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「異世界グランダリア生活記(9)~少女の視線はやはり冷たく、老人のテンションは妙に落ち着いていた……/後編~」

 朝日の射し込むリビング。使われていない台所キッチン水槽シンクには皿が何枚か重なって置かれている。


「・・・・・えっ? 今、なんとおっしゃいましたか……??」


 長方形のテーブルに4つの椅子。テーブルには空っぽのカップ2つと皿が1つ、それにナイフとフォークが1組ある。


「だから……あなたはこの家で使用人になるのでしょう? そんでダニーさんの面倒を見るって……“ジェット”からそう言いつけられたんじゃないの?」


 少女は黒いローブのフードを深く被り、その黒髪と表情を影にかくした。椅子の1つに座る老人は何か思いをせるかのように窓をながめている。


「いや、そんなこと聞いて……あっ。そういえば、昨日あの人が……ジェットってそうか、彼が言っていた……いやいや、言っていたけども!?」


「ふぅん……その様子だとあなたは別に許可とかしたわけじゃないみたいね。でも、どうなのよ実際? あなたはほら……なんだっけ“いせかい(?)”とかから来たんでしょ。そんな人がここで生活できるの?」


「そ、それは…………どうすればいいでしょうか?」


「だからさ、ジェットは言ったんでしょ? あてもないならここで生活させてやるから、この人を世話してくれって……そうなんでしょ。お金だって渡したと聞いたわ」


「あ~~~、それは確かにそのようなことを言っていた気がしますけど。ただ、そんな急に言われても……」


「どっからかは知らないけど、あなただって急に来たんでしょ。別に私はあんたがこの街で放浪ほうろうしてたって知らないけどさ……ただ、治安を乱すようなら対処するけどね」


「ヒッ!? そ、そそ、そんな……私だって悪さなんかする気もないですけど、でもどうすればって……こんな何も知らない世界で私は――」


「――――チィッ! だから言ってるでしょ、ここを拠点にしてとりあえずはこの場所を理解する時間を作りなさいよ。あなたそんなウジウジして……やっぱり不審者なら、治安局に突き出すわよ!!」


「わぁぁっ!? だ、だから不審者じゃないって。僕は普通の、ただの会社員なのに……どうしてこんなことに、うぅぅ……」


 可哀かわいそうに……私は泣いてしまった。でも、これは仕方がないことだ。


 なんたってこの少女、異世界にやってきたばかりで何も解らない人に対して当たりが強すぎる。このサマちゃ――黒髪の少女ときたらどうしたってこうも態度がきびしいのだろうか? このあたりこそ師匠であるリリーさんを見習うべきであろう……と、当時の私は常々に思っていたものだ。


 泣かされた私。それを横目にチラリともせず、黒いローブの少女は部屋を出ていこうとする。どうやら彼女は私の記憶にある具合を確認しに来ただけらしい。


 記憶にある具合というのはそれこそ“彼女の下着”であり、ここでいう「彼女」というのはリリーさんである。


 どうやら彼女は下着を見られたことを気にしていたらしく、それもあって私はこの老人宅へと強制移動させられたらしい。それはまぁ、解らないでもないことだ。初対面の男性に下着姿を見られたのなら、あまり顔を合わせにくいという心境は察することができる。だからそのことについては私も不服はないし、引きずられた事実も受け入れてはいる。


 ただこの少女にある態度というか……確かに言われると不審でしかないだろうけど、それにしたって私に対してあんまりなあつかいだとは思っていた。怒ってはいないけど不満ではあるという心境。


 それもまぁ、しかし。彼女はこうしてその場を去ろうとしているわけで――


「――ッハァ! まったく、なんで私が……“こんな人”を案内しろですって?? やれやれ、師匠もジェットくんも何考えてんだか……面倒だなぁ」


 振り返った。その場を去ろうとしていた少女は振り返り、フードの影から私を見る。


 どうしたことか解らず、私はしばらく立ち尽くしたのちに「エへへ」とはにかんで笑ってみた。少女の視線がけわしくなる。


 すると、背後から声が聞こえてきた。


「リリー女史は心配しているのだろうよ。きっと、たからこそ彼がどれほど不安でこまっているか……私もそう思うさ。だからサマードくんや、私からも頼むよ……どうか彼にこの街を――――“世界”を見せてやってくれんかね?」


 老人ダニーの穏やかで落ち着いた声が聞こえる。不意のことだったのでそうした内容をはっきりと、その時に感じ取ったわけではない。だが、彼の優しさ……私を気遣っている想いは確かに感じた。


 振り返ると、そこにあるダニーの微笑ほほえみは……なんとあたたかいものか。昨日の狂気はどこに?


 ともかく、私は彼の笑顔を見てその数分にあった不満や恐れをすっかり忘れることができた。そうしたなごんだ空気は少女にも伝わったらしい。


 互いに緊張して話していたであろう私達。そこに割って入った自然体の老人は張り詰めた空気を緩和してくれた。まぁ、それでも少女の表情はまったくゆるんだわけではないけど……。


 にらむというか、いぶかに見上げてくるフードの影にある視線。


 それに対して、私はやっぱり「エへへ」とはにかんで笑うしかない。


 それを見た少女は……。


「――――フゥ。はいはい、解ったわ! だけど長くはしないよ。さくっと生活に必要そうな場所だけ案内するから……そっからは勝手にしてね?」


 そう言い捨てるようにすると、少女は背を向けてスタスタと歩き始めた。


 私は呆然として、中途半端な笑顔を浮かべながらその後ろ姿を見送っている。そうしてついてこない私に気がついた少女はまた振り返り、「さっさと来てよ。こっちだってひまじゃないんだよ!」と少し声をあらげた。


 荒げた声だが……先ほどにあったようなすごんだ低い声色こわいろではない。それからまた背を向けて歩き始める小柄な人。


 被ったフードのとがった部分がらぎ、黒いローブのすそもまた揺らいでいる。


 そうした様子をまだだまって見ていた私だが……それが部屋を完全に出ていくと「ハッ」として我に返り、また怒られることを恐れて歩き始める。


 あわてて廊下ろうかに出るとすでに彼女は出入口らしきとびらを開いており、そのままあっさりと出て行ってしまった。私は「また怒られる!」と思って急いで出入口と思われる扉へと向かった。



 扉を開く。すると、そこには……。






つづく






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