蓮宮ユウリの8か月(1)
憧れを詰め込んだはずが、実際に主人公のようにはなりたくない、ギリギリのラインを攻めました。
がらがらがら……
私は扉を開けた。
昼休みでうるさく賑わっていたはずの教室が静まりかえる。
「久しぶり…!!!」
誰かが私に声をかけてきた。確かクラスメイトの女子で名前は前田シオンといっただろうか。
適当に無視しておこう。私はもう彼女と話す資格はないのだから。
だが次から次へとクラスメイトが私に話しかけてくる。よほど「私」は信頼があったのだろうか。
前田シオンと同じように話しかけてきた全員を無視した。ここまで態度を悪くしていたら明日には誰も話しかけてこなくなるだろう。
あ……しまった、教科書が1冊もない。
木曜日の5限目は確か数Bだったよな、数Bの授業では教科書はどれくらい使うのだろうか。もう少し情報を集めればよかったな…。
キーン…コーン…カーン…コー………
ん?!チャイムがなったのに何故クラスメイトらはまだ喋っているんだ???先生に怒られても知らないぞ…
「あっ予鈴が鳴った、授業まであと5分だねー、数B意味わかんなくて笑えてくるwww憂鬱〜」
確かあの女子は市原ヒメだな。日本には予鈴という文化があるのか…知らなかった……。
5分後、教室に数Bの担当の先生が入ってきた。確か名前は佐藤ユウ、このクラスの担任でもあったな。
ん?なんだかさっきから佐藤先生からのアイコンタクトが激しい。私の外見はさほど良くないはずなんだが。
「蓮宮さん……!来てくれたんですね、学校に」
ああそうか、そういえば私は8ヶ月も学校を休んでいた不登校な女子だったな。それにしても写真で見ていた通り、私の担任は随分イケメンみたいだ。
流石にこれは無視できないな…困った、どう話しかけるべきなのか分からない。学校に関するデータはかなり「見てきた」はずなんだが、、実際問題は想像以上に多いようだな。
まあ継父と接するときと同じようにしていればいいか。
「お久しぶりです。」
ん?なんか反応が微妙だな。なにか間違ったか?
「あ、ああ。元気だったか?」
なんだ、会話が成り立っているじゃないか。少しぎこちない気がするが…
「はい。」
先生はまた少しびっくりした表情をしている。私がなにか非常識なことをしたのなら誰かそう言ってくれないかな…まあそれは都合がよすぎるけれど…。
教科書のことを言おうとも思ったがもし貸してもらったとしてもあまり意味がないから言わないことにした。
今日の朝、教科書の内容は全て頭に入れておいたから。
私は8か月前、
記憶を失い、
完全に記憶することが出来るようになった。
次回をお楽しみに!