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蒼穹の魔女は天才魔法工学技師《マギアクラフター》を振り向かせたい!  作者: 新戸 啓
おまけ

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女王の宝物④

「おい! そこ! 何をこそこそしている!」


 青年が幼女にお辞儀をしている姿は、相手からしたら不審な動きに見えたのだろう。周囲を警戒していた男が、こちらに銃口を向けて威圧してきた。


「いえ、少々小蝿の処理について指示を頂いていただけです」


 フリュルルは相手を(あお)るようにそう言って、銃口を向けている男に近づいて行く。


「動くな!」


 男はそう警告したが、フリュルルは薄っすら笑みを浮かべたまま、足を進め続ける。

 

「貴様っ!」


 男はそう叫んで引き金を引いた。

 その瞬間、銃口から眩い光が弾け飛んで銃弾が放たれた。

 それは本来()()という魔物に使用される()()()。マナと呼ばれる無垢の力を利用する銃であり、火薬を使用するものよりも数段威力があるものだった。

 しかし、その凶弾はフリュルルの手前で見えない壁に当たって砕け散ってしまう。

 男はそこから何発も撃ち込むが、結果はすべて同じだった。


「マナ様の慈悲深さに感謝しなさい」


 男の目の前まで来たフリュルルは、そう言って銃身を掴み握り潰す。

 目の前で起きていることが信じられないのだろう。男は口を大きく開け、目を見開いたまま震えていた。そして、最後には人質の女性共々その場にへたり込んでしまった。

 

「化物め! この娘がどうなってもいいのか!」


 ここで店員を脅していたもう一人の男が、マナに向かって銃口を向ける。

 だが、その瞬間、男は額に大量の汗を浮かべて硬直してしまった。マナに敵意を向けたことで、フリュルルの明確な殺気に(さら)されたのだ。


「いけませんね。マナ様に牙を()くなんて。それは万死に値します。いえ、死どころか、輪廻の可能性すら残してはなりませんね」


 フリュルルは怒りに満ちた表情で硬直する男の下へと向かう。

 マナは我を忘れた彼を止めようとするが、そんなところに通報を受けた警備兵がやって来た。フリュルルが強盗に迫るその光景は明らかに異様だったので、当然彼も拘束されそうになる。


 このままだと今度はフリュルルと警備兵の間で一悶着(ひともんちゃく)起こりそうだったので、マナは店員に頼んで一緒に状況を説明して貰った。

 それで何とか事なきを得たが、結局身分を明かすことになり、その確認が取れるまで店で待機することになった。解放されたのは、それから一時間後のことだった。


「本当にもう! あとでお仕置きだからね」


 店を出たマナは、ムスッとした感じでそう言う。

 だが、不機嫌なマナをよそに、フリュルルからは「はい、喜んで」と嬉しそうな言葉が返ってきた。ウキウキするその姿は、まるで構ってほしくて尻尾を振る子犬のようだった。


(この精霊、本当にダメだ……)


 マナは額に手を当ててため息を吐く。ドッと疲れが押し寄せてきた気がした。


 そんなときだった。後ろから誰かに両肩を掴まれたのは。

 フリュルルがそれを許した時点で相手が誰なのか察しがついた。


「家出娘みっけ」

「お母様」


 見上げると微笑む母の姿がそこにあった。その後ろには母を守護する精霊ハーディの姿も。

 ハーディは慈愛溢れる女性の姿をしているのだが、今日は何故だか恨めしそうにフリュルルを睨んでいた。まるで何かに嫉妬しているようである。フリュルルはそんな彼女に対して勝ち誇った笑みを返していた。


「どう? 今日は楽しかった?」


 母は叱るわけでもなく、そう問いかけてくる。

 マナはニッコリと笑って頷いた。


「よかった。わたしの宝物が気に入って貰えてよかったわ」

「宝物?」

「そう。この街は宝箱。中にあるものは全部わたしの大切な宝物なんだから」


 そう言って、母はギュッとマナを抱きしめてくる。


「あまり構ってあげれなくてごめんね。でも、マナはわたしの一番の宝物なんだからね」


 耳元で優しく囁いた母のその言葉は、マナの心を揺さぶった。思わず涙が出そうになったが、母に抱きつくことで何とか我慢することができた。

 その間、母は「甘えん坊さん」と言って、ずっと頭を撫でてくれていた。もしかしたらマナの心中などお見通しだったのかもしれない。


 それから少し街中を散歩してから帰ろうということになった。


 いつの間にか日が傾きかけていた。いつもなら赤く染まった街並みを王宮から眺めるている時間だ。だが、今はその中にいる。少し不思議な気分だった。


 気持ちが落ち着いたマナは、ここで父のことも訊ねてみる。


「ねえ、お父様も宝物?」

「研究ばかりしている薄情な人なんて知りませーん」


 母は口を尖らせ、子供が拗ねたような口調で言う。

 そんな母の仕草を見て、マナは思わず吹き出してしまった。そして、あまりに可愛らしい母に悪戯(いたずら)をしたくなる。


「そうなの? じゃあ、これからずっとお父様を独り占めしてもいい?」

「えっ? そ、それはちょっと……」


 自分とそっくりな顔が困り顔になる。

 予想通り、いや、期待通りの反応だった。

 マナはまたクスッと笑って母の手をとる。そして、彼女は、はにかんで母に告げた。


「冗談です」

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