第22話 毒味を忘れるほど
お待たせ致しましたー
*・*・*
鈴那は、少し不思議に思いながらその麺麭と言うものを手に取った。
包子と違い、白くなく茶色い。しかしながらとても芳しい香りがしていた。主人である緑玲妃が気にしていた香りの正体。
近くで嗅ぐと、香木とは違うのにむせかえるような強烈な香りだった。だが、とても良い香りだ。空腹ではないのだけれど、腹の中が音を立ててしまいそうだった。毒味なのに、いけないと心の内でかぶりを振り……ゆっくりと、まだ温かなそれを口に近づけていく。
(……ああ、芳しい)
なんと芳しい香りなのだろうか、と思ってしまうほど。ふんわりしているのに、包子には無い香ばしさまで感じるようだ。
思わず、毒味を忘れるほどの『食欲』の表れに、鈴那は口を開けて少しかじってみた。口の中にいっぱい広がる優しい甘さと食感は……包子とは全く違っていたのだ。モグっと口を動かせば、舌の上で蕩けるような何かと一緒に喉の奥へと入っていく。冷めるとパサつく包子とは段違いの柔らかさと、その甘みに……もっと食べたい欲望が出かけたが、すぐにこれは主人への献上品だったと思い出す。そして、自分が毒味すべきものであることも。
ただ、点心局長の崔廉には見抜かれていたため、彼女から肩を軽く叩かれた。
「どうだい? 美味いだろう?」
「……そうですね」
物凄く美味であることは嘘ではない。だがそれを、目の前の成人していくらか程度の少女が作ったとは信じ難かった。麺麭と言う存在自体、鈴那は今日初めて知ったのだ。皇帝が鈴那の主人のために作って欲しいと頼む理由もわかる。だが、今日ここに来たばかりの恋花は何者なのだろうかとまだ疑問に思ってしまう。服装を見る限り、鈴那がかつていたところと同じように市井の出身には間違いない。
けれども、この腕前は一級品だ。九十九もいるのに、随分と複雑な道筋を歩んできたのは鈴那の九十九の能力でわかってはいる。それでも、まだ少しの不安は拭えない。この少女は、己の能力の絶大さを知らぬがゆえに。
しかしながら、本来の目的を忘れてはいけない。主人が待っているのだから。
「……あの。いかがでしょうか?」
恋花は自分を偉ぶったりしないようだ。素直に、自分の麺麭の出来が気に入られるものか確認したいのだろう。不安げな顔をしていたが、鈴那は彼女を見てひとつ頷いた。
「……ええ。とても美味です。これは包子とは全く異なりますね。緑玲妃様もお好きな味だと思います」
「……ありがとうございます」
控えめな姿勢も好ましく見える。ますます気になることは多いが、この少女であれば主人に会わせても良いだろう。崔廉も伴うことにして、麺麭と恋花を共に緑玲妃のところへ連れて行くことにしたのだった。
次回はまた明日〜




