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蒼穹の魔女は天才魔法工学技師《マギアクラフター》を振り向かせたい!  作者: 新戸 啓
おまけ

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女王の宝物②

 リリに目的地を確認すると、それは公園の中にあるクレープ屋とのことだった。

 ちなみにリリとは意識の共有という魔法で会話をしている。リリの方からコンタクトしてきているので、マナにその負担は一切ない。本来ならば、【Lリンクス】という情報端末を必要とする魔法なのだが、マナにはそれも必要なかった。


 さすがに六歳の少女が大通りを一人で歩くのは浮いた感じになるので、不本意だがフリュルルに表に出てきて貰うことにした。

 フリュルルの容姿は精霊の中でも人間に近い。白い髪と金色の瞳が特徴的で、黙っていれば好青年に見える。それに王宮ではマナの世話係として振る舞っているので、パッと見は執事のようだった。見た目だけなら保護者を装うには適任である。


「傍にいるだけでいいからね。余計なことはしてはダメよ」

「はい。心得ています」


 フリュルルは爽やかな笑みを浮かべて頷く。

 基本的に精霊は主人以外の人間には無関心。したがって、マナのためにと、とんでもないことをしでかす恐れもあるので、彼女は一応釘を刺しておくことにした。


 しかし、そんな注意を払って保護者を偽装しても結局注目を浴びることになった。

 マナは整った顔立ちで年相応の愛くるしさもある。フリュルルも白い貴公子と呼ばれるくらい無駄に美形で長身なこともあり、並んで歩くと自然と二人に視線が集まった。


「見られてるよね?」

「そうですね。不快でしたら皆始末しますが、いかが致しましょう?」

「やめなさい。もし目が合ったら、いつもわたしにするみたいに愛想を振りまいてなさい」


 マナは物騒なことを言うフリュルルを注意すると、リリのナビゲートの下、足早に目的地に向かう。街に出ることなど滅多にないので、もっと街中を観察したかったが、こうなっては仕方ない。


 公園の広場に着くと、そこに目当てのクレープ屋があった。平日なのでそこまで人は多くないが、それでも何人か店の前に並んでいた。

 マナは列の後ろに並ぶと心の中でリリに訊ねる。


『何を買えばいいの?』

『好きな物を買って、近くのベンチで食べなさいだって』

『それってお遣いになるの?』

『まあ、それが女王のお願いだし、いいんじゃないかな』


 マナは変なのと思いながら、順番がきたのでショーケースを見て注文する。


「この苺が入ったものをお願いします」


 マナはショーケースの中を指差して言うと、フリュルルがそれに合わせて預けてあったお金を店員の女性に手渡した。しかし、その女性は手のひらにお金を乗せたまま、呆けた顔でマナを見つめていた。

 相手は四十歳前後の少し小太りな女性。頭の中を検索しても過去に会った記憶はどこにもない。確実に初対面なはずだ。


「わたしの顔がどうかしましたか?」


 マナは不思議に思って訊ねる。


「あっ、ごめんね。お嬢ちゃんが昔よく通っていた()にあまりにそっくりで少し驚いちゃった」


 店員の女性は肩を(すく)めてそう答えると、すぐに注文したクレープの用意に取り掛かった。そして、できあがるとわざわざカウンターから出てきて直接手渡してくれた。

 おそらく子育ての経験があるのだろう。子供に接し慣れている。その証拠にマナのために膝を曲げて目線の高さを合わせてくれていた。


「お嬢ちゃん、お名前は?」


 店員の女性が幼子をあやすように名前を訊いてくる。


 マナはどう答えるべきか少し迷った。

 もしかしたら昔よく通っていた娘というのは、母なのかもしれない。この場所に誘導したのも母なのでその可能性は高い。母と知り合いならば実名を乗ってもよいが、そうでないのなら先々のことも考えて偽名で通したいところである。


(でも、まあ、いっか)


 この女性ならば実名で問題ないだろうと判断したマナは、口元を少し緩めて店員の耳元で(ささや)く。


「マナ。マナ=アスタリア=シラユリです」


 マナの名を聞いた店員は、目を見開くとそこから懐かしむような笑みを浮かべて「そう」と頷いた。


「本当にお母さんそっくりで美人さんだね。忙しいかもしれないけど、今度はお母さんも連れておいで」

「はい。ぜひ」


 マナが笑顔でそう答えると、店員はカウンターからドリンクを二つ持ってきて、サービスしてくれた。

 彼女は礼を言ってから、広場の空いているベンチを探してそこに腰を下ろす。フリュルルにも隣に座るように提案したが、彼はそれを固辞した。もしものときのために、すぐに動ける状態でいたいようだ。


『次はどこに行けばいいの?』


 マナはクレープを口に運びながらリリに訊ねる。


『この公園から目抜き通りに出たとこにあるお洋服屋さん。何か気に入ったものがあったら好きに買いなさいだって。話は通してあるみたいだから』

『何それ。お城で仕立てる服で十分なのに』

『女の子なんだからオシャレも楽しみなさいってことじゃないかな』

『そんなことより、お父様と魔法の研究をしてた方がずっと有意義だわ』


 マナがやれやれといった感じで言う。対して、リリは『でた、ファザコン』とぼそっと呟いていたが、それは聞き流すことにした。


 それからマナはフリュルルにも協力して貰ってクレープを食べ終えると、予定通り目抜き通りの洋服屋に向かった。

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