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46話 秘術の正体

 金色の髪の少女は穏やかな表情で眠っていた。

 それは魔法の効力が切れるか、こちらが意図的に起こさない限り、決して目覚めることはないの眠り。今、彼女の()()は凍りついてしまっているのだ。


 これを実行したのはユーリ。彼は氷の砂時計というアーティファクトを参考にして、事前にこの術式を組み上げていた。魂の融合を解除するにしても、相手の動きを止めなければならないので、その手段の一つとして用意していたのだ。


「なあ、これどうすればいいんだ?」


 リュートは服の内側に刺し込んであったマテリアルダーツを取り外していた。

 その数、十二本。ダーツに付いているマナマテリアルは、どれも覇王から奪った魔力で飽和しかけていた。奪った魔力は、ほんの一瞬のものであることを考えると、やはり魔女の魔力量は恐ろしいものがある。


「このケースに入れておいて。ここに入れておけば、簡単には暴発しないようになってるから」


 ユーリは腰の鞄から銀色のケースを取り出してリュートに手渡した。暴発という言葉が気になったのか、彼は一本ずつ慎重にケースに入れていた。やはり、繊細な部分を持っているのだなと、ユーリはその姿を見て微笑ましく思った。


「で、お前何したんだよ?」


 リュートはダーツをすべてケースに収めると、眠る少女を見て訊ねてくる。


「彼女の時間を凍らせたんだよ。サズさんからこれからの方針を聞いたとき、氷の砂時計は確かに使えるなと思って。即席だけどその術式を組み上げて使ってみた」

「アーティファクトを即席で? すげぇな。しかもあんなカードで代用するなんて」

「完璧に再現できたわけじゃないけどね」


 あのカードは【インスタントマジックカード】と呼ばれ、カードに焼き付けた術式を周囲のマナを利用して一度だけ発動させることができる魔法具だ。便利そうに思えるが、しっかりと設計された魔法具と違って安定性は低く、容量もそれほど大きくないので複雑な術式には使うことができない。したがって、世間では単純な術式にしか活用することできず、緊急時にその場しのぎで使用する代物と認識されていた。

 しかし、エルグラウンドであるユーリが使えば別物となる。今回も術式を三つに分割することで容量の少なさを補い、それを連結して発動させることで氷の砂時計と同様の効力を発揮させていた。(ちなみにカードに突き刺したダーツは、大規模魔法で不足するマナを補うためのものである)

 ただそれでも成功したのは彼女の時間を止めることまで。氷の砂時計のように効力を維持する部分を組み込むことまではできなかった。ゆえに、そんなには長く眠らせておくことはできないはずである。


「しかし、初っ端からそれ使って良かったのか? お前、こいつにかかっている術式を解除して助けるつもりだったんだろ?」

「うん。だから、精神(こころ)だけを凍らせた」

「はっ? 精神だけって、それ大丈夫なのか?」


 リュートの表情が少し曇る。身体を生かしたまま心を殺したような状態なので、彼が不安になるのも当然だろう。


「勿論、このままだと植物状態だよ。でも身体ごと時間を止めると、術式も解除できないしね」


 そう言って、ユーリはユイカの額に触れると、自身と彼女の魔力と同調させて、彼女に施されている術式を探った。

 同調させた彼女の魔力は、とても心が落ち着く優しいものだった。おそらく体内で生成される魔力に覇王の影響は及んでいないのだろう。となると、魂の融合というよりは精神に干渉する魔法なのかもしれない。


「これか……」


 ユーリは彼女に施されている術式を見つけると、マジックディバイスを使ってそれを周囲に展開させた。すると、様々な形をした幾つもの魔法陣が、彼の周りを取り囲んだ。


 白の魔女の象徴であるユリの紋章、それに十字やダイヤ、鍵のような形をしたものまで、計十三種類の魔法陣が展開している。その一つ一つに複雑な神与文字が描かれていた。


「すげぇ数の魔法陣だな。覇王は白の系譜の花冠、それも第三超越を扱えるレベルの者しか解除できないとか言ってたぞ」


 リュートは大きく口を開けて宙に浮かぶ魔法陣を見上げていた。


「どの系譜でも基軸となる部分は似たようなものだしね。何とかしてみるよ。疲れてると思うけど、周囲の警戒をお願い」

「おう。任せろ」


 リュートは白銀の槍を手に取り、フラフラとした足取りでユーリから距離をとった。やはり覇王との戦闘で余力はほとんど残っていないようだ。それでも文句を言わずに立ち上がるのは、彼女あるいはシラユリ家に対する特別な想いがあるのだろう。


「さてと」


 ユーリは周囲に展開している十三の魔法陣を眺める。


 この術式の核となっているのは、白の系譜を意味するユリの紋章が描かれた魔法陣。それを補助し、成り立たせているものが六つ。さらに残りの六つがそれら主軸となっている魔法陣をプロテクトしている。


 注目すべきは、核となる魔法陣を補助している魔法陣。その二つにアヤメの花が描かれた魔法陣がある。

 アヤメは【紫の魔女】を象徴する花だ。つまり、この部分は紫の系譜、精神系統の魔法ということになる。そして、これらの魔法陣に書かれた神与文字から理解できる部分を読み解くと、一つは記憶をコピーし保存する術式、もう一つは精神を閉じ込めるような術式になっていることがわかった。


(なるほど。やっぱり魂の融合なんて大それたことできやしないんだ)


 ユーリは、おおよそ魂の融合という秘術の正体を察した。

 まだ推測に過ぎないが、彼女の中にいる覇王は、当時の彼の人格や記憶をコピーしたものだろう。彼女の精神を強制的に閉じ込め、眠らせることで、覇王のコピーが主人格となって表に出てくる、そんな仕組みになっているはずだ。

 だからこそ、全体の半分近くを占める魔法陣でこの術式をプロテクトしていると考えられる。コピーが保存されている術式が破壊されれば、覇王の意思は完全にこの世から消えるからだ。それを恐れている。こんなにもセキュリティに重点を置いていることが何よりもの証である。


(返して貰うよ。僕が追い求める未来に必要なのは、あなたではなく彼女だ) 

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