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第9話 今はいつなんだ?

「はぁ~、疲れた~」


「初日としてはいいデキだったんじゃねぇの」


「なら、いいんだけどさ~」


 俺は息を吐きながらゆっくり肩を回した。

 肉体的には特に疲労はないのだが、精神がすり減る1日だった。


 俺は今、学校を終えて海利と一緒に下校していた。

 ちなみに、2人とも歩きで登校しているようだ。


「明日も学校あるんだよな、持つかな俺の体」


「明日行けば、次は土曜日だ。ゆっくり休めるぞ」


 俺がいた世界と同じく木曜日の次は金曜日なようだ。

 1年の周期はほぼ同じみたいだな。


「そういえばさ、今日って5月の12日で合ってるんだよな?」


「あー、確か12だ」


「それは一緒か」


 色々と違うことが多い元の世界と今の世界だが、同じことがあって少しほっとしている。

 やはり、全く繋がりがないわけではなさそうだ。


「てかさ、わかんないことあったらスマホで調べればよくねぇか? せっかくあんだし」


「え、スマホ?」


 俺は海利の言葉にハッとさせられ、右ポケットに触れた。

 そこにはスマートフォンが1台しまってあったのだ。


「うわ、全然気がつかなかった」


 今日は出来事が多すぎて、スマホに触れる余裕なんて一切なかった。

 確かに海利の言った通り、この世界で分からなかったことがあれば、これに頼るのが一番かもしれない。


 俺がスマホに電源をつけると、画面に今日の日付が映し出された。


「5月12日 木曜、って、2016年!?」


 俺は思わず大声を出してしまった。

 同じ道を下校している周囲の生徒に、ちらちらとみられている。


「なんだ、年も違うのか?」


「そ、そうだよ。俺がいたのは2020年」


「……嘘だろ?」


 海利の顔が一瞬引きつった。

 それもそうだ、こんなの戸惑うはずだ。

 だってこれが本当なら、俺は未来から来たことになる。


「俺も信じがたいけど、すでに起こってるわけだし」


 どんなにファンタジーな話でも、それが現実になってしまえば信じるしかない。


 俺は過去に来てしまったのかもしれないが、俺の知っている世界とは違いすぎて、そんな感じは全くしなかった。


「あんたと会ってから、驚かされてばっかりだ。

 けど、それで調べればいろいろ分かってくるだろ」


 俺も海利と同意見だ。

 なので、スマホをもう少しいじってみようと思い触れてみると、ホーム画面で気になるアプリを見つけた。


「これって、もしかしてチャットアプリ?」


アプリのアイコンが、俺のスマホに入っていたものと酷似していた。

この世界でも同じようなものがあるのかもしれない。


「ああ。チャットの履歴でもみれば、あいつらとの会話の勉強になるんじゃねぇの」


あいつらとは、心火の周りにいた彼女たちのことだろう。

確かに、今日は何とか乗り切れたけど、いずれまたぼろを出してしまう危険性は残っている。


「……なぁ、その彼女たちのことなんだけど、やっぱりあの子たち虎頭心火の事好きだよな?」


 俺はさっきの体育館裏での出来事を思い出していた

 少ししか話していない俺でさえ、彼女たちが心火に思いを寄せていることは分かる。

 じゃなきゃ、さっきみたいに宝城さんを呼び出したりはしないだろう。


「尊はさすがに分かるか。直接聞いたことはないけど、十中八九そうだろうな。

 春乃なんか分かりやすすぎだ」


 あんなに顔真っ赤にされれば、嫌でもこいつのことが好きだと分かる。

 それに気がつかないとは、虎頭心火は重度の鈍感なようだ。


「あの子たち、どうにかできないかなぁ~」


「どうにかって?」


「本当は今すぐにでも、宝城さんに話しかけたいけど、また因縁つけられたら嫌だしさ。

 彼女たちが、虎頭心火から遠ざかってくれればいいんだけど」


 せっかく会いたくてたまらなかった人に会えたのに、別人だったし、それに不用意に話しかけたら春乃たちが嫉妬してしまう。

 結局ここに来ても、自殺の理由は分からずじまいだ。


「それは難しいだろうな。あいつら学校にいる時はほとんど心火の傍にいる。

 それに、仮にあんたが彼女たちに嫌われようとして距離を置こうとするなら、俺が止める。

 心火はそんなこと望んじゃいねぇと思うから」


「だよな~」


 海利とは少し打ち解けた気がしたけど、俺の味方になったわけではない。

 心火のために、彼は俺をサポートしてくれるのだ。

 どうにかいい方法はないものだろうか。


「とは言っても、尊の事情を聴いちまったら、絶対に近づくなともいいきれない」


「海利、お前……」


「虎頭心火にとっても、田中尊にとってもプラスになるやり方があるかもしれねぇ」


「ほんといい奴だな。なんか逆に怖いよ、騙されてるみたいで」


 喋れば喋るほど海利のことが好きになってしまう。

 そのため、こいつが詐欺師で俺は欺かれているのではないかと疑ってしまうほどだ。


「俺もいい案がないか考えとく。だから今は、虎頭心火として上手く立ち回れるようになることだ」


「分かった。不審に思われないよう、完璧に演じられるよう頑張るよ」


「頼んだぞ。……お、ついたぜ」


 俺らがそんなことを話していると、いつの間にか住宅街に入っていた。

 そして横を見ると、虎頭と書かれた表札が貼ってある立派な一軒家があった。


「大きい家だな~。東京でこれだと、かなり値段高いだろうな」


「家賃のことはよく知らん。知ってることと言えば、家族はお前を含めて5人。

 えーと、妹と姉だろ。母親はいつも家にいるけど、父親は単身赴任で地方に行ってるって言ったかな」


 なんだその都合のいい家族構成は。

 まてよ、父親が今いないってことは……。


「俺以外、全員女子!?」


「あんま、大声で叫ぶな。近所の人に聞こえたら、怪しまれるぞ」


「あーごめん。いやけど、想像したらつい声がでちゃってさ。

 だって家族も皆、美人揃いなんだろ?」


 下校中にすれ違う人たち全員が、顔立ちのいい人たちだった。

 主婦っぽい人はもちろん、散歩しているおばあちゃんでさえお綺麗だった。


 それならば例外なく、家族もそうなんだろう。

 しかも虎頭心火に関係が深い人たちだ。

 この世界でも美人と分類される人たちかもしれない。


「な、なぁ海利一緒に入らない? ほら、誰が誰かわからないし」


「俺も数回しか来たことないぜ?」


「それで構わないから。頼む!」


 俺は手の平を合わせて必死にお願いした。

 美女だらけの家に、1人で立ち向かう勇気は俺にはない。

 最初だけでいいので、助けてください!


「分かった。少しだけな」


 海利は意外と快く引き受けてくれた。

 面倒くさそうにはしているが、内面にある優しさは隠せないようだ。


「ありがとう!」


 こうして俺は、海利というスケットを得て、美女だけが住まう屋敷へと足を踏み入れるのだった。

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