第17話 黄油作り
お待たせ致しましたー
まず、麺麭の必要なのは黄油だ。牛の乳が大量に必要となってくる。これを作るのは、とても手間だが麺麭作りには欠かせない。老麵などももちろんだが、ふんわりとした食感諸々が包子とは全く仕上がりが違ってくる。
その違いを、崔廉にまず伝えると自身の胸の辺りを強く叩いた。
「最初に持ってきてくれた方の、美味い麺麭になるんだね?」
「はい。味も仕上がりも似たものになるかと」
「どんくらい、牛の乳が必要なんだい?」
「試作も兼ねて……甕一杯ほどは」
「そんなにもかい? ああいうのは、ほとんど蘇にしちまうが」
恋花が家で作っていた時は、牛を一頭ほど飼っていたので毎日世話をしていた。父の残した遺産だったので、大切にしていたが……ここに来る前に売ってしまった。少しでも新しい服を買う足しにしたかったのだ。下働きでも、恋花の服は今までだととても古びていて……食事を優先していたので、何度も洗濯してきたことでほつれが多かった。そのため、紅狼にも工面してもらったが、身なりをそこそこ整える準備をしてきたのである。
さておき、黄油作りだがこれは主に梁の手を借り受けることにしている。九十九なので、人間ではない。術を使うことを得意としている。玉蘭に化けていた頃にも、恋花の手伝いをしてくれていたから、手順はひと通りわかっているのだ。ほんのひとつまみの塩を入れ、撹拌した牛の乳を冷やしていけば……泡の器の中で、撹拌していた牛の乳が固形物と液体に分かれていく。さらにひとつまみの塩を入れたら、黄色く固まっていったのだ。
「これが、黄油?」
「はい。これだけでなく、卵や普通の牛の乳もたくさん使いますね」
「面白いもんだねぇ? あたしや燕にも手伝わせておくれ? 覚えたいんだ」
「! はい!」
異質故に、疎外されてきた生活ばかりだった恋花は……今喜びに満ちていた。まだ出会って一刻も経っていないのに、崔廉を含む多くの人間から頼りにされるだけでなく、興味を持たれたのだ。己に九十九が居るいないの違いもあっただろうが、この様な温かな気持ちになるだなんて……いつ以来だろう。両親が生きていた頃にはあっただろうか。とても幼なかったので、あまり覚えてはいない。
だが今は、勅命を受けたのだからきちんとこなそうと意気込んでいる。皇帝からの願いを全うするだけでなく、皆に喜んで欲しいと思える麺麭を作りたい。玉蘭以外で、初めてそう思えたのだ。先見の力を持っているのは異質だと思っていたのに、身内以外の役に立てて……恋花は純粋に嬉しいと思っている。
これも、紅狼のお陰だ。彼にも今から作る麺麭を食べて欲しいが、機会はまだあるだろう。彼の望みこそ、玉蘭にかけられた封印の解放なのだから。恋花も留まることへの許しを得たから、ここで働くこととなる。いくらでも食べて欲しい。
そして、次の作業へ移るために、恋花は髪が落ちにくいように改めて布でまとめた。
次回はまた明日〜




