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第5話 これで合ってる?

 俺が戻る頃にはほとんどの生徒が教室に戻っていた。

 あの子もすでに廊下にはいなかった。


 俺は海利に連れられ、さっきいた2年C組に教室の戻っていった。


 教室に入り自分の席に座ると、隣にいる菜乃川……じゃなくて春乃が心配してきた。


「さっきなんかあったの?」


 彼女も海利と同じく俺の奇行を見てしまったようだ。

 そりゃ幼馴染が女の子目掛けて走って行ったら驚くよな。


「いや、なんでも……」


 なんでもないと言おうとしたが、果たしてそれで合ってるのだろうか。

 大したことのない事ならその言葉で乗り切れるだろう。


 けど、話に聞く心火は優しくて声を荒げないタイプ。

 それが廊下で大声を出したということは、何らかの理由をつけないと納得しないんじゃないか?


 頭の中で虎頭心火という会ったことがない男の姿がちらつく。

 他人になりきるのは面倒くさいが、疑われるのもまた面倒くさい。

 海利みたいに物わかりのいいやつとは限らないからな。


「……実はさっきの子、有名なアイドルに似てて思わず声をかけちゃった」


 どうだ? 実際俺は人違いを起こしたわけだ。

 けど、亡くなった彼女なんてことは当然言えない。

 幸いなことに、何があったか聞くってことは正確には俺の言葉が聞こえなかったてことだ。


 なら、この言い訳で通る、のか?


「あっそ」


 春乃はプイっとそっぽを向いてしまった。

 ん?

 これはどっちだ?


「な、なんか怒ってる?」


 確かめなければ。虎頭心火として何がOKで何がNGなのかを知る必要がある。


「怒ってないし。心火がアイドル好きなの知ってるし。

 それと、夢中になると止まらなくなるってことも」


 まじかよ。まさかの模範回答だったのか。

 この年でアイドル好きだとしても違和感ないかなぁ~ぐらいで言ってみたが、正解だったな。


 というか、こんなかわいい子が幼馴染にいるのに、アイドル追っかけてるのかこいつは。

 つまり、春乃の不愛想な反応は、心火への嫉妬ってことか?


 まともに春乃と話したのが初めてなので、不安で仕方なかった。

 なので、本当にこれでよかったのか、少し離れた先にいる海利の方を見てみた。


 すると、こっちに顔を向けてはいなかったが、片手でサインを出していた。

 それは親指を立てたグッドポーズだった。


 よしっ! やはり、虎頭心火がアイドル好きというのが大きかったな。


 とりあえずこの理由が通用したので、他の人にも後で使ってみよう。

 前の方に座っている清楚系毒舌女の沙理弥と、猿系お嬢様ルニールにも理解してもらえると信じよう。

 やっぱり心火のことが気になるのか、その2人は着席しながらもそわそわした様子だった。


 分かっている事 〈更新〉


 その⑨

 虎頭心火はアイドル好き。



 授業がやっと終わった。

 今度は数学の授業だった。

 俺は文系だったので、ほとんど忘れてしまっていた。


 何がXやπだ。

 電卓で全て計算できればいいのに、と心から感じた。


 どうやら、今の授業は6限目だったようで続いてホームルームだった。


 さっきの国語の女性教師がやってきて、連絡事項を述べた。

 どうやら彼女が担任のようだ。

 けど、話は全然頭に入ってこなかった。


「はーい、じゃあ、日直」


 先生が話し終えると、日直の生徒が号令を言いそれに合わせて全員が礼をする。


 俺はそれが終わると、話かけようとする春乃を躱して教室を出ていった。


 海利に虎頭心火として過ごせと言われたので、おそらく教室で春乃たちと話すのが正解だ。

 けど、すまん海利。


 この時間を使って、彼女にもう一度会いたいんだ。

 数学の授業と全く向き合わなかったせいで、余計に詩織という子のことが気になってしまった。

 一度確認したら、また虎頭心火として過ごすからさ。


 俺は教室を片っ端から覗いていった。

 2年A組から順番にだ。

 教室を出たところの廊下に彼女はいたので、おそらく同じ2年生だろう。


 ホームルームが終わった瞬間にスタートダッシュを決め込んだので、まだほとんどの人が教室に残っている。

 早くしないと、外に出てしまう可能性もある。


 俺は教室のドアから顔を覗かせ、瞼を限界まで広げて探していく。


 2年A組はいない。

 2年B組もいない。

 2年C組は俺のクラスだ。

 2年D組は……


 いた!


 彼女だ。

 さっき俺が急に話しかけてしまった、真里菜そっくりの女の子だ。

 直感で真里菜と判断したが、見れば見るほど本人としか思えない。


 肩まで伸ばした黒髪で少しきりっとした顔立ちに、それほど大きくはない胸。

 何より目の下にあるほくろの位置が一緒だ。

 これで別人?

 信じがたいが、俺に起きていることの方がありえない話か。


 彼女は友人たちと楽しく昼ご飯を食べている。

 あー、真里菜の制服姿可愛いな。


 いかん、いかん。

 そんなやましいことを考えてる場合じゃない。


 問題はなんで彼女が真里菜に似ているのか。

 こんなに似ていて全く関係ありません、ってことはない気がする。

 別の場所に来て、亡くなったはずの彼女と再会。

 偶然とは思えない。


 俺が悩み続けながら、凝視していると、近くに人の気配を感じた。


「ん? あ、海利」


 振り返ると、ムスッとした表情の海利が立っていた。

 っげ、怒ってる?


「あのな~、お前よぉ」


 あ、やっぱり怒ってる。


「す、すまん」


「はぁ……まぁ、今日ぐらいは良いさ。

 虎頭心火始めてから1日目だからな」


 始めてって、そんな職業みたいに言わなくても。

 あれ、というか許してくれるのか。


「ちょっと付き合え。色々と話したいことがある」


 そういうと海利は、自分のとは別の学生鞄を俺に渡した。


「え、これ俺の?」


「心火のだ」


 こいつ、わざわざ持ってきてくれたのか。

 なんなんだ、こいつはおかんなのか?


「ありがとう」


「気にすんな。教室に戻るとあいつらいるから、外いくぞ。お前もそのほうが楽だろ?」


 その言葉になんだか涙がでそうだった。

 こいつはこんなにも俺のことを気づかっているのか。

 聖人だ、こいつは聖人なんだ。


「助かるよ」


「だからいいって。俺も気になることがあるからな」


 このタイミングで海利と2人きりで話せるのは都合がいい。

 彼は俺のことをすぐに理解してくれた唯一の人間。

 いろいろと相談に乗ってくれるだろう。


 俺は真里菜似の詩織を名残惜しみながら、海利に連れられて移動した。


 本心を言えばずっと彼女を見ていたい。

 けど、彼女の居場所はわかったわけだ。

 たとえ、今話しかけてもさっきの繰り返しだ。


 今は海利に情報を提供してもらうことが先決。


 俺は海利に連れられ、校舎の外に出ていった。

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