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蒼穹の魔女は天才魔法工学技師《マギアクラフター》を振り向かせたい!  作者: 新戸 啓
本編

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48話 万事休す

 閃光が襲いかかってくる。


 ユーリはそれを防ぐために咄嗟(とっさ)に右腕を顔の前に出した。Lリンクスに備わったシールド魔法が窮地に反応し、前方に六角形の光の盾を作り出す。

 しかし、あまりに至近距離からの攻撃だったために、完全な形となる前に閃光とぶつかって相殺するように砕けてしまった。その衝撃でユーリは後方に吹き飛ばされてしまう。

 ユーリは受け身をとりながら何とか体勢を整えるが、そこに追い撃ちをかけるように再び閃光が襲いかかってきた。彼は一瞬死を覚悟したが、リュートが前に入って白銀の槍でそれを受け止めてくれたおかげで、何とか危機を回避することができた。


「あいつの精神はまだ凍ったままだよな!? 一体どうなってやがるんだ!」


 リュートは苦虫を噛み潰したような表情で言葉を吐き捨てる。


 ユーリも同じ疑問を抱いていた。 

 彼女の精神が凍っている今、覇王が彼女の精神に入り込んで身体を操ることは不可能なはずだ。現に、彼女は瞳を閉じたまま動いていない。


(まさか、意識だけの状態で魔法を使用している?)


 ユーリは覇王の意識が宿る魔法陣を見てその可能性を考える。すぐにリリがそれに反応した。


『多分そう。あの娘からの魔力の供給は途絶えていないから、それを利用することができるんだと思う。迂闊だった。ふざけてないで一気にあの魔法陣まで壊すべきだった………』

『反省はあとだよ。まだ間に合う。彼女が目覚める前に魔法陣を叩こう』


 ユーリは自身が招いた失態を悔やむリリを励ましつつ、すぐに対処を試みる。


「リュート、残りの魔法陣を叩く。援護をお願い!」


 ユーリはリュートの「おう!」という返事を受けて、魔法陣に向かって走り出す。それに気づいたのか、覇王の意識が宿る魔法陣は、五本の雷の槍を生み出して迎え撃とうとしていた。


(感覚器官なしでこちらの位置を把握できるのは、おそらく周囲のマナに干渉してその動きを探っているから。それならその注意を分散させればいい)


 ユーリは二本のマテリアルダーツを取り出して天に向けて投げ放つ。そのコントロールはリリに委ねて、彼はもう一度Lリンクスを使って前方に光の盾を生成しようとする。この間に雷撃が放たれていたからだ。


「任せろ!」


 リュートがそう叫んでユーリを追い越して行く。彼は迫りくる雷撃を次々と白銀の槍で弾いて、目指す魔法陣までの進路を作った。ユーリは一旦光の盾の発動をキャンセルして、そこを走り抜ける。


 彼女の凍った精神が解けるまであと僅か。それでも彼女の身体を考慮して、予定通りユリとアヤメの三つの魔法陣は後回しにすることにした。


 失敗は許されない。

 一つの選択も誤ってはならない。

 必ず最適の未来を導く。

 その決意の下、ユーリの瞳の輝きが一層増す。

 青白い魔力を帯びた瞳を通して、彼は視界に入ったすべてのマナの動きを瞬時に把握した。

 そこから未来の姿を導き出す。


 把握したマナの中には、覇王の支配下に入り、ユーリとリュートを観測しているものがあった。

 そして、ユーリが魔法陣に近づくにつれ、こちらを標的とした新たな魔法の兆候も見えてくる。それが明確な未来になった瞬間に、彼は命じた。

 

『リリ、今だよ!』

『うん!』

 

 リリの返事を受けて、上空に投げていた二本のマテリアルダーツが一斉に急下降する。

 その気配を察知したのか、ユーリを狙った魔法はキャンセルされた。代わりにダーツを迎撃するための魔法が構築されていく。しかし、それが発動する前に、マテリアルダーツが二つの魔法陣に突き刺さった。そして、それらの魔法陣はリリの干渉を受けて硝子のように砕け散る。


(やっぱりだ。彼女の身体を操っていたときよりも魔法の発動速度がずっと遅い。おそらく彼女の身体から魔力を引き出す部分で時間が掛かっているんだ)


『ユーリ、このまま一気にいこう!』

『勿論!』


 ユーリは左拳に魔力を込めて覇王の意識が宿る魔法陣を殴りつけようとする。そのまま自身の魔力を通してリリを干渉させ破壊するつもりだった。

 しかし、脳裏に映る未来の姿は、彼の思惑とは違っていた。

 その姿は覇王の意識が宿る魔法陣が金と銀の糸に覆われ、絶対障壁に包まれるというもの。双光の衣によって拳が弾かれる未来だった。


(そうか……。魔法の発動速度が遅かったのは、単に魔力を引き出すのに時間が掛かっていただけではないんだ。いざというときのために、ずっと双光の衣の発動を待機させていたんだ)


 見えた未来の通り、ユーリの拳は光に拒まれた。彼は一度後方に退き、アヤメが描かれた魔法陣を睨む。纏っていた光の衣は、役目を終えて収束し始めていた。


 双光の衣が発動した状態では、ユーリにそれを打ち破る(すべ)はない。先程のように魔力を奪って発動できない状況を作り、その隙を突くしか手段はない。

 だが、手持ちのマテリアルダーツはマナで満ちたものだけ。しかも八本では、例えすべてを空にしても奪いきることはできないだろう。


(この状況でどうすれば双光の衣を打開できる?)


 ユーリは焦燥に駆られる中で自問する。


 発動させてしまうと、神域魔法クラスの攻撃でなければ打ち破ることは不可能。

 となると、やはり発動させない状況を作るしかない。だけど、この状況でどう作る?

  インスタントマジックカードはあと二枚目あるが、うまく活用する方法は今のところ思いつかない。そもそも術式を書き込む時間もない。


『双光の衣の攻略だけに縛られてはダメ。きっとあれを破ることなく解決する方法もあるはずだよ』

『そんなこと言っても……』


 ユーリは眉を(ひそ)めて(うつむ)く。

 この間も全力で思考を巡らせていた。しかし、幾つもの仮定を構築してみるが、それを矛盾という綻びが(ことごと)く壊していく。その繰り返し。答えにたどり着きそうな道筋すら見つからない。


 思考の大部分が与えられた命題を解決するために試行錯誤する中、ユーリは何気なく左の手のひらを見つめた。そして、特に意味もなくその手を握り締めたとき、意識がそこに傾き、ハッとする。


『リリ……』

『……うん。そうだね。可能性はある』


 ユーリの思考を読んだリリが、静かに同意する。

 彼女にしては少し反応が鈍かった。おそらく一か八かの賭けに近いという認識なのだろう。そんな分の悪い賭けでも、彼女が止めないということは、現状がそれだけ切羽詰まっているという証拠でもある。


 ユーリは深呼吸をして、展開する魔法陣の下で眠る少女を見る。


(でも、やるしかない)

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