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公安機密:事情聴取ファイル  作者: 文月獅狼
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File.5

12件の殺人に8件の殺人未遂。被害者のうち、3人は男性教師。1人は家の近所の男性。4人は同じ高校の男子高校生で、3人は同じく同じ高校の女子高生。残りの9人は全員刑務所内の囚人であった。男子高生4のうち2人は今でも病院で療養している。男性教師3人、女子高生の3人は軽傷で済んだ。


「こんにちは。初めましてですよね?名前は、まあ、資料などを読んだなら知っていますよね。年齢も、身長体重なんかも全部。ここに来て知ったんですが、僕が一番多く人を傷つけたみたいですね。僕には不思議でたまりません。どうせ捕まるのに、なんで少数で終わるんでしょうか?一時の楽しみなら、もっと楽しめばいいのに。


ここに呼ばれた理由は、なんとなくわかります。僕は周りから見たら異常な犯罪者ですからね。研究対象になるのは仕方ありません。何でも質問してください。できるだけすべてに答えますよ。しかしこれだけは理解しといてください。誰であれ、皆一様に犯罪者になる可能性はあるんです。軽度であろうが、異常なものであろうが。理由だって人それぞれあります。ですから、僕みたいなのを逮捕して研究しても、ただの一つの例ができたというだけです。結局なんの役にも立たないかもしれません。


では、話しましょうか。と言っても、僕は単純な理由ですからね。本当に何の役にも立たないかもしれません。


僕は高校三年生でした。年齢は変わってませんけど、犯罪者になって学校をやめたわけですからね。今は違います。それで、高校三年生というと、やはり受験ですよね。周りが以前以上に勉強をするようになります。今まで遊んでいた人間も、見るからに頭の悪そうな人も始めます。皆自分の行きたいところ、たいていは国公立大学に向かって。僕はというと、二年生の後半あたりから始めました。特別頭がいいというわけではなく、かといって最底辺というわけでもありませんでした。中間あたりにいました。他の人と同じく国公立を目指していたので、それくらいから始めないと間に合わないと思っていたんです。親は今までいい成績を取らなかったことに怒っていました。一年のころからしっかりとやっていれば推薦で通ったかもしれないのにと。家に帰っては毎日、本気の説教ではなく警告程度の言葉が私に降りかかってきました。しかし僕は、それは嫌じゃなかったんです。笑って流していました。親もあきれながらも、それを認めていました。心の広い親に恩返しをしたいという想いで、僕は受験勉強を頑張っていました。


しかし理想と現実というのはかけ離れているものですね。基礎問題ができても、僕には応用問題などが難しかった。いくらやっても、数学なら数値が、英語なら一つだけでなく二つ構文が入っているだけでよくわからなくなっていました。それなのに周りは、僕以上にできていなかった人間も含めて全員どんどん進んでいってしまいました。僕は一人取り残されてしまいました。親の説教以上に、こっちのほうが僕にはつらかった。


そんな時、ある事件が起きました。僕の両親を、とある男が殺したんです。町中を歩いていた人を、何の変哲もない男が急に暴れ出して殺し始めたんです。それに巻き込まれてしまったんです、二人は。突然のこと過ぎて、僕には何も理解できませんでした。しかしただ一つだけ、確かに感じたものがありました。それは、その犯人が『うらやましい』、という感情でした。


僕らはまともに生きているせいで、受験やその先の入社試験などの苦しいことを我慢して乗り越えて生きている。そしてそれが終わったからといって、そこですべてが報われるわけではない。次は死ぬことに対する恐れを感じる余裕が出てくる。それが怖いから、今度はいざというときのためのお金をためなくてはならない。だから必死にクビにならないように働く。それが何年も続いた後、結局待っているのは死だけだ。


しかし僕の両親を殺した犯人はどうか?あいつは自分の望むようにナイフを振り回し、僕の両親だけでなく周りの人間も殺した。それなのに何も我慢する必要はなく、お金と食べ物の心配もせずに済む場所に入れられる。医療も無料で受けられる。衣類だってそうだ。むかついたら周りにサンドバッグが大量に歩いているんだから、そいつらを殴ればいい。そんな恵まれた場所に、悪いことをしたにもかかわらず入れてもらえる。


僕はいつしか、そんな犯罪者にあこがれるようになりました。受験なんかの圧力に耐える必要はないんです。理由はそれだけで十分でした。そして犯罪者になるなら、もう何かを我慢する必要はなくなりました。やりたいようにやればいい。結局捕まったって極楽に行けるんですからね。


まず初めに殺したのは近所の男でした。あいつはめんどくさいやつで、何も悪くない僕の父によく八つ当たりをしていました。自分の気に入らないことがあればすぐに怒りました。そして僕の母にはよく絡んでいました。何度殴ろうとこぶしを握ったことか。でもまあ、結局振り上げたのはナイフだったんですけどね。十分犯罪みたいなことをしていたくせに、結局一線を越えることのできない臆病者でしたよ。命乞いしかしませんでした。抵抗すれば助かったかもしれないのに。


その後一旦家に帰ると、血だらけになった制服を着替えました。実はその時学校に行こうとしていたんです。大家さんの親切で、僕が稼げるようになったら家賃をためていた分払ってくれればいいと、そう言ってくださっていたんです。おかげで同じ家に住むことができていました。と言っても、僕はその時もう帰るつもりはなかったんですけどね。


着替え終わると、僕は学校へ向かいました。歩いて最寄りの駅に着き、そこから電車に乗って学校近くの駅に着くと、また歩いて学校に向かいました。その時の時間はやけに長く感じました。楽しみすぎて。今まで何度も殺してやりたい、と思っていたやつを殺せるときがついに来たんです。心が躍らないという人のほうがおかしいでしょう。


学校に着くと、上履きに履き替え、自分の教室に向かいました。いつもの習慣のせいで、僕は速く学校についてしまいました。教室に標的はまだいませんでした。そいつが来るまでさらに数分待ちました。この時間もまた長く感じました。心臓は緊張でバクバク言ってました。


彼が現れても、僕は少し待ちました。彼が席について一息ついたところに話しかけて殺してやろうと、そう思ったんです。彼は前を通って、体の向きを変えると僕の横を通って自分の席に行きました。すれ違いざまに、彼は「え~い」などと言って勉強するふりをしていた僕の頭を叩きました。ムカつきました。こんな感じで、意味のないウザ絡みをよくしてくるやつだったんです。頭はよく、クラスではいつも上位のほうにいました。そしてテストの点などがよかったりすると、直接ではなく間接的にそれを自慢してくるんです。そしてなかなか成績の上がらない僕を、これも間接的にバカにしてくるようなやつでした。クラスだけでなく、他クラスでも彼は嫌われていました。


僕は立ち上がり、席に着いた彼に話しかけました。どれだけ嫌っていても、僕は今まで我慢して彼と話してはいました。ですから何の警戒もされませんでした。「おはよう」と言って話しかけました。そして彼が返してくる前に、一気にナイフを突き刺しました。あいつは何が起こっているのかわかっていないようでした。しかし周りにいた女子が気付きました。悲鳴を上げて僕を指さしていました。僕は大きい音が嫌いだったので、悲鳴を上げた彼女も一瞬で殺人の対象となりました。「うるさい」と言いながら僕は彼女に近づきました。僕がナイフを振り上げると、周りの男子が止めに来ました。僕の邪魔をするなら、彼らも対象です。一人を刺し、まだいた二人をナイフを横に振ったりして切って近づかないようにしました。その先には悲鳴を上げた女の子をかばうように女子が二人いました。間に挟まれる叫んだ女の子めがけてナイフを振りました。その時に両横にいた二人も切ってしまいました。それは少し申し訳なく思っています。


騒ぎを聞きつけた体育会系の男性教師が僕を取り押さえました。その中に僕の嫌いだった先生もいたんですが、さすがに大人のガタイのいい男性三人相手には勝てませんでした。傷はつけてやれたんですけどね。


まあ、そんな感じですね。刑務所に入ってからも、ムカついたりしたらそいつを殺してました。中には僕を殺そうとしてきたから思わず殺したというのもありました。しかし根本にあったのは、刑務所を出たくないという思いでした。あそこは僕にとって居心地がいいんです。それに、いまさら更生して外に出たって、結局またつらい世界に戻るだけじゃないですか。雇ってくれるところなんてそうないですし、雇ってくれても賃金が低い。そんな状況の中でまた我慢して生きないといけないなんて、冗談じゃないですよ。


でも、こんな僕でも続けていることはあります。刑務作業で得られたお金はすべて大家さんに送っています。両親の死後、引き取り手のない僕をあの家にとどめ、葬式などの約二週間はあそこに住んでいたわけですから。その分の家賃は払わないと。


おわりです。どうでしたか、僕の話は?こんな感じで、ちょっとした理由で犯罪に手を出すやつはいるんです。だから本当に犯罪をなくしたいなら、僕なんかを研究するよりも、学校もしくは家庭内の教育をしっかりとするように義務付ける。さらには世の中の形態を変えるなどするべきですね。そうすればお互いに怒ったりしないような世の中ができて、みんなが過ごしやすい世界ができるはずです。今でこそ犯罪者となって楽しい日々を過ごしていますが、時々考えます。世の中がもっと寛容だったら、僕はここにはいなかったのかな、と。


結果が出たら教えていただきたいですけど、僕がそこまで生きているという保証はないですね。そろそろ無期懲役ではなく死刑になるかもしれないので。ではまた」


聞き取り終了。


 どうも、文月獅狼です。

 宣言通り、3日間投稿できました。ですので先週の分の「ジャック・イン・東京」に関してはお許しください。

 この「公安機密:事情聴取ファイル」はまたそのうち気が向いたら書いていこうと思います。その進捗状況などをできるだけ書くので、ツイッターのフォロー、もしくは存在を知っておく程度でもいいのでよろしくお願いします。

 ではまた。

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