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蒼穹の魔女は天才魔法工学技師《マギアクラフター》を振り向かせたい!  作者: 新戸 啓
本編

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19話 強襲①

 それは一瞬のことだった。

 シャンデリアが落下した直後、最前列の一番右端にぽつりと座っていたユーリは、突然霧に包まれた。


(えっ?)


 戸惑うユーリが立ち上がると同時に脳裏に死の未来が過ぎった。

 それは霧の向こうから現れた仮面の男にダガーのようなもので胸を突き抜かれるいうもの。

 瞬きするよりもずっと短い時間の先に訪れる未来だ。


 一切の無駄な動きが許されない状況で、ユーリは相手の気配を感じた瞬間に身体を捻って敵の攻撃を躱そうとする。

 だが、それでもダガーは彼の右肩付近を抉った。

 激痛が走ったが、その傷を気にしている暇はなかった。

 血に塗れた刃がユーリの身体を薙ぎ払おうとしていたからだ。

 彼はその攻撃を後ろに倒れ込みながらも何とか躱す。

 そのまま距離をとって霧に紛れようとしたが、その途端に霧はまるで幻覚だったように瞬時に晴れてしまった。


 開けた視界にユーリは眉を顰める。礼拝堂とはまったく異なる風景が目の前に広がっていたからだ。

 今、彼の目には生い茂る木々が映っている。左右を確認しても同じような景色だ。

 太陽があるのでアーズル・ガーデンなのだろうが、草木で遠くまで見渡せないため、ここが街のどの場所なのかまったく見当がつかなかった。

 ただ間伐など人が手入れをした形跡があるので、人が寄りつかない深い森の中というわけではなさそうだ。それでも近くに民家があるとは到底思えない感じだが……。


(誘導されたか)


 ユーリはこの事態を引き起こしたであろう人物を睨む。

 仮面の男は一度距離をとってこちらを窺っていた。

 背が高く細身の男だ。微笑する仮面のせいか、どこか道化師のようにも見えた。

 この状況で慌てる様子もないということは、彼の仕業ということでほぼ間違いないだろう。


()()()()()かな?」


 ユーリはおおよその見当がついていたので訊ねてみる。

 何も返答はなかったが、仮面の男は手のひらサイズの青い石をこちらに投げ捨てた。


 青い石を見て、ユーリは「やっぱりね」と呟く。

 この事態は転移の宝玉という魔法具によって引き起こされたものだ。

 これはマナを特殊な霧に変え対象を包んで指定の場所に転移させる術式が施されている。

 便利そうに思えるが、実際は転移できる距離は数キロ程度であり、さらに転移には大量のマナが必要となるため、一度使うと核となっているマナマテリアルが空になってしまう。また、容量が大きいマナマテリアルが使用されているため高額であり、結局金持ちの道楽程度しか使い道がない代物となっている。


 ユーリは片膝をついたまま状況を確認する。

 右肩の傷は致命傷を避けているが浅いわけではない。右手はほぼ使い物にならないし、このままだと失血死する可能性もあるので早めに治療を受ける必要がある。

 そのためには目の前の殺人鬼をどうにしなければならないわけだが、まず手負いの状態で勝てる相手ではない。

 そうなると逃げの一択なのだが、あちらが策を練っての襲撃に対してこちらは不意打ちを食らった立場、そう簡単にはいかないだろう。


 とりあえず、ユーリは靴に仕込んであるマテリアルダーツを素早く取り出す。数は二本。その一本を自身の太腿に刺してマナで身体強化すると、もう一本を右手の袖口に刺した。

 その間、仮面の男は構えてはいたが動こうとはしなかった。

 おそらく彼は暗殺に特化した訓練を受けた強者だ。そんな彼にしてみれば、完全に不意を突いたはずの一撃で仕留め損なったことが腑に落ちないのだろう。

 当然、何らかの魔法を使用したと考えているはずだ。迂闊に踏み込むのは危険と判断してもおかしくはない。

 そう思ったが、仮面の男は予想に反して低い笑い声とともに宣戦布告してくる。


「ひっひっひ。準備は済んだか? そろそろ行くぞ」

「状況を把握するのを待っててくれたの? 殺し屋さんなのにずいぶん律儀だね」

「あの攻撃を躱せるとは思わなかったのさ。どうやら簡単に壊れる玩具じゃなさそうだ。ひっひっひ」


 仮面の男は言い終わると同時に腰を低くして臨戦態勢に入る。全身が濃厚なマナの輝きで満ちていた。

 おそらくマナによるドーピングをしているのだろう。魔法士が自身の魔力で細胞を活性化させるように、彼も強制的にマナを体内に取り入れることで同じようなことをしているのだ。


 ユーリのように特別な事情がない限り、魔法士ならば普通は自身の魔力で身体強化をする。ゆえに、この仮面の男は魔法士でないはずだ。

 魔法士と違って、マナに耐性がない者が強引に細胞を活性化させれば、当然身体にかかる負担は大きくなる。寿命を削る行為と言っていい。こんなことをするのは、使い捨てにされる兵士か、または頭のネジが吹っ飛んだ戦闘狂くらいのはずだ。


(この男は後者かな……)


 面倒な敵だなと思いながら、ユーリは呼吸を整えて警戒を強める。


 魔法士ではないとはいえ、何らかの武芸を極めた者が身体強化をした場合、それは一つの魔法と言っていい代物だ。むしろ魔法に頼らない分、厄介なことが多いとシュリから聞いた記憶がある。


(でも、シュリの稽古よりはましなはず!)


 地獄のような記憶を呼び起こして、ユーリはそう自分に言い聞かした。


 そして、その瞬間、仮面の男は視界から消えた。

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