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蒼穹の魔女は天才魔法工学技師《マギアクラフター》を振り向かせたい!  作者: 新戸 啓
本編

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44話 ギルガ=アスタリア=リリアス

 覇王、ギルガ=アスタリア=リリアスは佇んだまま、姪の記憶からこの街の現状を引き出して整理していた。


(結局、シラユリは安寧を導いたか……)


 ギルガはアーズル・ガーデンで唯一の魔王である。彼以外に男で白の魔女の力を受け継いだ者はいない。

 やはり男では魔女の力が馴染みにくく、何より短命になるので、自ら進んで魔王となる者はいなかったのだろう。もしくは先祖には、数百年の寿命を捨ててまで何かを成し得ようとする気概(きがい)を持った人物はいなかったのかもしれない。


 ギルガはそんな彼らとは違った。

 彼は始祖王リッカ=アスタリア=シラユリが示した方針に囚われ続ける一族に嫌気が刺し、安寧の未来を捨てて王の座を狙った。リリアスというのは、そんな彼がシラユリから決別する意味でつけた名である。


 リッカは魔法士と人間との調和を何よりも重んじたという。そんな彼女は住人の中に魔法士という異分子が混じることで起こる不和を見据えて、魔法士の管理を徹底することで調和を図ったといわれている。

 その方針を受け継いだシラユリの一族は、いつしか契約者を作ることを禁じ、街から魔法士を排除するようになった。最近ではシラユリの血筋すら広げることをやめて、ついには途絶えかけている状況だ。


 結果的に人と人が大きく争うことがない街にはなった。その部分においては、他の街とは雲泥の差だと思われる。

 だが、天罰においては騎士頼み。彼らが到着するまでは、各地に編成された部隊で対処しなければならない。そこに魔法士がいるかいないかでは、できることが大きく違ってくる。

 姪の記憶によれば、ギルガの時代よりは魔法具の発達によって、討伐隊の技量は上がっているようだが、それでも天罰の被害は他の街より深刻となることが多いようである。


(他に色々とやりようがあったろうに)


 ギルガが心の中でそう嘆いたとき、視界の端で何者かが近づいて来るのに気がついた。

 それは先ほど少し揉んでやった赤髪の少年だった。

 あの程度で死ぬことはないと思っていたが、再び立ち上がって来るのは予想外だった。もしかしたらあの状況からでも風で衝撃を和らげたのかもしれないが、それ以上に戦う気力が残っていることに少し驚いた。


(面白い)


 ギルガはニヤリと笑って、ゆっくりとそちらに飛んでいく。そして、リュートの間近までやって来ると彼を見下ろしながら、その姿勢を称賛した。


「まだ立ち向かおうとするその心力、褒めてやる」

「それは光栄だな。覇王と(うた)われたあんたから、そういう部分を褒められるのは悪くない気分だ」


 リュートはこちらを見据えて満足そうに笑った。


「しかし()せぬな。余との実力差は十分痛感したであろう?」

「ああ。オレの知る魔女は二人とも荒事を嫌っていたからな。魔女の真髄(しんずい)ってやつを今の今まで知らなかったよ。恐ろしい力だ」

「それを理解して何故また余の前に立つ? セイカ=アスタリア=シラユリへの忠義か?」

「それもあるけどな。無敵と思われる力にも別角度から見れば何かしらの弱点ってものがあるかもしれないだろ?」


 ギルガは「フッ」と笑う。リュートをバカにしたわけではない。魔女、いや魔王相手でも折れないその意気込みが気にいったのだ。


「それを見つけたと?」

「今から見つけるんだよ」


 リュートが銀の短槍を構えると、突然背後の風の流れが変わり、ヒュッと風を切る音が聞こえた。


 周囲のマナが事象改変に使われたことにより、双光の衣が発動する。背後から迫った風の刃は、光の衣に触れると同時に掻き消えた。

 ギルガはそちらに目を向けることはなかった。正面からリュートが迫って来ていたからだ。


 白銀の槍がギルガ目掛けて振り下ろされる。

 ギルガはそれを先ほどと同じように黒の錫杖で弾いた。

 リュートは弾かれた反動と風をうまく利用して次の斬撃を繰り出してくる。それも斥力を作り出して錫杖で受け止めた。


 リュートから迷いが消えていた。先ほどまではこの身体に気を使って深く踏み込めていないようだったが、今は確実にギルガ=アスタリア=リリアスを討ち取ろうとしている。

 おそらく一度刃を交えて、加減など一切必要ないと見極めたのだろう。相手がこの身体を傷つけたくないことを考慮すると、それはギルガの力に対する絶対的な信頼を意味している。


(安心しろ。その信頼、余は裏切らぬぞ)


 ギルガは繰り出された斬撃を(さば)いたあと、後ろに距離をとりながら飛び上がる。そして、左手をリュートにかざして、無数の光弾を放った。

 リュートはそれらを白銀の槍で弾いて対応する。先ほどと同じように、ギルガはその隙に彼を虚のレガリアで捕らえるつもりだった。


(今だ)


 そう思って、ギルガが黒の錫杖をかざそうとした瞬間、再び周囲の風の流れが変わる。それに反応して双光の衣が発動し、突如襲いかかってきた突風から身を守った。


「やっぱりな。さすがのあんたでも双光の衣はレガリアや他の魔法と同時には使えない。しかも、発動中はその場を動けないだろ?」


 リュートは薄ら笑みを浮かべて指摘してくる。

 生と死の狭間で楽しそう戦う少年を見て、ギルガもつられて笑みとなっていた。わざわざ少年の指摘に答える必要はなかったが、彼はそれでも健闘する少年に応えてやりたいと思った。


「いかにも。同時使用ができないことはともかく、行動制限についてはよく気がついたな」

「あんた、避けれそうな攻撃も避けないからな。それにカウンターに最適な魔法なのに、解除するまでそれをしないってことが何より気になったのさ」

「なるほど。では、余も一つ問う。風の扱い方が先ほどより洗練されたように思うのだが、気のせいか?」


 ギルガの問いかけに、リュートは一瞬目を見開くと、彼は少し俯いて「くっくっく」と低い声で笑い出した。


「やっぱり、あんたすげぇや。そうだ。気のせいじゃねえよ。あんたのおかげで、もっとシルラと仲良くなれたのさ」

「そうか。羨ましい限りだ。余はシルラとはそこまでの関係は築けなかったからな」


 ギルガは素直な感想を述べると、最後にもう一度忠告することにする。


「やはり失うには惜しい逸材だ。最後にもう一度だけ確認するが、余に仕えてくれる気はないか?」

「ああ、ない」


 リュートは、濁りのない目で即答した。

 彼の決意が覆ることはないとわかっていたが、それでもギルガは残念に思った。彼は一つ息を吐いて気持ちを入れ替えると、リュートに告げる。


「そうか。では、仕方ない。決着といこうか」

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