婚約破棄される悪役令嬢の取り巻きの取り巻きになりました。
18作目です。
よろしくおねがいします。
後書きが異常に長くなりました^^;
おっすおら男爵家次女。今婚約破棄会場にいるの。将来の夢は伯爵家侍女。じじょつながりでなんか格が上がった気分。名字が変わった感じで嫁に行くようなものかしら?
「王太子である俺は公爵令嬢との婚約を破棄し新たに聖女と名高い平民特待生ちゃんと婚約を結ぶこととする!」
さあ始まりました。平民特待生ちゃんを囲むように顔だけイケメンたちオンステージです。これが近年周辺諸国でも流行している婚約破棄フェスなのですね。ここは学園の卒業パーティー会場ですが一応未成年ということで酒類の提供は禁止になっています。成人式で酔っ払って暴れる若者が一定数いるので仕方ありません。そうでなくてもトラブルが多いのにパリピがウェイウェーイ!とやったら収拾つかなくなりますからね。
「どういうことですか?なにか私に落ち度でもございましたか?」
公爵令嬢さんが食い下がっていますね。え?助けないのかって?私は男爵次女ですが王家の直臣ではなく伯爵家の家臣ですからね。爵位自体の叙爵は王家が行っていますがもともとは伯爵家の家臣で、現在は寄り子という扱いですので王家は主君の主君という感じです。王家から見ると陪臣というやつですね。公爵令嬢さんは伯爵家のお嬢様の御学友というレベルなので双方とも助ける義務が有りません。爵位を考えてもお呼びじゃありませんからね。
「しらばっくれるのもいい加減にしろ。貴様が聖女ちゃんをいじめたことは調べがついている。聖女ちゃんの教科書を破いたり、机への落書き、制服の破壊に階段からの突き落としまでな!貴様のような心の醜い女を国母にするわけにはいかん。」
「作法についての注意をしたことこそあれ、いじめなんてしておりませんわ。そもそもこの婚約は王家からの要請で結ばれたもの。私だって国母なんてやりたくありませんわ。『チッうっせーな。反省してまーす。』とでも言ってほしいのですか?」
公爵令嬢さんも言いますね。フェスでサンドバッグにされるだけの最近の悪役令嬢とは一味違います。
「そっそんなことはない。だが民を大切にしない貴様は認められん。せいぜい反省して修道院にでも行くんだな。」
「婚約者も大切に出来ない男に言われる覚えはありませんわ。民を引き合いに貴族を貶めるとか馬鹿ではありませんの?良いでしょう。婚約破棄については了承いたします。こんな脳タリンと結婚しなくてすんで清々しますわ。」
いやあ、凛として気高い佇まい。さすがはお嬢様のご友人だけのことはありますね。王太子殿下が怯んでいます。そもそも公爵家と王家の実力差はそこまで大きくありません。公侯伯の領主貴族は軍権を持っていて場合によっては諸侯と言われることもあります。領地を持たない宮廷貴族とは実力に大きな差があります。貴族は王家の奴隷ではないのです。
単体で言えば王家は公爵家の2倍程度の実力でしょうか。なので公爵家が他の公爵家以上の家格の家と結びつくと容易に実力差がひっくり返ります。規模的には小さいですが我らが伯爵家も戦力や過去の実績では王家よりも見方によっては上なくらいですからね。その辺もわかっていないあたりやはりやはり節穴。
「侯爵令嬢!貴様も公爵令嬢の取り巻きとして聖女ちゃんへのいじめに加担したのは明白。よって俺も貴様との婚約を破棄する。」
おっと公爵令息さんが続きましたね。フェスと言うだけあって数組の男女が婚約破棄をするのが定番です。単独ライブでやらかすような場合もあるようですが・・・・。平民特待生ちゃんの逆ハー要員にでもなるつもりでしょうか。ちなみにこの公爵家はお嬢様の友人の公爵令嬢の家とは別の家です。紛らわしいですね。
「殿下。公爵令息くん。」
二人の顔だけイケメンを見て感動したようにうるうるした目を向けています。実にあざとい。それにしても平民特待生ちゃんは何時の間にか聖女に昇格しています。男をたらしこむ手練手管だけではなく恐るべき手口ですね。まあ所詮は顔だけイケメンだしこういうこともあるのでしょうが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「何も言えないようだな。無言は承認とみなす。」
「・・・・・・了。」
相変わらず侯爵令嬢さんは無口キャラですね。ショートメールなんか?まあ公爵令嬢さんのお茶会とか仲の良い人だけの集まりだと割としゃべるようですけどね。こんな無口キャラがどういういじめに参加したことにするんでしょうね。黙々と制服を切り刻む令嬢。怖いわ。普通は配下や取り巻きにやらせるんですかね。でもそれだと証拠がない。まあ証拠自体提出するような妖怪顔だけではないですけどね。なんか茸に思えてきた。顔茸。
「伯爵令嬢。貴様も聖女ちゃんをいじめていたようだな。そんな心の醜い女との結婚はできない。よって侯爵令息である俺は・・・」
やっと我らがお嬢様の出番ですね。この侯爵令息はさっきの侯爵令嬢の母違いの兄です。この瞬間を待っていました。かぶりつきの席は確保済みです。
「・・・・伯爵家の有責にて貴様との婚約を破棄し、あら「「「おめでとうございます!!!」」」たに男爵次女と婚約を結ぶことに・・・何?」
婚約を破棄するとの発言が出た瞬間に伯爵家侍女1号2号と一緒に飛び出し万歳三唱です。ついでに花びらも撒いて祝福します。ここまで耐えて準備して来た甲斐がありました。
「いや~良かった。良かった。婿入り伯爵が勝手に決めてきた婚約で2代続けてボンクラ当主を支えなければいけないのかと気が気ではなかったんですが無事問題解決です。事前に情報を掴んでいたとはいえ実行されるまでは不安でした。」
「三人ともありがとう。侯爵令息さん。婚約破棄の申し出は謹んでお受けいたしますわ。」
お嬢様がほほ笑みを浮かべられます。花びらの舞う中で咲く大輪の花のよう。尊い。ちなみに1号2号は一回り上の世代で、私はメイド扱いで侍女見習いです。
「おい、どういうことだ?」
侯爵令息さんが慌てていますね。
「どういうことだも何も侯爵家と伯爵家の婚約がなくなったことを喜んでいるだけですよ。ちなみにお嬢様は無実です。行動記録はきちんと私達でとっていますし、直接顔を合わせている相手には日付入りのサインも貰っています。特待生さんのいじめ関連の自作自演や生徒会室での特待生取り巻き連中との不適切な行為も魔道具で記録していますわ。不潔ですね。家政婦は見たというやつですわ!エスコートなどまともに婚約者の義務も果たさない事も含めてどちらが有責かすでに明白。」
お嬢様たち上級貴族の教室と平民である特待生ちゃんの教室は離れていますが、逆に私は下級貴族や平民のクラスなので彼女と一緒で行動監視ができました。ちなみに男爵家夫人のスペアで上にもうひとり兄か姉がいればもっと早くお嬢様の侍女になれたのだと悔しがっていた時期もあったのですが結果的に見ればよかったようです。
私がそう宣言すると公爵令嬢さんや侯爵令嬢さんもこちらに来ます。
「男爵次女さん。私達にもその記録を見せてもらえないかしら?」
「・・・・・・見せて。」
お嬢様の方を向くと頷いているのでお見せします。私の主はお嬢様ですからね。
「ではどうぞ。」
「うわあ・・・・これはひどい。」
「・・・・ひどい。」
何かを理解したのかお二方ともうなずいています。
「え?何が写っているの。」
男爵令嬢さんが青い顔で震えています。これからフェスに参加予定の下級貴族や騎士団の面々も一歩下がって離れています。まあ舞台に立った時点でギルティなんですけどね。
「これを公表すればどちらに責任があるのか最早明白。おとなしく非を認めなさい!」
そう言って魔道具を皆に見せるように掲げると、少し後ずさった王太子殿下が冷や汗を垂らして
「そんな適当なことではごまかされんぞ。証拠というのも捏造したに違いない。だが余計な情報が出回るのは良くない。者共その女達から魔道具を奪い拘束せよ!」
そう言って取り巻き男子たちをけしかけてきました。
ボグッ!ドカッ!バシッ!
「グハッ!」
「ゴハッ!」
「ブヒィ!」
なんか最後変なのまじりましたね。とりあえず近づいてきた先頭集団を叩きのめします。
「「「我ら3人、伯爵令嬢親衛隊!生まれた時は違えども、死すべき時は同じ。命が惜しくないものはかかってこい!」」」
侍女1号2号先輩たちと見事に決まりました。練習の成果が出ています。
「年齢違うんだから一緒に死んじゃ駄目でしょう。あとそんなんでも同級生だし殺しちゃ駄目だから。」
和尚様、違ったお嬢様からのお言葉がかかります。決め台詞にそれは野暮ですよ。そんなこんなでその後はちぎって鼻毛、違うちぎっては投げであらかた叩きのめすと3匹の首領に近づきます。
「わっ悪かった。いじめの件は取り消す。慰謝料も支払う。だから許してくれ・・・。」
尻もちをついた状態で謝罪してきました。あっ水たまりも出来ていますね。命は取らなくてもこれはもう男として死んだかな?そう思ってお嬢様を見ると
「そのへんにしてあげなさいな。やりすぎると私の婿探しにも影響が出そうですし・・・。」
「そのへんのことは問題ありません。伯爵家の一人娘であるお嬢様のお相手の婿候補はすでに見繕ってあります。5名ほど釣り書きを用意してありますのであとは見合いの日時を決めるだけですわ。」
「用意の良いことね。まるでお見合いおばさんのようですよ。」
お嬢様が私に変な二つ名を考えていそうです。
「お忘れですか。『伝説の仲人』と言われる伯爵家の女官長は私の大叔母ですよ。」
「え?ばあやってあの伝説を残した方なの?」
「そうですよ。だから大叔母様を無視して勝手に婚約を決めてきた婿入り当主への家臣のあたりが強いんです。」
そう言って説明をするとお嬢様も納得されたようで
「それはお父様もやらかしたわね。」
うなずいています。
「ちょっとよろしいかしら?」
公爵令嬢さんや侯爵令嬢さん、他にも今日のフェス参加予定だった令嬢達が集まってきます。
「私達、今日のことで婚約者をなくしたでしょう?よろしければあなたの大叔母様を紹介していただけないかしら?」
お嬢様を見ると頷いています。
「私の一存では決められませんが話は持って帰ります。悪いようにはならないと思いますが伯爵家内で話し合うことになるかと思います。というかこういう対応はお嬢様にお願いしますね。」
そう言って話を振るとお嬢様が慌てています。
「え?私?でもそう言えば男爵家出身だけどばあやはうちの家のものでしたね。お母様とも相談して後ほどご連絡いたしますわ。それより男爵次女ちゃんは私の元婚約者にプロポーズされていた気がするのだけれど?」
せっかくスルーしてたのに蒸し返された。
「嫌ですね。あんなあちこちで不貞を働いているような男に私が引っかかるわけないじゃないですか。跡取り息子でもまっぴらごめんなのに婿候補に迫られたって継ぐ家も無ければ平民落ちですよ。それに私は伯爵家の執事見習いくんと将来一緒になる予定ですし。」
「え?そうなの?全然気が付かなかったわ。」
お嬢様がちょっと驚いていますね。
「お互い見習いが取れたら結婚する約束をしているんですよ。結婚が先延ばしになるのは嫌なのでお嬢様も変な男に引っかからないでくださいね。」
「それはおめでとう。私も頑張るわね。」
「ではお嬢様、お願いします。」
そう言って場所を譲り、私達は三人揃ってお嬢様の後ろに跪きます。そしてエンガチョ3人組に向かって
「これにて一件落着!」
さすがはお嬢様。見事な締めです。素敵です。尊い!さすおじょ!
ちなみに特待生ちゃんも水たまりを作っていた。いや聖女だから聖水たまりか?ニュアンス的には同じかな?まいっか。
*
とある仄暗い一室
「王太子がやらかしたようだな。」
「問題ない。やつは4王子の中でも最弱。」
「伯爵家ごときにやられるとは王家の面汚しよ。」
「しかし公爵家との婚姻関係を失ったのはともかく、今回も例の男爵家を取り込めなかったな。」
「武勇、情報力、交友関係、すべて国の力を超えている。恐ろしい家だ。」
「伯爵家はともかく、奴らの力は侮れん。」
「確かに」
「しかし奴らの伯爵家の女主人への妄執は異常。侯爵家クラスの領地とともに三顧の礼で勧誘したが過去300年、一度も成功していない。」
「変態だからな。」
「変態だな。」
「だが我々は待った。これからも待てばいい。次の機会を待つとしよう。」
カサッ
「ん?何だ?こっこれは!」
「どうした?」
「この特徴的な緑色はそしてこの形は侯爵令息のアホ毛!」
「馬鹿な。ということはこの場所も連中に男爵家にバレているということか?」
「恐ろしい。当面男爵家への手出しは無用だ。会議の場所も変えたいがここが割れたということはおそらく他にも手が回っていよう。」
「くっ!無駄なあがきはするなということか・・・。」
「なんという恐ろしい奴らよ。」
「そうだな・・・。」
「では次の議題だが・・・・。」
今日も謎の会議は続いていく。
*
こうして無事パーティーを終えた私達は伯爵家の屋敷に帰ってきました。伯爵家の人間の他にも念の為姉も待機していました。
「お母様。只今帰りました。無事婚約破棄をされましたわ。男爵長女ちゃんも待たせて悪かったわね。」
「お帰りなさい。無事婚約破棄されるというのもどうかと思いますが、我が娘ながら平気な顔で帰ってきたのだから喜ぶべきかしらね。」
お嬢様は居間に入ると奥様と対面のソファーに腰掛けます。
「おかえりなさいませお嬢様。妹はお役に立てましたか。」
「ええ。まるでおまかせコースをお願いしたような感じでしたわ。さすがは男爵家ね。」
そう言ってお嬢様は微笑まれます。尊い。
「「もったいないお言葉。ところでそこのゴミムシの処理はどうしますか?」」
そう言って窓の方を見るとゴミムシいえご当主様が正座しています。
「そうねぇ・・・。この人も悪気があって勝手に婚約を決めてきたわけではないから『1日』ってところかしら。」
「「「了解いたしました。では明日の朝1番で吊るしておきますね。」」」
先輩侍女二人とそう言うとご当主様が泣き崩れた。嬉し涙だったと思う。
翌日伯爵屋敷2階の窓から『反省中』の張り紙とともに吊るされる簀巻き男がいたとかいないとか。
こうして伯爵家に平和な日常が戻ったのであった。
男爵家はどうかって?お嬢様が幸せなら幸せですがなにか?
登場人物紹介
伯爵令嬢 隣国の王家から少し年下の王子を婿に取る。配下に文を中心に家宰務める子爵家があり男爵家とともにリ伯爵家の両翼と言われている。陸上は別の伯爵家とのみ面しており海上交易が盛ん。領地の広さの割に繁栄しているので周辺から狙われている。何故か女児が生まれることが多い。
男爵次女 ほとんど忍者。伯爵家の影の戦力筆頭。男爵家は当主や当主夫人になる場合を除いて結婚相手は伯爵領内の名家の人間と結ばれることが多く伯爵家で働いている。旦那より当主より伯爵家の女主人第一。成績は実技(戦闘)を合わせてぶっちぎりの主席。男女別なので男子に戦闘能力が知られたのは卒業パーティーが初。
男爵長女 伯爵家の表の戦力の参謀役。個人の戦闘力にも優れる。婚約者も武人で婿入り予定。学園在籍時はやはり主席。
伯爵家女官長 伯爵令嬢のばあや。男爵家姉妹の大叔母。そのうち男爵次女が仕事を継ぐ。『伝説の仲人』の名は伊達ではなく今回婚約が破綻した20名の令嬢の仲人を請負い、すべて成功させた。以前の伝説と合わせて聖人扱いで王国内の女性から讃えられている。チートスキル『伝説の木の下で』を持っているとかいないとか。
3匹のエンガチョ それぞれ継承順位を下げられたりした。実家で冷や飯食っているが殺されたり前線送りになったりはしていない。それなりの相手と結婚して以前よりは低いもののそれなりの生活をしている。
平民特待生 聖女なら修道院よねということで叩き込まれ修道女になる。婚約が破綻した女性達が全員以前より良い相手に巡り会えたため5年ほどで許され還俗。学園の成績自体は優秀だったため商家の嫁としての生活を送っている。聖水を売ったりはしていない。『伝説の仲人』の敬虔な信者になり日々祈りを捧げている。旦那も伝説によって見つけてもらった。
秘密結社「3人参加で4王子」 実は元王太子は結社に参加したことはない。侯爵令息は会員。後年『伝説の仲人』の狂信者である王女たちによって壊滅させられる。その後王国は女性の爵位継承権と王位継承権が認められ第一王女が王太女として立太子される。