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第4話 後悔が多過ぎて振り出しに

 恋花(れんか)は、またもとの性格に戻りかけていると自覚している。


 せっかく想いが通じ合い、婚約までしてくれた最愛の男性である紅狼(こうろう)からの愛をうまく受け止められないのだ。実は幼馴染みで、現皇帝の斗亜(とあ)とも同じような関係であったが。


 祖母に記憶を封じられなければ状況は違っていたとしても、事情が事情でかなり遠回りの恋情となってしまった。(こう)家のこと、宮中での陰謀があったことで多くの道筋が阻まれた。九十九(つくも)が『無し』の生活が無ければ、恋花はもっと違う生活をしていたとしてもだ。


 捻りに捻ってしまった今の性格では、うまく他人に甘えられない。九十九の(りょう)は長い間祖母の姿に変幻していても、結局はそれを祖母自身だと思っていたから除外。その祖母にも、本質的に孫としてあまり甘えることはなかったから。


 そのような経緯があり、他人の愛情表現をうまく受け止めることが難しい。


 しかし、それでは良くないと思い始めていた。せっかく、たくさんの人や九十九の支援もあり、愛おしい男性と婚約が出来たのだから。それでも、紅狼があそこまで積極的なのは意外過ぎて、びっくりして逃げてしまったのである。おまけに、羞恥心が勝って一方的に否定の言葉もぶつける始末。あとで反省しても、復興作業で奔放中の彼が早々捕まることがなく。仲直りの麺麭(パン)を作ろうに、気持ちがそぞろになって失敗続きだ。


 いつもなら仕事中は切り替えなどは出来るのに、恋を知った今ではそうもいかないときた。ここまで溺れると思わず、自己反省していたらいきなり梁に抱きあげられて、呼びに来た鈴那(りんな)に連れられて……緑玲(りょくれい)のいる私室へと案内される。梁からは逃げないように抱えられたままだ。さすがに、部屋に到着したときは降ろされたが。



「いーい? 恋花」



 そして、鈴那が下がったあとに。緑玲は恋花に詰め寄ってきたらいきなり両手を強く握り、気迫が凄い形相で問いかけきた。穏やかで聡明な女性だと思っていたが、やはり斗亜の妻であり幼馴染みでもあるからか、存外感情の起伏が大きい性格のようだ。普段は貴妃らしく振る舞っているように見せていたのだろう。


 とにかく、断ってはいけない雰囲気なので、一応頷けば。



「は、はい」

「正直に答えてちょうだいな。何故、紅狼と喧嘩したの?」

「! 何故それを!?」

「主上にお聞きしたからよ? あの方のところに、紅狼の話が伝わらないわけがないでしょう?」

「……はい」



 紅狼のことだから、斗亜に話していないわけがない。というより、筒抜けで当然だ。思い出した幼い記憶の中でも、彼はいつも紅狼と気合うだけでなく恋花を取り合いしていたものだ。妹分である恋花の危機に、とても敏感でもある。特に今は、唐亜(とうあ)国の最高機密関係者になり、後宮にて修行中の身となったのだから。


 緑玲の直属の料理人になった今では、この女性にも伝わってておかしくない。正直に頷くと、緑玲はさらに問いを重ねてきた。



「貴女が、紅狼をとても大事にしてくれているのはよくわかるっているわ。わたくしと主上のように、お互いを強く想い合っていることも。でも、紅狼が何をしたの? 貴女のような女の子が喧嘩をするだなんて、余程のことだもの」

「え、えと」

「遠慮はいらないわ。身分はこの際関係なくてよ。貴女が紅狼の妻となれば、義理でもわたくしの従姉妹になるもの」

「お、恐れ多いですが……その、ご相談しても?」

「ええ。遠慮しなくてよくてよ」



 貴妃であれ、たしかに紅狼の従姉妹。この先、本当に紅狼の嫁となれば……身分差は大きくても、この貴婦人と義理の従姉妹になることも事実だ。それに、母を亡くして祖母は旅に出ていて身内の女性が近くにいない。下女仲間はいても、近親者の女性が近くにいない今では。たしかに、この女性しか相談しにくい。ましてや、紅狼のことであれば。なので、彼女の言葉に甘えてみることにした。初めて、心の拠り所とやらをひとつでも頼るためにも。


 梁に目配せしても、そうしろと頷くだけだったので。思い切って、抱えていた悩みを打ち明けてみることにしてみた。



「そ、その……あ、愛を育む段階、を」

「え、ええ」

「緑玲妃様は……主上と、どのように進めた……と、お……きき、しても」

「紅狼が迫ったことは聞いているけど、まさか……いきなり襲われた?」

「そ、それは……わ、からないですけど。少し、進みかけて」

「それは立派に襲われたってことよ!?」



 やはり、あの出来事は『襲われた』ということか。梁のため息が聞こえた気がしたが、緑玲の驚く表情が衝撃的過ぎて口が思わず開いてしまう。


 斗亜からの寵愛を受けている彼女がこれだけ驚くのだから、従兄弟の行動はやはり余程のことなのか。振り返ってみても、また心臓から熱が込み上がってくるようで苦しくなった。

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