼女らを起こさぬようにゆっくりと寝台から降りた。



「……梁」



 廊下に出て、己の九十九の名を呼んだ。


 短い問いかけに近いかもしれないが、彼は恋花の声に応えてくれ……恋花の胸あたりに光を出し、そこからゆっくりと出てきた。


 寄り添うもの。護る者として、九十九は基本的に、宿主の『ナカ』にいるものとされているが……まだ十日も経っていないので、恋花には未だ夢心地の部分がある。しかし、封印された玉蘭を抱えているのは間違いなく、この九十九だ。



『……おはよう、恋花』

「おはよう。身支度したら、点心局に行きましょう」

『今日も麺麭作りだな』

「ええ。また先見であの麺麭を視たわ」

『あの?』

緑玲(りょくれい)()様がお好きだと思うもの……かも」

『……ふむ』



 まだまだ明け方にも早いほど外は暗いが、崔廉(さいれん)から麺麭の仕込みはかなり時間がかかるので、使用許可は得ていた。梁もいるが、他の料理人らにも教えてほしいと頼まれている。その伝授のためにも、仕込みを手早く進めるようにしなくては。


 服などはすでに崔廉から借りているから、早速着替えようとすると。



「……だぁれ、っすかぁ。こんな夜中にぃ」



 寝所の方で誰かが目を覚ましたのか、眠たげな声を上げていた。独特の話し方に、恋花はすぐに彼女へ謝罪の言葉をかけた。



「……ごめんなさい。林杏(りんしん)、起こしてしまって」



 下女の一人で、緑玲妃に仕えている少女だ。年はたしか恋花と同じ十六だったはず。挨拶は昨日済ませているが、口調以外は話しやすい印象のある人間だ。


 林杏は寝台から降りてきたのか、眠たげな目をこすりながらこちらに来てくれた。



「恋花ぁ? 何してるんすか? 寝れないんすか?」

「ううん。私はもう起きなくちゃいけないの。仕事があるから」

「仕事? あ、点心局だから?」

「……そんな感じ」

「ふぅん。九十九も呼んで?」

「一緒に作るの」



 九十九がいるからか、彼女も恋花を貶したりするようなことはない。これが『無し』だった頃だと違っていただろうが、今は気にしてはいけない。梁がいることを自信に持たなくては、この場所でもだがこの先も生活出来ないのだ。


 玉蘭の封印については、いつ解けるかあの紅狼(こうろう)も訪ねて来ないので……皇帝に話したかどうかわかっていない。しかし、玉蘭は死んではいないから焦りもしてはいけないのだ。今出来ることをしようと、少しずつ意欲的に思うことで恋花は気を紛らわせている。



「ふーん……緑玲妃様が、すっごく気に入ったものっすよね?」



 林杏は、緑玲妃にくりぃむ麺麭を献上した時にその場にいたから、少しは事情を知っていたのだ。



「ええ。今日は違うものにしようと思うの」

「……一緒に行っていいっす?」

「え?」

「あたしも、あの匂いだけでも嗅ぎたいっす!」



 お願い、と手を合わせられたので……恋花は、反射で頷いてしまった。


次回はまた明日〜

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