第16話 自信を持つにも
お待たせ致しましたー
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皇妃候補への献上品。
よりも先に、まさか現皇帝自身に恋花が作った麺麭を食べてもらえるとは思わなかった。雲上の存在ゆえに、将来一度とてお顔を拝謁することのない人物。神に等しい存在が、恋花や梁の作ったあんぱんを美味しそうに食べてくださったのだ。あの顔はまだ忘れられない。
祖母の玉蘭にかけられた封印を解く鍵であるのに、認められたことへの嬉しさと驚きに、恋花はまだぬるま湯に浮かんでいるかのような夢心地だった。料理人ではないのに、皇帝である斗亜は頼んできたのだ。恋花に麺麭作りを。だから、いまだに信じられないでいる。
とりあえず受け答えはしたが、斗亜と紅狼が厨房から去ってから、恋花は梁に支えてもらわなければ立っていられなかった。
「ははは。まあ、主上がいきなり来ちゃ、そうなるさね」
崔廉は対応に慣れているのか、平然としていた。点心局長だと言う地位があるにしても、言い方は悪いが近所の女性が客人などに声がけするのと良く似ていたのだ。
「……あの。しゅ、主上は、いつもあのように?」
「ああ。だいぶお若いだろう? 李氏とほとんど同じ年齢だけど、政の手腕は素晴らしいものだ」
「……そうですか」
たしかに、他国から攻め入れられることなく、唐亜国を平和に治めていらっしゃる存在だ。とは言え、これまで九十九がいなかったと思っていた恋花には関係のないことではあった。『無し』であれど、差別化の激しいところで育ってきたことで、世間などどうでもいい。玉蘭がいればそれで……その事実も色々変わってしまったが。
それでも、望みが薄いわけではないのだ。玉蘭を目覚めさせるためにも、あの皇帝の手を借り受けるために……もっと認めてもらわなくては。そのための勅令を恋花はこなそうと体を起こした。
『……大丈夫か?』
「うん、ありがとう」
まだ梁とは少しぎこちないやり取りになってしまうが、彼を己の九十九だと……早く受け入れてあげたい。そして、本物の玉蘭にも報告してあげたいのだ。九十九が本当は存在していたことを。
立ち上がった恋花は、次に崔廉へいくつか質問することにした。
「緑玲妃の好み?」
「……はい。知っていらっしゃるなら、教えていただければと」
先見で見た、麺麭には今では考えられないくらい様々な種類があった。甘いものだけでなく、包子のような食事向きのもある。足りない材料は代用するにしても、勅命であるがために手抜きはしたくない。そもそも、手抜きなどするつもりは全然ないのだが。
「そうさね。甘いものはお好きだ。餡もかなり好まれるよ」
「……どのようなものでも?」
「おや? 知らない珍味でもあるのかい?」
「……材料をお借り出来れば」
「いいさいいさ。主上からの頼みなんだから、遠慮なく使っておくれ?」
「はい!」
好きに作れて、美味しいと言ってもらえる。その喜びを知った恋花は、少しずつ意欲が湧いて返事も明るくなってきた。
次回はまた明日〜




