第18話 麺麭作りを
お待たせ致しましたー
次に生地だ。
ふっくらと仕上がりに必要な、『つなぎ』は点心局に常備仕込んである老麵を使わせてもらう。老麵とは、古い生地をさすがわざと発酵させたものである。一回だけで使い切るのではなく、継ぎ足し継ぎ足しつないでいくことで育っていくもの。これが、包子などのふんわりした食感を生み出す一つの技法だ。
だが、恋花が作るのは麺麭だ。作り方のほとんどが包子とはかなり異なっている。
材料を混ぜ、調理台の上でよくこね、ある程度まとまったそれを……深い底の形をしてる器に入れ、少し濡らした布を被せた。この後に、中身を作るのだ。
先見で視た先の世で、あんぱん以上に誰もが喜んで口にしていた甘いものを。餡ではあるが、豆を使用するものではない。
『恋花、卵の中身を分けておいた』
「ありがとう、梁」
「わざわざ分けるのかい?」
『珍妙じゃな』
「餡の材料です」
「ほぉ?」
砂糖、牛の乳、卵の黄身などを使い作る、とろとろした餡。先の世では、『かすたあど』などと呼んでいたが、再現出来てからは恋花の好物のひとつだ。甘いものが好きな女性であれば、きっと気にいるはず。そう信じて、恋花はこの麺麭を選んだのだ。
鍋に入れ、焦げ付きにくいようにとろとろになるまでまぜれば……粗熱を取ったあとに、これは燕に頼んで冷やしてもらった。すると、プルプルとした感触になる。
『面白いのぉ?』
「包み易いようにするためです」
「……味見していいかい?」
「はい」
匙で一口食べた崔廉は、含んだ瞬間に表情を蕩けさせてくれた。その顔を見て、恋花は少しほっと出来た。万人に好まれる味なのか、不安だった部分もあったけれど、この反応なら安心出来たのだ。
「いいねいいね! 包子に入れてもいいかもしれないねぇ?」
「いいと思います。甘味の調整は必要ですが」
「そうさね。これをあの生地に……包むの手伝っていいかい?」
「! 是非」
点心作りを常日頃している人間であるから、包餡の作業もお手のものだろうと、恋花も頷いたのだが……実際にやってみると、崔廉も燕も手がかすたあどまみれになり、酷い状態になってしまった。生地自体も、柔らか過ぎて包みにくいのだろう。
恋花と梁は作り慣れているので、次々に包むことが出来ていた。
「ふーん。奥深いねぇ」
だが、いくらか落胆した崔廉であったが、恋花の作業を見て覚えようとしていた。燕も似た様に頷いているほど。
ここの人は、温かい。
紅狼や皇帝もだが、怨嗟渦巻く宮廷だと噂が流れているのに……随分と違った場所だ。もしくは、恋花が『無し』ではなくなり、九十九の梁がいるからかもしれないが。
感動を心で受け止め、恋花は次の作業に移ることにした。
肝心の『焼く』工程だ。
次回はまた明日〜




