第23話 皇妃候補①
お待たせ致しましたー
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女官らしい鈴那の許可を得て、なんといきなり皇妃候補である緑玲妃のところへ参上する次第となった。
そのことに、恋花はとても畏れ多いことだからと断ろうとしたのだが。鈴那からは問題はないと首を横に振られた。
「大丈夫ですよ。あの御方は身分の低い者だからとは言え邪険に扱われることはありません。それに、私とてあなたと同じ市井の人間ですから」
「……ですが」
「大丈夫さ。あたしも行くよ」
それでも、長くその貴妃に仕えているからこそ言えることなのでは。そう言い訳したとしても受け入れられないだろう。仕方がないが、麺麭の説明が出来るのは恋花とその九十九である梁だけだ。毒味もとい、試食が済んでいても皇帝がいないその場で貴妃に食べていただいても……説明は誰にも出来ない。
なので、崔廉も行こうと言ってくれたのは、とても安心が出来た。ただ、服装だけは……と思っていたが、鈴那にはそのままで良いと言われたため大人しく彼女の後ろから歩くことにした。くりぃむ麺麭の方は、梁が器に盛り付けたものを運ぶことに。
点心局から、かなり長く歩くことになったがだんだんと建物の煌びやかさが増していくのに、目を奪われてしまいそうだった。
忘れかけていたが、ここは後宮。
今日いきなり会うことになった、皇帝の妃らが住まう女の園だ。
生涯、縁のない場所だと思い込んでいたところに……今、恋花は歩いているのだ。似合わない粗末な服装のままで。歩いていくうちに、また不安が高まっていくけれど、ここにいるのはひとりではない。
祖母の玉蘭はいないが、梁や崔廉がいるのだ。導いてくれた紅狼もいなけれど、いくらか安心は出来ている。
弱気な気持ちになるのは、性格上仕方がないが。勅命を賜ったのだから、うまく果たさねばならない。それがまさか、こんなにも早いとは思わなかったけれど。
「……緑玲妃様。お待たせ致しました」
到着したのか、転けそうになるのを堪えて恋花は最敬礼の姿勢をしようと構えたのだが。鈴那にこちらへと手招きされたので、ゆっくりと近づき。
入り口の前に立たされ、中にいるらしい女性を紹介されたのだ。
皇妃候補であるとされている、ひとりの女性を。
「あら、可愛らしい。……あなたはどなたかしら?」
やわらかい。
その表現が正しいかはわからないが、一目見た途端、恋花は中で座っている女性へ見惚れてしまいそうになった。
同じ女なのに、すべてを受け入れてくれそうな、やわらかい笑顔が特徴的な美しい女性。服装も華美よりは落ち着いた色合いだが、風貌を際立たせているので、むしろ好ましく見える。
どこでだろうか、この女性と同じような気持ちを抱いたのは。まだ最近ではあるが、あの人間は女ではない。数日前に、初めて出会いこの場所へ導いてくれた存在……紅狼に抱いた気持ちと似ていたのだ。
「……お、はつにお目にかかります。黄恋花と申します」
しかしながら、すぐに聞き出せる立場でないことに変わりない。だから、恋花はまず彼女の問いに答えたのだ。
「可愛らしい名前ね。鈴那、この子もだけど点心局長まで呼んだの?」
「はい。あの香りの正体は、彼らが作っていたものです」
「? 包子ではないわよね?」
「麺麭……と言うものだそうです」
「主上にちょうど頼まれていたんだよ。緑玲妃様、是非食べておくれよ」
「まあ! そうなの!」
崔廉の説明に、緑玲妃はやわらかいものから輝かんばかりの笑顔となったのだった。
次回はまた明日〜




