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第20話 慎重に作る

お待たせ致しましたー





 *・*・*







 うまく焼けているかどうか。


 鉄の板を借りた恋花(れんか)は、(りょう)麺麭(パン)の焼きを慎重に進めていく。実家に作った窯がないので、釜戸のひとつも借りることにした。煤や炭とかを掃除して、板の上に種で作った油を薄く塗る。その上に形を整えた生地を置いて、卵をときほぐしたものを薄く塗るのだ。


 これは、包子(パオズ)ではなく、麺麭だから。恋花がずっと再現してきた様々なそれらを作っていくのである。しかも、皇妃候補に献上するのであれば、なおのこと気が抜けない。


 蓋はせずに、ゆっくり焼ける様子を見守っていると……甘くて香ばしい薫りが厨房の中に広がっていく。嗅ぎ慣れた、いつもの麺麭の匂いだった。



(……あとで味見するけど、きっと大丈夫)



 慣れない場所での仕事とは言え、皇帝にもあの簡易あんぱんを認めてもらえたのだ。その存在からの、勅命を覆すなど恋花のような小娘には出来ない。と言うか、断れば死罪と言ってもいいだろう。祖母のために、この場所に来たのだから……孫として精一杯のことはしたい。それが、これまで日常的にこなしていたことで役に立てるのであれば、やるだけやってみようと思える。


 火加減。


 焦げ目。


 ふくらみ。


 どれもが、妥協出来ない要素である。梁も見守ってくれているけれど、これは恋花に頼まれた調理だ。恋花が主体となって動いていくしかない。


 そして、望んでいた通りの焦げ目になったら、人間ではないので熱さを気にしない梁に取り出してもらう。



『出来たな』

「ええ……多分」



 調理台の上に載せたそれは、ふっくらと艶やかなものに仕上がっていたのだ。



「なんだい!? これが本当の麺麭って言うものかい!?」

『美しいのぉ?』



 崔廉(さいれん)(えん)も、仕上がりを初めて見るからか目を輝かせていた。その表情を見て、恋花は玉蘭(ぎょくらん)が初めて麺麭を食べてくれる前のものと重なった。あの玉蘭は、梁だったのか本人だったのかはわからないけれど。ちらっと梁を見ると、彼は誇らしげな表情で崔廉らを見ていたが。



「恋花。これはなんて麺麭なんだい?」

「あ、はい。くりぃむと呼ばれてたものです」

「くりぃむ?」

「少し餡とは違うので」



 異能の先見は信じてもらえないだろうから、曖昧に伝えるしか出来ない。しかし、崔廉は気にしていないのか、そうかと頷いただけだった。



「うーん。すぐ食べように熱いだろうねぇ?」

「はい。包子と違って火で焼いたので」

「もう少し冷めてからがいいかい。茶には合うかね?」

「かなり甘いので、渋めがいいかと」

『我が用意しよう』



 などと、段取りが決まっていく。追求されないこの状況に少しほっとするが、恋花の見せた技術などを受け入れてくれたせいかもしれない。


 先見を通して、独学で得た能力。これらは、決して無駄ではなかったのだろう。『無し』の存在だったゆえに、家族にしか認めてもらわなかったのが、紅狼(こうろう)のお陰で一変した。


 まだ不安は大きく抱えているが、同じくらいに安心も育っていく。心地良過ぎて、抜け出せないくらいに。


 恋花も片付けをしようと梁に声をかけようとしたが、厨房の入り口から鈴の音が聞こえてきて手を止めた。



「失礼。点心局長に伺いたいことが」



 宮仕えの女性だろうか。身綺麗で整った顔立ちの女性が肩に小さな九十九(つくも)を乗せて立っていた。


次回はまた明日〜

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